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小笠原一人旅【旅行記:3日目】

7月7日 金曜日 七夕

2日目後編はこちら

【3日目 前編: イルカと泳ぎたいの巻】

① 南島

午前3時30分、アラームが鳴る。

日の出観測のために昨日の私が設定したのだった。

自分で設定したのに、アラームが鳴って時計見たら早い時間だったとき、なんかちょっとイラッとする。
そういうことってないですか?

とにかく今朝の私はご機嫌ななめで、

「いや、今日の天候くもりって言ってたやん。どうせ朝日なんか拝めるわけないのによ」

「てか今日、9時集合で一日ツアー予約してるやん? こんな時間に起きたら絶対しんどいやんか」

などと十分に自分自身に言い訳をして、スマホを抱っこしながら再び眠りについたのであった。


7時ちょっと前。

周りの部屋の人々が、朝食のためにバタバタと階段を降りていく音で目覚める。

みんな、ありがとう。
私の目覚まし時計になってくれて。
(ふつうに二度寝用のアラームかけてなかったから、危なかった)

とりあえず、昨日買っておいたパンをむさぼる。
外へ出たらまあまあ晴れていた。
物干しに干していた昨日の水着なども、すっかり乾いている。

着替えと準備を済ませ、ツアー用のお昼ご飯を求めて佐藤商店へ。
お弁当が一個だけ残っていたけれど、船酔いの可能性と汁漏れが気になったので、スルーして菓子パンを買った。

シュノーケルセットを原付に積み込み、集合場所の青灯台へ向かった。
早めに着いたので、大村海岸を散歩しながら写真を撮る。

浜辺に咲いている黄色いオオハマボウという花は、ハイビスカスの仲間らしい。
道ばたには赤いハイビスカスもたくさん咲いていた。
街路樹がハイビスカスって、とってもすてき。
沖縄ではアカバナーと呼ばれているけれど、小笠原特有の名前もあるのだろうか。

砂浜では、まっくろに日焼けしたスタイルのいいおじいちゃんが、いっちにっさんっと元気よく体操している。
肉体にも動きにも一切の無駄がない。
父島で暮らしてたら、ものすごい寿命が伸びそうである。

そろそろ時間なので、集合場所へ。

今日一緒に約6時間半のツアーに参加するのは、私を入れて5人。
そのうち1人は9ヶ月の赤ちゃんだ。
ずっとお母さんにだっこされてて、むちむちあんよがかわいすぎる~さわりたい〜~

ボートに乗り込んだら、まずは「南島」という無人島を目指す。
小型船ということもあって、まあまあの揺れである。
たぶんこれ、最初気持ちいいけど途中からあかんくなるやつや。

悪夢の修学旅行が脳裏をよぎる。
高速船に乗っていた生徒のうち、実に8割以上が船酔いで吐いた。
当時好きだった理系男子はしっかり酔い止めを飲んできたそうで隣の席で涼しい顔をして座っていたけれども、当時から準備の悪いJKだった私はしっかり撃沈した(オブラート)。

惨劇は繰り返させない。
念のため酔い止めを飲んできた今日の自分を褒めてあげたいと思う。

そうこうしているうちに思ったよりあっさりと南島へ到着。
上陸できるのは、ガイド引率ありの一日100人までと決まっているそうだ。
湾に他に船はないから、もしかしたら私たちが今日の一番乗りなのかもしれない。

岸にカツオドリが巣を作っていて、黒っぽくて大きな親鳥と、まっしろでふわふわのひながいた。

一眼レフとシュノーケル、マスクを手に持って、いよいよボートを降りる。
フィンは邪魔になるので置いていく。
崖のような丘を登る途中の地面にオナガミズナギドリの巣がいくつかあり、枝の隙間から覗くと、黒い羽を綺麗に閉じてじっと座っていた。

かわいい~~
小笠原、かわいいものだらけや~~(人間の赤ちゃんを含む)

登るうち、なんか空が晴れてきた。
あつい! 
南島、あつい!!

