カリスマステップ

ゲームで、弱い装備で強い敵倒せるか挑戦!という類のものがよくあるけど、ワシにはあれの面白さが全然よく分からなかった。

でも今ならわかる。


ワシは幼稚園児の年長さんなんだけれども、同期にヤバい奴がいる。

そいつは喧嘩になると平気でナイフを取り出す危なきやつ。

それも、ちょっとネジが外れちゃってるせいで、とかではなく、ナイフの恐ろしさをしっかり理解し、ナイフで人を傷つける側にも伴う恐怖をがっつり乗り越えた上で振り回してくるの。

しかしながら、そいつは普段は優しきリーダーのような立ち振る舞いをする。

そのため全学年から「園長」と呼ばれたりしちゃって、恐怖を抱かせるだけでなく、尊敬の念をも少なからず集めていた。

いわばカリスマ的な存在とも言えよう。

凶暴な面がある癖して、そういう奴には支持者がいたりモテたりする。

その一方で、ワシは以前そいつにナイフを向けられた時にお漏らしをしてしまったことがあって、それを必死に雑巾で拭いていたら、有名YouTuberの影響で「〇〇キン」というあだ名が流行っていたせいで「ゾウキン」というあだ名になってしまった。

ワシは悔しくて悔しくて、どうにか一発逆転をしたいと考えていた。

出来るだけインパクトの強い仕返しがしたいと常に考えていた。

授業中も考えていた。

すると授業を聞いていなかったのを先生にバレて「バケツ持って廊下に立ってもらえますか!」と言われてしまい、「バケツとゾウキンだってよ!こりゃお似合いだわさ!」とクラス中から笑われてしまった。

クラス中が大笑いしてるのを先生が必死に制止しようとしても皆はなかなか静まらなかったが、園長が「みんな、笑うのはかわいそうだよ。」と言うと、ぴたりと静かになった。

そんな園長を見て、先生が「リーダーシップがあって偉いわねえ。」と言った。

園長は「まさか。身に余る。」と言った。

ワシは廊下で壁越しにそれを聞いていて、とてもとても悔しかった。

バケツの水はワシの血の涙で赤くなった。

その時、ピンと来たのです。

ナイフを振り回してくる園長を、ピコピコハンマーという間抜けで弱い武器で倒せれば、相当な屈辱を与えられるのでは、とね。

ワシはその日の夕方、ママがスーパーに買い物に行くのについて行って、ピコピコハンマーを土下座でおねだりして買ってもらった。

これで園長をぶっ飛ばすのだ。

そうすれば、園長はピコピコハンマーにやられるポンコツに早変わり。

そんな想像をして、こいつはさながら打ち出の小槌のようなもんだな、とピコピコハンマーを眺めた。

しかしなんと言ってもピコピコハンマーは弱い。

この低火力の武器で園長を倒すには、フットワークで翻弄するしかないと思った。

ワシは走り込みとステップの練習を積み重ねた。

鍛え続けること一年。

ワシら年長は、小学校一年生になっていた。

さすがにピコピコハンマーでナイフに対抗することを考えると、一年の時間は必要だった。

幸い、同期のほとんどが地元の小学校にそのまま進学し、園長も同じクラスになった。

舞台は整った。

今こそ園長に屈辱を、ワシに栄光を。

ある日、ついにワシはピコピコハンマーを手に登校した。

ゾクゾクすんだ。

ようやく園長をぶっ飛ばせると思うと。

ワクワクすんだ。

これからの6年間がワシの思い通りになると思うと。

バクバクすんだ。

勝利の喜びを待ちきれないワシの心臓が。

ピコピコハンマーを握る手に力が宿る。

ワシは教室の扉を開け、園長の前に立ちはだかった。

「よう、園長さんよ。今日はお前を倒すことにした。」

ワシはそう言ってやった。

すると園長は懐に手を差し入れた。

「おっと。ナイフならワシには通用しないぞ。」

ワシは自信満々に言い放った。

しかし、園長が取り出したのは拳銃だった。

ワシは驚愕し、恐怖で動けなくなった。

園長が銃口でワシの額に口づけするとともに、ワシの足元には水溜りが広がったのだった。


その一件以来、園長は全学年から「校長」と呼ばれるようになった。

一方ワシは、「ゾウキン」とか「ピコ太郎」と呼ばれるようになった。

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ワシ現実
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