絶対に無痛分娩で出産したかった私が、無痛分娩を検討している方に伝えたいこと
私は2019年に無痛分娩で出産しました。無痛分娩という手段がなければ、妊娠そして出産することはなかったと思います。
これは、絶対に無痛分娩で出産したかった私の執念の記録です。すべては公開されている情報で、特別なことは何もありません。でも、もしかしたら無痛分娩を検討している方に何か参考になる点があるかもしれないと思い、noteにまとめることにしました。
無痛分娩を希望する全ての女性が、痛みから解放され安全に出産できますように、心から願っています。
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そもそも出産はなぜ痛いのか?無痛分娩とは何か?などの基礎的な知識は、日本産科麻酔学会の一般の方向けページにある「無痛分娩Q&A」を参照。
痛みを感じてこそ云々…に代表される外野の雑音は華麗にスルー(耳を貸す価値もない)。
夫が反対派の場合は「お前が産め」もしくは「バースプランにアステカ式って書くね」で(個人的には妊娠前の確認を推奨)。
日本における全分娩に対する無痛分娩率は8.6%(2020年度医療施設(静態)調査)。そのため「どこで産むか」(分娩施設の選択)が非常に重要。
私が強調したいのは、無痛分娩「も」やってる施設ではなく、無痛分娩「を」やってる施設を選ぶこと。
そして、自分にとって譲れないポイントは何か考え、それ以外は妥協する覚悟を持つこと。
(私の場合は、確実に安全な無痛分娩ができること>>>(越えられない壁)>>>自宅からの距離>母乳orミルク、母児同室or別室、個室、食事・エステなど)
ちなみに、ちょっと横道にそれますが、「無痛分娩」の明確な定義はない(と思う)。同じく「和痛分娩」の定義もない(と思う)。
「『無痛』って言ってたのに痛かったじゃないか!」というクレームを回避するために「和痛分娩」という表現が生まれたのでは?と思っています(このあたり詳しい方いたら教えてください)。
それゆえ、無痛、和痛という言葉にこだわるよりも、具体的にどのような麻酔をどのタイミングで使うのか確認したほうが良い。あっちの病院のHPは和痛って書いてあるけど、こっちは無痛って書いてあるからこっちにしよ!という選び方はおすすめしない。
まずは候補となる施設の情報を幅広く集めましょう。
現時点で無痛分娩の取り扱いがある施設がもっとも網羅的にまとまっているページは、厚生労働省の「小児・周産期医療について」に掲載されている都道府県別「厚生労働省のウェブサイトに掲載を希望した無痛分娩取扱施設の一覧」というPDFです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186912.html
ただし、このリストでは「妊婦希望による無痛分娩を行っているか」「硬膜外麻酔による無痛分娩を行っているか」など、超重要なポイントがわからないため、あくまで参考程度にながめるのがベター。
上記+αの問題点をカバーした無痛分娩実施施設の情報が公開されているのは、JALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)の「全国無痛分娩施設検索」というページです。
https://jalasite.org/area/
JALAって何?という方は、設立の目的が記載されたこちらのページを参照。
https://www.jalasite.org/vision
JALA HPに情報を掲載している施設は、(少なくとも)消極的にではなく無痛分娩を行なっており、かつその事実を積極的に公表しようとする意思があると考えられるため、一定程度信頼をおいて良いと思います。
通院可能な地域に掲載施設があれば、非常にラッキー。ここに掲載されている施設は有力な候補になります。
でも、なくてもあきらめないで!
