『石がある』という映画を見た
『石がある』という映画を見た。
先週の木曜日、大学の研究室の机に元町映画館の上映スケジュールが置いてあるのを見つけた。
元町映画館。商店街の中にあるミニシアターだ。通りかかるたびに今度時間あったら行ってみよーと思っていて、気になってはいたけど利用したことはなかった。
アルバイト先に近いので、バイト終わりに今度行ってみるか、と思って上映スケジュールを見る。ちょうどよい時間帯に、少し気になる映画。「意味や目的から軽やかに抜け出す、現代のヴァカンス映画」という紹介文にも惹かれ、バイト後にチケットを買いに行った。
その日は上映開始日を記念して、終演後に監督と主演俳優二人の舞台挨拶もあるということを、映画館に着いてから知った。ラッキー!と思いチケットを購入。開場時間まで映画館前のフライヤーに目を通しながら待つ。所謂“商業映画”の仰々しい広告とは違い、やっぱりアートワークも凝っていて素敵なものが多いなーとか、次はこれ見てみようかなーとか思いながら。
映画は好きなほうだけど、思えば映画館に来ること自体久しぶりで、ミニシアターも人生で2回くらい行ったことはあったけど、ミニシアターならではの良さをそこで感じたことが特になかったし、「この作品に出会えてよかった!」みたいな出会いをしたことがそこではあまりなかったので、最近は映画はもっぱらサブスク派になっていた。
開場時間になり、中に入る。舞台挨拶の日ということもあってか、思っていたよりも人は多かった。
映画のストーリーはいたってシンプルで、小川あんさん演じる女性が、川辺で加納土さん演じる川辺で水切りをしている男と出会い、川をひたすら歩く、というおはなし。
100分間、特に何も起こらないし、展開と呼べるような展開も、何一つない。前半は特に、これから何か起こるのかなあとか、心をぐっと掴まれるような会話劇がこれから始まるのかなあ、とか少し期待していて、それでも特に何かが起こるというわけでもないので、正直(肩凝ってきたなー)とか思いはじめていた。
それでも特に何も起こらない。ただ川辺で、二人の男女が楽しそうに遊んでいる。特に会話があるわけでもない。お互い自己紹介らしきことすらせず、川辺の石や枝で子どもみたいに遊んでいる。前半は少し退屈だなと感じていたのが、そうやって遊んでいる二人平凡だけど美しい川辺の風景を眺めているうちに、その世界感に次第に溶け込まれていくような感覚になった。
こんなふうに時間も忘れて人と遊んだのなんて、もういつからやっていないだろう、と考える。中高生のとき、毎週土曜日の習い事の帰りはお決まりで友達と集まって、あほみたいなことしてふざけて、誰かの恋愛の話で盛り上がったのとか。数年前に友達数人とドライブし、帰りがけの夕日がやけにきれいで、途中ビーチで車を止め、暗くなるまではしゃぎまわったのとか。好きな人とコンビニで缶のお酒を買って、飲みながら何時間も長い長い散歩をしたのとか。
最近では友達と遊ぶことはあっても、そこでやることが目的的になっていて、こういうふうに時間も忘れて夢中になって遊んだり、歩いたりするの、あんまなやってないなあーと思って、過去のあの時間がなんか急に愛おしく思い起こされて、そこに一緒にいた人たちのことも思って、なんだか少し胸がきゅっとなった。
「意味や目的から軽やかに抜け出す、現代のヴァカンス映画」という説明書きの時点で、余白や何もしないこと、子どもみたいに夢中になって遊ぶことの尊さみたいなことがこの映画のメッセージ何だろうな、ということは察しがついていた。でも、それを映画のメッセージとしてダイレクトに受け取るというより、100分間の体験を通して、その感覚が自分の記憶や感情と自然に結びついていった。映画を“体験する”という感覚は、これまで味わったことがなかったかもしれない。映画ってこんな風に心にしみ込んでいくんだ、そう感じた。
こんなに愛おしくて少し切ない誰かの一日の体験が、作品になり得るんだから、映像作品という芸術と私たちの日常との境目なんて、実はあまりないのかもしれない。というか、そういうリアルを、技術を通して作品というかたちにするのが、芸術なのか、、、とか考えて、芸術としての映画というものに、初めて興味がわいた。
結局最後まで、二人の名前や職業は明かされない。「川に投げてしまった石」をめぐる二人の心の機微も、鑑賞している私たちの想像の中に留まっている。(ここから少し映画の内容になるが)二人が分かれ、男は帰宅し、彼の家が描写されるシーンがある。(本棚にずらりと並ぶ本、家族の仏壇、冷蔵庫の麦茶、日記、、、)それまではなんか素性の知れないおじさんだった男が、その描写一つで、彼なりの人生がある一人の人間として、私たちのもとにぐっと迫ってくる。
舞台挨拶後はサイン会があるということだったので、パンフレットを購入し、湯上りみたいなぽかぽかふわふわした気持ちのまま列に並んだ。自分の番が来て、何を話せばいいんだろうーってまごついてしまって、「いやーなんか…感動しました」って言ったら、監督が「この映画で感動する人いるんですねー」って笑ってた。いや、いるんですよ!感動というと少し大げさな響きかもしれないけど、おいおい涙を流すような大げさな感動じゃなくても、もっと緩やかにじんわりと心にしみ込んでくるような、作品から鑑賞者への一方通行ではなく、作品そのものとそれを見る人の経験から生まれる、インタラクティブな、そういう感動。
ミニシアターに来るのもほぼ初めてなんです、って言ったら、「僕が助監督している『SUPER HAPPY FOREVER』もうすぐ公開なので、よかったらぜひ」とおすすめしてもらった。ちょうど開演前にフライヤーを見つけて気になっていたやつだった。「見に行きます!」と返事をしてその場を去る。
この映画のことを話そうと友達に「素敵な出会いがあってさ…」と言ったら「なに?好きな人でもできた?」って言われたけど、そのくらいのときめきだった。
このじんわりとしたあたたかな気持ちを忘れたくないし、もっともっとこういう素敵な出会いがある方向に進んでいこう、常に感動が期待できる場所に行こう、と改めて思った日でもありました。
太田達成監督、小川あんさん、加藤土さん主演の『石がある』という映画です。よかったら調べてみてね。
これを機に、ミニシアターにもっと行こうと思いました☺︎