ワタナベは待ちながら

「待つこと」はワタナベ姓に生まれた者の宿命といえる。

五十音順で組まれる出席番号は、いつでも大トリだった。「タナベ」でしかも「リコ」。被りがちなワタナベ姓の中でも、無敵といってよかった。高校3年生のクラスでは、何を思ったのか、学年に3人いたワタナベが全員一クラスに集められたのだが、それでも私はトリを譲らなかった。

クラス替えをして一番最初のポジションは、いつでも廊下側の一番後ろの席。教室全体がとてもよく見える。

健康診断、体力テスト、テスト返し……どれも基本的に最後なのだが、特に焦らされたのはクラス替えの発表である。

新クラスの発表は、担任の先生が一人ずつ読み上げていくスタイルだった。「青木くん、2組。赤井さん、7組。……」といった具合に。

発表が進むにつれ、だんだんと新生活を共にするメンバーが明らかになっていき、教室の熱気は高まっていく。誰の発表の後にも「ウオー!」とか「わぁ、よろしくね!!」みたいな歓声が上がる。

この流れで、最後までドキドキさせられるのがワタナベだ。これがけっこう悩ましい。焦らされた挙句、結局、誰が同じクラスなのかイマイチ把握しきれない。新しい教室に机を運び、定位置から教室を眺めた時にはじめて「あ、あの子また同じクラスだ」と気づいたりする。


そんな風にワタナベは待つ。文化的背景によって待つ訓練が施される。だからか、私はいつでものんびり待てる。

いま、私はライティングスクール「バトンズの学校」のフィードバックを待っている。32名の受講生が提出した課題に対し、講師・古賀さんが非常に細やかな赤ペンを入れてくださる、その名も「1000枚のフィードバック」。

そのフィードバックも今回で最後だ。返却の順番はランダムだというが、どういう偶然か、直近2回の返却はいずれも私がラストだった。今回ももう既に28名の返却が済んでいるが、私の課題はまだ戻ってきていない。

予感している。多分今回もトリなのだ。

けれど全然かまわない。さっき書いたように、私は待つのが得意だ。最後の一人になることは、(偶然にしろ、)鍵閉めを任されているかのようで、誇らしさすら感じる。

それに、必ず来るとわかっているものを待つ時間って結構幸せだ。古賀さんは必ず丁寧なフィードバックをくれる。その楽しみをとっておけるのであれば、ラッキーじゃないか。

だから古賀さん、あまり焦らないでくださいね。

昨日の古賀さんのnoteを読みながら、そんなことを思った。



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