JALAに情報を掲載するためには、各施設のHPにも同内容の情報を載せることが条件となっていて(妊産婦が情報を探しやすくするための配慮としてJALAが各施設にHPの改定を求めています)、HPの更新に時間がかかっているなど様々な理由からJALAへの掲載が間に合っていない施設もあります。
通院可能な地域に掲載されている施設がない場合は、厚生労働省HPのPDFを参考に「地域名+無痛分娩」で検索して、候補となる施設を広く集めましょう。
ここからは、リストアップした施設情報から、どのように施設を選ぶのか、集めた情報をどう解釈するか、そのポイントについて。
これはあくまで素人の一個人の意見、雑感です(念のため)。
一番最初に確認すべき一番大事なこと。
「妊婦の希望による」無痛分娩を行っているか。
前述の厚生労働省HPのPDFに掲載されている施設の中には、「医学的適応がある場合のみ」無痛分娩を行っているのであろう施設が散見されるので要注意。
次に、麻酔の種類、基本中の基本だけど超重要。
「持続硬膜外麻酔」による無痛分娩か?
笑気ガス、筋肉注射、ブロック麻酔、精神療法(瞑想、ソフロロジー)などでは十分な鎮痛は得られない(たまにこういったものを「無痛分娩」と銘打っている施設があるため要注意)。
続いて、無痛分娩対応可能な日時。
残念ながら、24時間365日対応可能な施設は非常に少ない(特定の曜日のみ実施していたり、1日当たりの実施数を制限している施設も多い)。
また無痛希望の場合は、計画誘発分娩とする施設も多いが、その場合計画予定日前に陣痛が起こったときは無痛対応が可能なのか要確認。
そして、安全面について。
ご批判覚悟で申し上げますが、医師が複数人勤務していない施設はできれば避けたい(いわゆるクリニックに多い)。が、地方によってはこの要件を許容しないとそもそも選択肢自体がなくなってしまうこともある(これは無痛分娩に限定したことではなく、日本の周産期医療体制を考える上で非常に大きな問題です)。
各施設の医師の人数は、厚生労働省HPでもJALA HPでも確認可(それだけ重要な指標だということ)。なぜそれほど重要か、理由を一つあげるとすれば、緊急時対応においてマンパワーは絶対だから。危機的出血への対応時、まず第一にすべきは人手の確保とされています(産科危機的出血への対応方針2017)。
https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_Sanka_kiki.pdf
この事実をよく考えて。
そして、麻酔は誰が管理するのか良いのか問題。
無痛分娩には、産科医のみが関与している施設と産科医・麻酔科医が関与している施設がある。JALA HPに掲載されている施設であれば、それぞれの人数の内訳とどちらの医師が麻酔を管理しているのか確認可。
麻酔科医が麻酔を管理してくれるのであれば、それはベター。しかし、経験を積んだ産科医が担当してくれるのであれば、私は必ずしも麻酔管理者は麻酔科医でなくても良いと思います。
麻酔科医はただでさえ数が少なく、産科専門の麻酔科医はさらに少ない。ごく一部、「産科麻酔科」を標榜しこの分野に非常に力を入れている施設もありますが、多くの施設はそうではない。現時点で、麻酔管理者を麻酔科医に限定してしまうと、ほとんどの施設では無痛分娩を行えなくなってしまいます。
(ゆえに、JALAは「麻酔管理者」を置き、その役割を明確にすることで、必ずしも麻酔科医が関わらなくても「安全な無痛分娩の提供体制」が構築できないか、模索している模様)。
それから、コロナ禍ゆえに確認しておきたいこと。
それは、麻酔科医が無痛分娩に関与している(いた)施設で、「麻酔科医不足による無痛分娩の取扱中止」となる事態が発生したことです。
限られたリソースの配分という観点からは理解できなくもありませんが、もし自分が当事者だったら…?今は非常事態だから仕方ない…と思える人はそれでもよいでしょう。でもそうではない方は、施設としてこのような事態が起こりうる可能性があると想定しているのか、事前に確認しておいたほうがよいと思います。
これは各施設の中で、無痛分娩をどの程度優先すべき事項と考えるか、というポリシーの問題です。多くの施設は感染者数が増加し緊急事態宣言が発令されても無痛分娩を実施してくれていました(本当にありがとうございます)。
