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新卒一年目から転職を考える意義について、六年目が答えてみた。

ゴールデンウィーク、この春社会人になったばかりの弟が遊びに来た。姪っ子に会いに来るという名目で訪ねてきたのだが、もっぱら話題は仕事のことだった。

欧米のカルチャーを比較的強く反映している私の会社に対し、弟の職場は官公庁。私とは全然違う、かなり特殊な環境であることは想像できた。しかし、話を聞くと予想を上回る面白びっくりなことばかりだった。"びっくり"の具体的な内容は控えるが、弟としては、覚悟していたもののイマイチだなと首を傾げてしまう点もあるようだ。話を聞く分には面白いが、当事者は楽しんでもいられないだろう。

「こんなつもりじゃなかった!辞めてやる!とかはないけど、長い人生を思って、転職サイト見るようになったよね。僕もイマドキの若者だよね」
と弟は自嘲した。

少し先に社会人をやっている私としては、実際に転職するかどうかはさておき、他の環境で自分が通用するのか、長い人生の中で自分が目指したいものは何か、といったことを考えるうえで、転職サイトを見ることは良いことだと思っている。自分の市場価値を常に意識し、今いる環境で何を学び取れるか、あるいはもう高止まりなのか、この意識を常に持っておくことは大事だと伝えた。かくいう私も、社会人になって以来ずっと、転職サイトやLinkedinを見ながら、今の会社にいることの意義と転職する意義を天秤にかけ続けてきた。

「そうして転職サイトを見ていく中で、興味を持つポジションの募集があったとする。今の自分に目指せそうだな、目指したいなってなったら、試してみればいいんだよ。逆に『ああ、今の自分はお呼びでないな。どんな知見があったらいけるだろう?』とか『結局やりたいことに近いのは今の職場かな』とか思うかもしれない。それはそれで冷静に頭を整理できるから、転職サイトを見るのはいいと思うんだよね。」

「うん、まさに転職サイトを見て冷静になれたよ。冷静になったら、短絡的に転職サイトを覗いた自分が浅はかだったって若干自己嫌悪(笑)」

今、私は転職サイトやLinkedinの求人情報を見るのを止めているが、それは妊娠、出産をして仕事を休んでいるからだ。端的に今は転職を考える余裕も必要性もないからであって、仕事に復帰したら、職場環境への課題感や新たな業界への興味が湧いてくるなどして、きっと見るのを再開する。

「自己嫌悪になることはないよ。今後会社員を辞めたとしても、『このままでいいのかな』とか『環境を変えた方がいいのかな』って思って、大胆なキャリアチェンジした人の話とか色々読んじゃうんだよ。きっとそういうもんなんだよ」
と私は言った。

その瞬間瞬間でどんなに納得のいく決断ができたとしても、また少し経てば自問自答が始まり、時には自信を無くしながら、色々な人の話を聞きながら生きていくのだと思う。そんな年月が随分長いこと続いていくんだなあ、と遠い目になってしまう。

「あとさ、『こんな事やるためにこの仕事についたんじゃない!』って怒ってる同期もいたんだけど、この考え方、姉ちゃんはどう思う?じゃあ上の人たちがやっているような高度な仕事を今すぐにできるかって言われたら、まだ入りたてだから無理だもんなあって僕は理解してるつもり」

「そうだね。月並みな意見だけど、焦らずに、まずは与えられた仕事をしっかりやることだよね。まだ入社してひと月じゃん。やれるよって言われていた仕事が実は嘘でしたそんな部署ありません、とかだったらさっさと辞めた方がいいけど」

「そうだよね。でもまあ、その同期の言わんとすることもわかるんだよ。下っ端だから、やりたいと思う業務からほど遠い位置にいるもどかしさかもしれないけど」

「うんうん。最初は仕事の全体感とかが見えないし視野も狭いし、いろいろ意気込んで就職しているだけに、なかなか割り切れないかもね。でも、最初に与えられた仕事っていうのは、一年目にやらせようと先輩が思って振ってきている仕事ってことだよね。見方を変えると、高度な仕事ができる年次の人が一年目の仕事をし続けているのは、それはそれで問題でしょ?ある意味職務怠慢と言える」

「どういうこと?」

「月給制や年俸制の仕事をしている人に対して時給換算で話をするのは非本質的かもしれないけど、1時間2500円もらえる能力の人が1時間1000円の人でもできる仕事をするのは、単純に1500円分簡単な仕事をしてその1時間を過ごしてるってことじゃん?勿論、凄く急がないといけない状況とかで、時給1000円の人が1時間かかる仕事を2500円の人が15分で片付けられるなら、その限りではないけど」

この考え方は、先輩からの受け売りである。先輩となったら、若手にできる仕事はたとえ自分の方が早くできるとしても、できる限り積極的に若手に回して、先輩として自分はより難しい仕事を引き受けるべきなのだ。それが、より多くの給料をもらっている立場の責務なのだ、と。

「そう考えると、今の部署のメンバーで一番時給が安いのは僕たち一年目だから、上の人たちじゃなくてもできるような仕事こそ引き受けた方がいいんだね」

「まあ、健全な職場であることが大前提の理論だけどね。慣れてくれば少しずつ難しい仕事はやらせてもらえるし、あなたの場合は、否が応でも時がたてば次の一年目が入って来るわけだし。逆に、単純な仕事もちゃんとできない人に、より難しい仕事はやらせたくないよ」

「たしかに!」

更に言うと、単純な仕事でもやり方ひとつで成長度合いは大きく違う。例えば、弟は会議の資料を紙で用意しなければならず、言われた書類を大量に印刷して一つのフォルダにまとめていくよう言われたらしい。その時、ただ印刷してファイルに入れるのではなく、それぞれの資料がどういう書式やレイアウトで作られているのかを見ることはできるはずだ。じっくり資料を読み込めなくとも、こんな感じでこういう資料を作るんだな、ということが頭に入っていれば、いざ書類を作る立場になった際に多少なりとも参考になるかもしれない。そうした小さな積み重ねが後々役に立つことを、私も今だから言える。今だから…

弟はきっとこれから、転職サイトを覗くだけでなく、ほかの会社に勤める同世代の友達と話したり等する中で、自分のキャリアに対する考え方や価値観も明確になったり変化したりするだろう。そういう中で自分の職場を冷静に見ながら、転職する決心や今の環境に留まる選択をしていくのだろう。大事なのは、常にアンテナを張り、環境を変えることもそこに留まることも平等に選択肢として持っておくことだと思う。そんなことを改めて考えながら、私は育児休職中の社会人6年目を過ごしている。

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