汗をかきながらようやくてっぺんに到着して、ガイドさんに促されるまま後ろを振り返ってみたら、絶景。

いやこれ、すごいよ。
扇池って呼ばれているらしいけど、池とは?って感じで、池の概念ゲシュタルト崩壊寸前、思考回路もショート寸前よ。
ゲシュタルト崩壊の使い方まちごうてたらごめんなさいよ。

珊瑚のかけらで出来た純白の砂浜になめらかに続く、エメラルドグリーンからサファイヤへ移行する海のグラデーション。
外の海とをはっきりと分ける自然にできた岩のトンネル。その穴から覗く真っ青な空。

こんな池、どんな池!?
(暑さで脳がやられている藤原)

あ、言い忘れてたけど、今回の旅行で撮った写真はすべて、旅行記が終わった後にまとめて一記事として公開いたしますので、今はご自身の想像力のみでお楽しみくださいませ。
写真見たとき想像と現実が全然違ったら、完全に私の表現力のせいやけどな。フフッ(なぜか得意げ)

絶景をひとしきりカメラに収めたあと、別のツアー客たちとすれ違いながら、登って来た道を降りる。
ラビエでとげとげごつごつしてるから、マリンシューズを履いていても足の裏がちょっと痛い。

それにしても、日陰というものの存在しない世界、やばい。
ドット絵のドラクエみたいに縦一列になって歩きながら、みんな呪いをかけられたように「あつい、あつい」しか言えなくなっている。

蒸発しかけたパーティはすんでのところで扇池まで辿り着き、シュノーケルの許可を得て海に飛び込んだっ!

……つめた~

想像の倍はつめたいよ~

えーん

そろそろ「うるせえなあ。いちいち大げさだなあ」とお思いでしょう。
違うのよ。ほんとなのよ。
水が冷たすぎて周り見ても入れない人ばっかりだったもん。
ほんとだもん。うそじゃないもん。
おかげさまで天気はいいので、気合いでシュノーケルしてたらそのうち平気になってきたけれども。

あと、どさくさにまぎれてはだかんぼの赤ちゃんだっこさしてもろた。

まあそんなこんなで、砂浜に大量に転がったヒロベソカタマイマイ(1000年以上も前に絶滅したらしい)の半化石も見つつ、南島をあとにしたのであった。

② ドルフィンスイム

さてさて、今日のツアーの目玉はやっぱり、ドルフィンスイムですよ。

イルカのいるポイントはだいぶ沖の方らしく、海の色が紺碧になるくらいまでボートで移動。

ガイドさんがボートを減速させながらイルカを探してくれているので、参加者はシュノーケルセットを身につけ、船べりに座ってスタンバイ。

「ハイッ、飛び込んで~! 今すぐ飛び込んで~!!」←めっちゃでかい声

ガイドさんの唐突な掛け声で、慌てて海に飛び込む。

すると目の前にたくさんのイルカが!

えっ、こんなに近く!?

カチカチカチ
ピィ〜
きゅーきゅー

って、
クリック音もホイッスル音もめちゃくちゃ聞こえる!!

感動~!!!!

私、私、やっぱり魚かも~~!(願望)

ミナミハンドウイルカの姿が見えなくなったらいったん船に戻って、少し移動して飛び込むといったことを何回か繰り返し、ドルフィンたちと存分にスイムした。

次に、ポイントを大きく移動して、船の上からハシナガイルカの群れを観測。
ハシナガイルカはミナミハンドウイルカと比べてだいぶ小さいから、人間と一緒には遊んでくれないらしい。
見た感じ、水族館によくいるカマイルカと同じくらいのサイズだった。

その後は船の上でお昼ご飯を食べてから、釣浜、製氷海岸を回ってシュノーケリング。
いや釣浜、ボートからエントリーするのめちゃくちゃ楽やん。
今日は昨日より水が冷めたかったけど、ぶるぶる震えながら珊瑚礁の海を満喫した。

お昼ご飯のとき、同じツアーの方が「今日は佐藤商店には弁当が3つしか入らんかったらしくて~これラスイチだったんよ~」とおっしゃりながら、私が今朝スルーした弁当を召し上がっていた。
めちゃくちゃ汁漏れしてたけど、美味しそうだった。
スイムに次ぐスイムでおなかぐーだったので、パンだけじゃ足りない。
くっ。

15時30分、青灯台に戻って解散。

【3日目 後編: 七夕の別れ】

① 胸騒ぎ

嫌な予感がする。

そう思った。

スターウォーズファンなら、この意味がお分かりなるに違いない。

いやな予感がする。
iPhoneくんの様子がおかしい。

思い返せば、船の上にいるときから変だった。
ものすごい勢いで電池が減っていっていたね。
でも、気のせいだって思いたかった。
君とお別れしたくなかったから。

水中でイルカを撮ってたときも、側にいてくれたね。
それがよくなかったのかな(それだろ)。
知らないうちに君に無理をさせちゃっていたのかな。

それとも、ケーブルじゃ水濡れエラーが出て充電出来ないからって、親切な島の人にワイヤレス充電器を借りて無理矢理充電しようとしたのがよくなかったのかな(完全にそれ)。