では具体的に、無痛分娩「を」行っている施設をどう選ぶのかという点ですが、当然といえば当然なのだけど、全経膣分娩に対する無痛分娩の割合が高い施設を選ぶということです。JALA HPに掲載がある施設なら計算できるし、厚生労働省HPに掲載がある施設なら全分娩数から帝王切開数を引いた値を全経膣分娩数として計算しましょう。
私が無痛分娩率の高い施設を選んだほうが良いと考える理由は2つあります。
ひとつは、無痛分娩をスムーズに管理する経験の蓄積があるから。
陣痛は子宮を収縮させるけれど麻酔は逆に弛緩させるので、「痛みは取れているけれど分娩は進行している」というバランスを保つには経験値がモノをいう気がします。あとはやっぱり、スタッフの「慣れている」感は大事。
それから、もうひとつの理由は、「痛みをとってほしい」という願いを叶えようとしてくれるスタッフに出会える確率が高まるからです。コウノドリでも、無痛分娩に対するスタッフのネガティブな発言が描かれていたけれど、それと同じことがやはり現実の世界でも起きています。
JALAが設立された目的は、安全で妊産婦の自己決定権を尊重した無痛分娩とその質の向上を実現することです。
https://www.jalasite.org/vision
大事なところなのでもう一度繰り返しますね。
安全で「妊産婦の自己決定権を尊重した」無痛分娩とその質の向上を実現すること。
出産に関わる主な専門職は、医師(産科、麻酔科)、そして助産師、看護師ですね。けれど、助産師を代表する職能団体はJALAのメンバーに入っていません。
https://www.jalasite.org/welcome
この事実が何を意味するのか、よく考えて。
結局、無痛分娩でない経腟分娩が多数派を占めている施設では、それでもなんとかなっている。好んで使いたい表現ではないが「痛みを乗り越えられている」。そうして、そういう妊産婦をスタッフは毎日毎日みているわけです。
ゆえに、「痛みをとってほしい」というシンプルな願いが、特別なリクエストになってしまう。数はパワーになります。どうしても小さな声は届きにくく、かき消されてしまいがちになります。もし闘うパワーがあるのであればそうしてもいいと思う。でも、妊娠中は精神的に不安定になることも多いので、避けられるリスクは避けたほうが良いと私は思います。
「無痛分娩に対して、スタッフがネガティブな態度をとらないか」
この部分に関しては数字で明確に示せる指標がないので、「痛くないほうがいい!」「痛みをとってください!」と大きな声で言える(自分が集団の中でマジョリティとして位置づけられる)環境を選んだ方が安心だと私は思います。
そして、いろいろと条件をあげたけれど、もし近隣に無痛分娩を扱っている施設がなくても、どうかあきらめないでほしい。
「近隣」をどう考えるか、意見がわかれるところだと思うけれど、私が無痛分娩をした施設では、新幹線で片道2時間かけて通院していた人はいました。そして、それは特別珍しいことではありませんでした。
調べれば、飛行機の距離を帰省して出産(コロナ禍では難しいかもしれませんが)、同一県内でもマンスリーマンションを借りて産前産後はそこに滞在して出産という経験談はたくさん出てきます。
何を大事にしたいか、すべては個人の価値観なので私が何か言うことではないのだけれど、すごいスピードで状況は良い方向に変わっていると感じるし、これからはもっとそうなると思います(なんといっても、JALAが設立されたことはとても大きな前進だと思う)。
そして、無痛分娩を希望する一人一人の選択がそれを後押しすることになる。未来は必ず今よりももっと良くなる。
私は、もし自分が出産するなら無痛がいい!絶対無痛じゃなきゃ嫌だ…!と思い始めて10数年後、無事に無痛分娩で出産することができました。それはさまざまなラッキーが重なったからでもあるし、自らの選択でその確率を高められたからだとも思っています。もし「無痛分娩で出産したい」という思いを抱えている方がいたら、それを叶えることができる環境は整いつつあります。だからどうか、あきらめないでほしい。
希望する全ての女性が痛みから解放され、安全に出産できることを心から祈っています。
このnoteが少しでも何かのお役に立つことができたなら、望外の喜びです。