昇進メンタル
ワシは職場の送別会に来ていた。
何でも上司が栄転するだとかで、職員みんなが上司を褒めちぎっている。
ワシは上司のことが好きでも嫌いでもないのでその辺はどうでもよく、とにかく酒を飲んで気分良くはしゃいでいた。
「お酒グビグビっ!わーいわーい!あっはは!ここで一発芸やります!フレディ・マーキュリーのモノマネ!『ワシはフレディ・マーキュリー!ママ〜〜!!』」
やや顰蹙を買ったようだ。
嫌そうな顔をしている人が何人かいる。
クイーンが嫌いな人でもいたのだろう。
でも耐えきれずこっそり吹き出してる人もいたよ。
ワシはそれを見つけて、
「あっ!あなた笑ってんじゃん!ばれてるぞー!」
と言っておいしくしようとしたのだが失敗したらしく、更なる顰蹙を買ってしまった。
場が静まりかえった。
あるメンタルの貧弱な職員が、重たい雰囲気に耐えきれず切り出した。
「上司さんって、いつまでも若々しいですよね!」
そうですよね、と周りも同調すると、上司はすっかり気分が良くなっていた。
しかし、ワシは上司が若々しい理由を知っていた。
上司はヅラを被っているのだ。
ワシは、上司のもみあげがなんだか不自然な気がして、ヅラなんだろうなと予想している。
ワシは飲むと気が大きくなる。
「上司が若々しい理由、知ってますよぉ!それは…これだ!」
と言って、座っている上司の髪の毛を掴むと一気に引っ張り上げた。
すると、ブチブチィと音がした。
上司はヅラじゃなかったっぽい。
職員さんたちの悲鳴が上がった。
ワシはなんとか面白くしようとして、
「いや、ヅラじゃないんかい!」
と言って上司の頭をペチンと叩いた。
上司は冗談が通じない性格なようで、本気で怒り狂ってしまった。
「うわ、怒ってるじゃんこの人!」
と、ワシはビビって逃げようとしたら掴みかかられ、思いっきりどつかれた。
その勢いでテーブルの上のグラスに頭をぶつけ、ワシは入院沙汰になった。
ワシはその後、淡々と法的な手続きを行い上司を傷害で訴えた。
社内でもそれが問題になり、上司の処分が検討されたようだが、送別会にいた人たちの中に上司のことを責めるものはいなかったため、昇進が保留になった程度で上司の処分は終わった。
退院後、ワシは上司に言葉をかけた。
「まあ、人には誰でも過ちがあるし、ワシはもう気にしてないよ。あんまり自分を責めないで。」
上司は複雑な顔で黙っている。
不器用なやつだなと思い、ユーモアを利かせてやった。
「上司さん、そのヅラいいっすね!…ってヅラじゃないんかーい!」
そう言って頭を小突いてあげた。
ワシの処分が検討されることになった。
でも一人だけ、またこっそり笑ってしまったやつがいた。
「ねえ!あいつ笑ってる!あいつ笑ってるよ!」
と言って教えてあげた。
その人もちょっと周りに冷たくされがちになったみたい。
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