20年越しの童謡の深み
家で過ごす時、よく音楽を流している。コロナ禍で在宅勤務が主流だった頃は、好きなクラシック音楽かジャズピアノばかりを流していたが、最近は童謡を聞きながら子供をあやすことがある。
20年以上ぶりに聞いた曲でも不思議と歌えるもので、スッと歌詞が出てくる自分に驚く。そして自分で口ずさんでいながら、その歌詞の深みにハッとさせられるのだ。
例えば、アンパンマンの原作者であるやなせたかしが作詞した『手のひらを太陽に』は名曲として名高いだろう。
戦争を体験しているやなせ氏から生み出される歌詞からは、生きることの本質がまっすぐに伝わってくる。子供向けに平易な言葉で書かれているが、平易だからこそ、そのメッセージがしっかりと伝わるのだと思う。
この曲は小学校の教科書に載っている名曲であり、広く知られている。幼いながらに、当時の私もこの歌の凄さを感じていた。だが、この曲以外にも、幼い時に何気なく聞いていた楽しい童謡の中に、深い歌詞のものがたくさんあるということに最近になって気づかされているのである。
20年越しに特に強い印象を与えた曲をひとつ紹介したい。『ぼくのミックスジュース』という歌だ。
ここでは1番の歌詞だけ抜粋したが、全部で3番まである。その全てで2つの前向きなことと1つの嫌な出来事が出てくる。1番の嫌なポイントは「こわいゆめ」、2番は「けんか」、3番は「すりきず」。それぞれ子供の世界によくある微笑ましい出来事だが、重要なのは2つの前向きなことと合わせてミックスジュースにして飲んでしまうという点だと思う。ミックスジュースにして「ググッと」飲んでしまう、この表現が示す意味は何だろうか。
生きていくということは、良いことも悪いことも受け止めて、それでも毎日楽しい出来事を期待しながら過ごしていくことの繰り返しなのだ、と教えてくれているのだろうか。毎日色々なことが起こるけれど、一日一日ちゃんと気持ちをリセットして翌日を迎えようね、ということだろうか。
大きくなって世界が広がっていくにつれて、人との関わりも広がり、様々な出来事が起こる。毎日を過ごしていく上で、気持ちに折り合いをつけ、清濁併せ呑んで過ごしていかないといけないことも多いだろう。良いことも悪いことも混ざり合った毎日は、まさにこのミックスジュースみたいだ。この曲は、実は大人から幼子たちへの頑張れよというメッセージかもしれない。
実際のところ、作詞をした五味太郎氏がどのような思いでこれを書いたのかはわからない。しかし、子供をあやしながらこの歌詞の深い意味に気づいた時、私は真剣に次の世代のことを想って歌を作ってくれたことへの敬意が湧いてきた。
私は20年以上の時を経て、ようやくこの歌詞の意味に気付いた訳だが、まだ生まれたばかりの我が子も、いずれこの歌の深みにハッとする時が来るのだろうか。少し複雑な気持ちで、今日も子供をあやしている。
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