君は薔薇より美しい
先日、たまたま見たテレビの歌番組で、歌手の鈴木雅之が名曲をカバーしていた。昭和の歌謡曲からYOASOBI等最近の曲までカバーしており、各曲のオリジナリティを残しつつ全て鈴木雅之の歌になっていて、とても面白かった。ほかのカバー曲も聞きたくなったので、早速彼のカバーアルバムをiTunesで手に入れてランダム再生で聞き流していると、布施明の「君は薔薇より美しい」のカバーが流れてきた。
言うまでもないが、「君は薔薇より美しい」は1979年リリースの布施明の代表曲だ。平成一桁生まれの私でも知っている、昭和の歌謡曲を代表する一曲だろう。
過去の名曲特集といったテレビ特番で必ずと言っていいほど流れているし、ニコニコ動画でその圧倒的な声量が話題となったこともあった。それゆえに、若い世代でもあの歌声を知っている人は多い。
布施明の、マイクを遠くに離し音吐朗々と歌う姿は、素直にかっこいいと思う。ダンディとはまさにこのことだ。そして、その曲をサングラスをかけた鈴木雅之が歌うと、これもまた、布施明とはまた方向性の違う、セクシーな曲になっていると感じた。カバーアルバムを聴く面白みである。
そういえば、まだ学生の頃、当時付き合っていた人がこの曲を好きだと言っていた。余裕のある大人の男という感じがしてかっこいいのだと。
彼によると、この曲はきっと別れた元カノに久しぶりに会った男性が、素敵な大人の女性になった彼女を見て、その美しさを真っすぐに讃えているのだという。別れた女性に久しぶりに再会して、というシチュエーションは聞けば分かる。でもそれがどうやって、彼の言う余裕のある大人の男感につながるのか、単なる「焼け木杭に火が付いた」シチュエーションではないのか、私にはピンとこなかった。
「君は変わった、って清々しく言い放つあたりが、過去は過去、今は今、っていう感じで吹っ切れている感じがして。今は別の人、もしかしたら奥さんがいて、その人と凄く幸せなんだよって言っている感じがしてさ。今が幸せだからこそ、過去の女性を薔薇より美しいって言い切ることができているんだろうなって思う。その清々しさというか、素直に言える姿に大人の余裕を感じるんだよ。」
なるほど、確かに過去を引きずっている男なら、君は変わった~、とダイナミックに歌い上げる感じはそぐわないかもしれない。ここまで清々しく歌い上げられたら、焼け木杭に火が付く、等と昼ドラみたいな展開にはならなさそうである。
「ああ、君は益々きれいになったね、元気そうで何よりだよ、じゃあまたね!って声をかけて普通に同窓会を後にしそう。」
それくらいいつも、今が一番楽しくて満たされているっていう風に生きたいものだね、と彼は自嘲気味に笑っていた。
こんなやり取りを思い出しながら、私は、鈴木雅之のバージョンだと、もしかしたらこの後ホテルに誘うかもしれない雰囲気だな、と思った。それもそれでドラマとしては面白い。
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