「セックスワークにも給付金を訴訟」:東京地裁判決を受けて
判決は請求棄却
本日(2022年6月30日)、「セックスワークにも給付金を訴訟」において、東京地方裁判所(岡田幸人裁判長)が請求棄却とする判決を下しました。
判決は、国民の大多数が性風俗産業を性的道義観念に反すると思っており、性風俗事業者への持続化給付金支給も国民の理解を得られないとするものでした。
なお、「国民の大多数」とか「国民の理解」と言いますが、意見の募集も投票もアンケートも実施したわけではありません。証拠にもとづいて合理的判断を下すべき裁判所が、証拠もないのに国民の意見を勝手に持ち出さないで欲しいです。
本訴訟の資料は、すでに「Call4」のホームページに掲載されていますので、ここでは個人的な意見を書いていこうと思います。
納得できない点
日本国憲法14条には、すべて国民は法の下に平等であり、政治的・経済的に差別されないことが明記されています。
しかし、本訴訟においては、そもそも国が適法に事業を営んでいる法人を性風俗事業者だからといって職業差別したわけです。国が最高法規である憲法に堂々と背いたわけですから、権力の暴走を許さないために国民が声をあげるという点でも、本訴訟はとても重要で意義のあるものだと思います。
ところで、最も納得できないのは、「国民の大多数」とか「国民の理解」と言って、多数派の意見を持ち出して差別を容認している点です。
そもそも、多数派が少数派の権利保障をないがしろにしがちだからこそ、人権の砦であり司法による合理的判断が重要なのではないでしょうか?
それなのに、今回の判決のように、多数派の意見だからと言って司法が職業差別を容認してしまえば、もはや司法の存在意義はないと言っても過言ではないでしょう。
今回の判決が及ぼす影響
国や司法による判断は、人々による道徳観や差別意識に大きな影響を及ぼします。
今回の判決は、適法に事業を営んでも、行政の対策に協力しても、国が恣意的に不健全だと判断すれば差別が容認され、様々な支援を受けることもできなくなる・・・そういう恐ろしい事態が今後も維持・再生産されることを意味しています。
そして、これは決して性風俗事業者だけではなく、たとえばセクシュアリティを専門とする研究者や性表現に関わるアーティスト、さらには直接性に関わらない分野で働く個人や事業者にとっても、国が不健全と言えばたちまち様々な支援から排除され見殺しにされてしまう恐れがあるのです。
それだけヤバい判決なのだということを、危機感を持ってより多くの人に知ってほしいです。
さいごに
元セックスワーカーとして、今回の判決は心が打ちのめされるほどショックでした。
他の仕事と同じように頑張って、誇りを持って続けてきたし、たくさんのお客さんにも喜んでもらえた。性風俗産業で稼げたからこそ性別移行もできたし、大学にも通えた。
その仕事を国だけでなく司法からも不健全と言われ、馬鹿にされるのは耐えられません。不健全なのはセックスワークではなく、職業差別する国であり、それを容認している司法です。
少なくとも、私は今回のような不当な職業差別を絶対に許しませんし、今後も原告や弁護団を応援し続けたいと思います。たとえ国であろうと司法であろうと、おかしいと思ったことにはおかしいと言い続けます。
さいごに、現在は参議院議員選挙の最中です。候補者のみなさんには、ぜひ今回の判決についてコメントして頂きたいです。人権の砦である司法が職業差別を容認していますので、国会できちんとこの問題を議論して欲しいです。