(コラボ企画)伝説のアル中
その居酒屋は西成の某所にある。
そこには伝説のアル中がいるという。
「こんなとこまで来て大丈夫すか?」
ユキオは問いかける。
「google mapでは確かこの辺だ」
橋本さんはスマホを見ている。
「あった」
橋本さんは、スマホをポケットに入れ、立ち尽くした。
看板には、居酒屋「NIRVANA」とある。
「NIRVANAすか」ユキオが呟くと、「涅槃だな」と橋本さんは呻くように言う。感無量といった面持ちだ。
「大晦日に営業してるんすね」
ユキオは呟く。
暖簾をまたぎ、ふたりは店員らしき女の子に促されるままに席に座った。
「じゃあ、ハイボール2つで」
橋本さんが注文してくれた。
ほどなくしてハイボールが置かれた。
「どうも」橋本さんは、節目がちにしていたが意を決したようにマスターに話しかけた。
「すいません、伝説のアル中がいる店ってここであってます?」
マスターは長髪でメガネをかけた、いつぞやのジョン・レノンのような人だ。
「ああ、あの人はね、最初はお兄さんみたいに一見のお客さんだったんですよ
奥で飲んでる、というか飲まれてるね」
「なるほど、、」
橋本さんは腕を組む。
「伝説のアル中ってなんすか?アル中に伝説とかあります?」
ユキオが不躾に尋ねると、橋本さんは、「それがいるんだな、いたんだなここに」とまた呻くように言ったきり、話さない。
「ちょっとその方と挨拶ってできます?」
橋本さんが、立ち上がろうとするので、ユキオも立ち、ついてゆく。
ジョン・レノンのようなマスターは彼を店の奥へと案内した。彼が従業員専用との扉を開けると、そこには確かに、伝説のアル中がいた。
「これって脳ですか?」
ユキオは呟くと、マスターが説明してくれた。
「まあこの方は生前、大変にお酒が好きで、『自分が死んだらコーヒー焼酎みたいに脳幹を酒に浸しといてくれ』とおっしゃいましてね。でここにいらっしゃいます。いわば、アル中の究極の涅槃。ニルヴァーナですね」
「え、それって一種の死体遺棄みたいな、、」
ユキオが小声で呟くと、橋本さんが、シッと人差し指を立てる。
マスターはUSAと書かれた黄色い帽子を大きな試験管に乗せていた。
「この試験管の中の液体はあくまで焼酎ですからねえ」
マスターは呟く。
「伝説のアル中の焼酎いかがです?」
「え、これの中の液体のことですか?」
ユキオが尋ねるのを途中で遮り、橋本さんが即座に欲しいです、と言った。
マスターから小さなビンを受けとって、橋本さんはそれを大事そうにポケットにいれた。
「おいユキオ、挨拶すっぞ」
「何がです?」
「ニ礼ニ拍手一礼だ」
橋本さんは試験管の脳に、礼をし、パチパチと手を叩き、もう一礼する。
「神社みたいだな、、」
ユキオも真似する。
お会計を済ませ、帰り道、橋本さんは、ポケットからビンを取り出した。
「飲むんすか?」
「いや、風呂に塩と一緒にいれて入るわ、身体が暖まるだろ?」
「なんか御神酒みたいな使い方すね」
「いつかあんな風になれたらいいなあ、」
橋本さんが幸せそうに呟くのを、ユキオは不思議そうに眺めている。
「おい、前見て歩けよ」
橋本さんが注意する。
「あ、すいません」
ユキオは、慌てて、顔を逸らす。
酒飲みのレベルにも色々あるな、ユキオはひとり思う。スマホの時計を見るとちょうど夜中の12時だった。
*
挿絵にはdroooooooonさんの「肉体を捨てた西成のおっさん」を使わせて頂きました(^^)
快諾してくださり感謝です(^o^)
コラボすることになった経緯は、コラボ企画〜droooooooonさんwith ハシに乗ってますので、良かったらチェックしてください(^o^)