ハシの身辺雑記part2
そのとき、「要はおれは才能もないし、見放されたのか」と思った。それ以上なにか良いものを書く自信も気力もなかったので、なんとなく「終わった」と、思った。
何が、というと、夢を見失ったと、思った。
子供の頃から、やりたいことがあるようでない。スポーツもしたし、勉強も人並みにできたが、唯一の夢は「物書きになりたい」みたいな感じだった。
もちろんそんな考えが社会を舐めきった腐りきった考えである、と言いうることは十分に承知していた。
小学生のころ、村上龍の13歳のハローワークが、ベストセラーになっており、小説家の欄を見ると、「小説家は人間の最後の仕事で、他に何もできることがない、と思ったときになれば良い」というもので、もっと言えば、「小説家から他の職業に転職できることはなく、稀に政治家になるくらいだ」とのことで、実にそれは正しいと思っていた。
とりあえず他に仕事があるならそれをすべきだと思ったし正直、カルチャースクールに通いながら、「おれは社会のレールから外れていったいここで、なにをしているのだろう」と自問自答することが多かった。
ただ、ここまで来たのであれば、1つか2つは自分自身で納得のいく「書き物」を作って、人に評価してもらおう。それで、だめならきっぱり諦めよう。常々、そう思っていた。
工場のアルバイトでは、「正社員にならないか」と言われ、そのための試用期間がはじまっていた。
そんなある日、漫画の賞をとった当時の友人にご飯に誘われ、なんとなしに車のなかで話していた。
「おれ、いまの工場で、正社員ならないか、って言われてる」
その友人は、しばらく話を聴いたあと、車を停めた。
そして、「そうやってひとはみんな夢を諦めるんだよな」とだけ言った。
意外な気がした。友人であれば喜んでくれるかなと、どこかで思っていた。
彼は高校を中退しており、最終学歴は中卒だった。