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ウパちゃんの思い出

今年の夏、10年間我が家の洗面器で暮らしたウーパールーパーのウパちゃんが旅立った。高校生の時に私が縁あって譲り受けてきた子で、私が結婚して家を出てからは弟が面倒を見ていた。

ウーパールーパーの寿命は10年程度というのはあらかじめ知っていたし、実家に顔を出すたびに立派だった鰓が少しずつ小さくなっているのには気づいていたので、弟から死んでしまったとLINEが来たときは、特段驚くでもなく、とうとうその時が来たかと冷静に受け止めた。それでも、夫にウパちゃんが死んでしまったと伝えながら涙が出てきたので、やっぱり悲しかったのだと思う。

ウパちゃんはただ狭い水の中にひっそりと暮らし、時折ぷかりと浮上して餌を食べたり口を開けたりする毎日。偶に水面の向こうから人がのぞき込んだり、餌が降ってきたり。一番賑やかなのは水を変える時くらい。私は、いったいこの子は何を考えて生きているのかしら、と不思議な気持ちでいつも眺めていた。

ウーパールーパーはのほほんとした、悪く言えば間抜けな顔をしている。離れた目はほとんど見えておらず、嗅覚を頼りに生きている。だから、目の前の餌に食いつこうとして空振りになることも多い。間抜けな顔と相まって、その様子はなんともいじらしい。飼い主のことなんて認識していないと思うが、むき出しの赤い鰓を時折パタパタして、こちらの呼びかけに反応しているように見えるのも可愛い。しかし活発に動くのはごくまれなことで、普段はほとんどずっと動かずにじっとしている。とはいえ、ふと見るとさっきと体勢が変わっているから、確かにゆっくりと動いているんだなと思う。

この前実家に行ったとき、ウパちゃんの洗面器が置いてあった場所は、10年も陣取っていたとは思えないくらい跡形もなく綺麗に片付けられていた。あの子の人生(ウパ生?)は、ほんの直径20センチ程度の世界で完結していたのだと、あらためて突きつけられた。

君には世界がどんな風に見えていたのだろう。幸せな10年を過ごせたのだといいのだけれど。10年間、私と家族を癒してくれてありがとう。

ピンクの身体にピンクの洗面器だった

#エッセイ #ウーパールーパー #ペット #思い出

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