小さな私
小さいとき住んでいた家は、ボロい、狭い平屋の家だった。トイレはぼっとんトイレだったし、黒電話もあった。
私は平成生まれなので、そういう家に住んでいる友達は少なかった。
でも、私はあのボロい、狭い平屋の家が好きだった。
家の裏には竹林があって、野良猫や蛇がしょっちゅう庭をウロウロしていてわくわくしたし。
お庭では、思いっきり穴を掘って、そこに水をためてどろんこ遊びも出来たし。
秋、庭中に落ちた落ち葉で焼き芋もしたのも、庭の柿木から柿を採って食べるのも好きだったし。
鳥小屋を木に括り付けて、そこに来る鳥に餌をあげるのなんて、わくわくの極みだったし。
低い塀の上をうんていのように歩いたり、屋根の上に登って遊ぶのも楽しかったし。
お庭に咲いていたすずらんの花は、妖精が出てきそうなくらい可憐だったし。
何より、家族皆の距離が近かったから。私のその狭い平屋に六人で住んでいた。
祖父、祖母、父、母、兄、私。狭い部屋に六人。
でも、小さい私は家族が六人居ることが自慢だった。
四人家族はたくさん居たけど、六人家族はなかなか居なかったから。
六って数字がすごく自慢に感じていた。
何より小さい私は家族皆が仲良しに思っていた。
もう少し大きくなるまでは、自分の家族にある問題には気が付かずにいたから。
何も知らずに幸せだった小さな私。
何も知らずに家族を愛していた小さな私。
でも、小さな私は、少し淋しさを感じていたんだよね。幸せいっぱいのはずのお家で。
だから、家の中の物置の部屋の誰もわからない場所に隠れたんだ。
“ねぇ、私が居なくなったら、探してくれる?”
小さな私の小さな反抗。.......犯行?
悪いことをしてるみたいで、すごく心臓がドキドキした。ママ、パパを困らせるなんて!
初めは気付かなかった家族も、そのうち私が居ないことに気が付いてくれて、探してる声が聞こえてきた。
私は、物置の、誰もわからない場所から、その声を聞いて、心底嬉しくて、安心したんだ。
私、ちゃんと必要とされてるって。
そして、物置で遊んでたら寝ちゃってたってフリをして、物置からでたの。
ママやパパの安堵の顔。私すっごく嬉しかったの。嬉しかったけど、とてもなんだかずっと淋しいの。
今も、淋しいの。
淋しさの理由に気が付くのは、もう何年も後のこと。