君は白い光をビカビカさせて、そのあと一瞬緑色の光を放って、そして沈黙した。
あれが君の見せてくれた最期の光だったのかな。

————iPhoneがやばい。
絶対にやばい。
私はそう確信した。

しかし今は、夕日の時刻が迫っている。
苦渋の決断。
iPhoneを鞄にしまい、デジタル一眼を肩から掛けて原付バイクにまたがった。

(頼むっ…)
(止まるんじゃねえぞ……)

② 藍の海に日は落ちぬ

18時。
ウェザーステーションに到着。
今日の日の入り予定は18時29分なので、太陽はまだ水平線よりずっと高い位置にある。

晴れてはいるものの曇がそこそこ薄く広がっているためか、集まっている人はあまり多くないし、高台にあるのでいい感じに風が吹いて心地よい。

そっとスマホを取り出して念のため確認したけれど、電源は入らなかった。
溜め息をついて、一眼のキャップを外す。

デジタル一眼を手にしてはや5年。
私は未だにマクロレンズしか持っていなかった。

マクロレンズは、その名の通り接写に適した単焦点レンズなのだけれど、カメラのレンズって高価すぎて一般人はそういくつも買えないのだ。
日頃から、この十数万はした超いけてるマクロレンズで、なんでも撮っちゃう。
花も景色も人も。

だからきっと今日の夕日だって撮れるぜ!
と、半べそをかきながらカメラを構える。

おっ、割といけそうじゃない? 

待つこと十数分。

徐々に沈みゆく夕日は、雲の切れ間からときおり顔を出して、それはそれは美しいコーラルピンクに空を染めていった。

水平線、赤から紫にかけた線状のグラデーション。

さっきまで青々としていた精悍な顔つきの海が、優しい色合いのおだやかな表情に変わっていくようすは、とっても良き眺めであったのだ。
写真も頑張ったからお楽しみになのだ。

すっかり暮れたので、いったん宿に戻ってふて寝した。

21時半にもそもそ起きて、とびうお桟橋に向かう。
そこでは、絶滅危惧種である「シロワニ」というワニみたいな名前がついた顔の怖いサメが、陸上からも見られるというのだ。
すごくない?

にわかには信じがたいわ~と思いながら海面をのぞき込むと、ふつうにいた。
しかも思ったよりでかい。
なんかネムリブカとエイも来た。

波止場のコンクリートの縁に腰掛け、海に足を投げ出してぶらぶらさせる。
ふと隣を見ると、昼間スーパーで出会った短髪イケメンのお姉さんがいた。  

べっ、べつに好みの女性だったから覚えてたわけじゃないからねっ!!

2日目前編に書いたとおり、小笠原の街は狭いのだ。
滞在中にいろんな場所で何度も同じ人とすれ違うから、相貌失認気味の私ですら(特徴のある人だけは)覚えられる。

余談だけれど、小笠原の観光客は圧倒的に仕事を引退したらしきご年齢の方々が多い。
その次に、プロひとり旅ラーっぽい女性たち。
若者はちょっと珍しいから目立つのだ。
船旅で24時間かかるうえに海が荒れて帰れないリスクもあるので、かなり日数に余裕がないと難しいからだと思う。

しばらくサメを眺めているうち人がぱらぱらとやってきたので、退散して大村海岸へ向かった。

実はこの時期、大村海岸では夜通しウミガメが産卵しているので、運が良ければその様子を見られるという。
ただ、人がいると産まずに帰ってしまうことも多いらしく、発見してもそっと見守らないといけない。

もちろん、ライトをぴかぴかさせるのも厳禁。
まっ、私は持ってないからその点安心だけどね!

浜辺を30分くらい、行ったり来たりとさまよったけれど、なかなか巡り会えない。

「と、諦めかけていたそのとき!」(脳内ナレーション)

何やら数人が左方向へ走っていく。
とりあえず私も追いかける。

いた。

めちゃくちゃ大きいお母さん亀が、のそりのそりと海へ帰ろうとしている。

卵を産んだ後だろうか。
そうだといいな。

たまたまその場にいた数名で、亀が海に帰るのをそっと見守った。
なんか妙な連帯感を抱いたのは私だけじゃないはずだ。

シロワニもウミガメも見られたので、大満足で眠りにつこう。

今日は七夕。
私の知っている東京の七夕は、いつも雨。
織り姫と彦星は雨が降ると会えないという。
本当は、天の川のずっと下で降っているはずなのに。

小笠原では、天の川が年中見られるらしいから、二人はいつでも会えるね。

私はもう元気なiPhoneに会えないけどね・・・・・・

【3日目 終わり】

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