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グラン・ブーケ
三菱一号館美術館の再開館記念の展覧会「『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ=カルレ」にお誘いいただきました。鋭い観察眼で人間・動物の本質を見抜き描いているロートレックの作品を楽しみながら会場を進んでいくと、思いもかけず『グラン・ブーケ(大きな花束)』に出会ったのです。
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オディロン=ルドン 1901年制作 『グラン・ブーケ』
1897年、ロベール・ド・ドムシー男爵が、ブルゴーニュ地方ヴェズレー近郊の城館の食堂装飾をルドンに依頼しました。
装飾画は1900年から1901年にかけて設置され、16点が現存します。
《グラン・ブーケ(大きな花束)》をのぞく15点は1978年に食堂から外され、現在ではオルセー美術館が所蔵しています。
当館が所蔵する《グラン・ブーケ》は食堂の装飾の中心であっただけでなく、ルドンが描いたパステル画としては最大で、装飾画の歴史上重要な作品です。
16点のうちこの1点だけが城に取り残されたままでしたが、制作から110年を経た2010年に三菱一号館美術館のコレクションに加わることなり、日本にやってきて私達の目を楽しませてくれています。
248.3 x 162.9cmの大きなカンヴァスに描かれた大きな花束のパステル画が飾られた男爵家の食堂では、誰がどんな洋服を着て何を食べどんな会話が交わされていたのか、想像が膨らみます。
目玉や蜘蛛、代表作「キュクロープス」などギリシャ神話を題材としたどちらかというと地味な色合いで不確かで不思議な絵を描く画家のイメージしかなかったのですが、50代以降この「グラン・ブーケ」のような花瓶に挿した溢れんばかりの花を鮮やかな色彩で描いた絵をたくさん残しています。画家にどんな心境の変化があったのかしら。
私がこの絵を知ったのは、2018年初夏のフラワーアレンジメント研究会で。その日のテーマが「『グラン・ブーケ』をいける」でした。40年来の私のお花の先生が三菱一号館美術館でこの絵に出会って虜になり、ミュージアムショップで購入した『グランブーケ』のポストカードを見せてくれました。ぜひアレンジメントで再現してみたいとの思いからテーマとなったのです。
用意されたのは青い器、そして絵から推測して揃えた花材で、姿形ですぐわかるひまわり、ガーベラ、あとは特定できず日本の初夏の花市場で入手できる似たお花達。
先生の熱い思いを汲み取りながら、120年前のブルゴーニュ地方で豪華に花瓶にいけられた花を描きあげたルドンに想いを馳せながら、私なりのグランブーケを生けてみたのでした。
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原画を観たいと思っていましたが、なかなか機会がなく月日が流れていきました。そして今回、旅先の知らない街の街角を曲がったら、懐かしい人にばったりあったような嬉しいご対面。2025年東京丸の内でめぐり逢えた僥倖です。