嘘泣きガベル
言葉は日々更新されていくものだということを、ワシは知っている。
最近では、悲しい時に「ぴえん」と言うことになっているらしい。
ワシはしっかりと言っていきたいと思いました。
ある日、友人に会うと深刻そうな顔つきをしていた。
ワシは心配して声をかけた。
「どうしたんだい?死に損ないみたいな顔して…」
「…。実は、婚約者がちょっとね…重い病気にかかってしまったんだよ」
「それはぴえんだね…」
沈黙が流れた。
「聞こえてなかったのか?ぴえんだね…」
友人はムッとした顔をしている。
「あれ、滑舌悪かった?ぴえんだね」
「俺、本当に悲しんでるんだけど」
「え、だからぴえんじゃないの?」
「ぴえんっていうのは本当に悲しいときには使わないだろ」
ワシはなにを言われてるのか一瞬わからなかった。
「じゃあなにかい?ぴえんってのは、悲しいと言いつつも実は悲しんでいない嘘吐きによる嘘泣きのwordだったってのかい!?」
「いや、嘘っていうか」
「嘘の言葉を使わされて、嘘吐きにさせられたワシはどうなる!?どう補償される!?」
「…」
「いや、すまなかった。正しい意味を知らず嘘吐きwordを使ったのはワシだ。故意であれ過失であれ、ワシは悪の化身だ」
それからワシは悪の道を歩むことになった。
吐いた言葉は取り消せぬ…もう後には戻れぬのだよboy’s end girl's.
それからは犯罪に類するものは何でもやった。
下着泥棒、空き缶ポイ捨て、ピンポンダッシュ、チャリのサドルを抜いて代わりにブロッコリー刺す、殺し…etc.
ある日、明治神宮で賽銭を漁っていると、警察に捕まった。
ついにワシは裁判にかけられることとなった。
裁判長が「何か言うことは?」と尋ねたので
「本当に申し訳ございませんでした。」
と言うと、
「そこは"ぴえん"だろが!どこまで悪党なんだてめえは!」
と言ってガベルでワシの頭をしゃかりきに叩いた。
これにて閉廷。
※ガベル…裁判官が「静粛に」と言って叩く小槌。日本では使われていない。