スマホで撮る意味
先日、子供を預けて久しぶりに夫と2人で美術館へ行ってきた。
普段の美術館と違うザワついた空気が、夏休み中だったことを思い出させた。とりわけ暑い日だったこともあり、展示室の真ん中に置かれたソファで汗を拭き拭き休憩している人も多い。
私たち夫婦は混み合った場内で互いの位置を何となく気にしつつも、それぞれのペースで絵を見始めた。
見始めてすぐに、妙な気配を後ろから感じた。サッと避けると、私の後ろにいた女性が素早くパシャパシャとスマホで絵画を写真に撮った。
"え?何?気に入った絵だった?てか、絵画の写真って勝手に撮っていいの?"と、私は内心動揺した。美術館の展示を撮影するのはマナー違反なのではないかと思ったのである。
気を取り直して絵を見ていくと、やはり時々写真を撮っている人を見かけた。絵そのものの写真を撮る人もいれば、解説文のところだけを撮っている人もいる。中には、インスタグラムのストーリーで撮影した絵画を投稿している様子が見えた人もいた。撮影をする人は周りの邪魔をしないように、前の人の頭と頭の間から素早く確実にスマホをかざす。見事である。
しばらく行くと、現代美術の映像展示のコーナーに至った。そこには撮影禁止のマークがついていた。なるほど、と言うことはこのマークのない絵は特に撮影禁止というわけではないのか。
"でも、展示物の写真を撮るのってコンサートで録音したりする行為に近いのでは?"と私はやっぱり釈然としなかった。
少々集中力を削がれたまま、私は全ての展示を見終えてお土産売り場に辿り着いた。私たち夫婦はいつも、その日見て気に入った絵画のポストカードを買って帰る。観賞の記念として、また、家の本棚やデスクのちょっとしたスペースに飾って楽しむためだ。
この日は2枚購入した。本当はもう少し買いたかったのだが、どうやらこの展覧会はあまりポストカードを作っていないらしく、種類が少なかった。気に入ったにもかかわらず、どんなタイトルだったか、誰が描いたものだったか、ポストカードを手に入れられなかった絵は、次第に忘れ去られていく定めである。こう言う時、気に入った絵をパッとスマホで撮っておいたら、確かに良いのかもしれないな、と展示室で見かけた人々を思い出した。
私は、同じ20代女性の中ではスマホで写真をあまり撮らない方だと思う。写真を撮ることそれ自体は、むしろ好きである。趣味で一眼レフをやっている程度には。
一方で、息をするようにスマホで写真を撮る人も世の中にはたくさんいる。一緒に遊んだ子と毎度欠かさず自撮りをする。ちょっとおしゃれなレストランに行けば、いい感じにお酒や料理の写真を撮る。そしてそれらはインスタに毎週のように載せられる。でもそういう写真は、“はいはいはーい”と機械的にスワイプされ、見られたことになって流れ去っていくことがほとんどではないだろうか。
そもそも、スマホで気楽に撮った写真のうち、どれほどを人々は見返すのだろうか。SNSで披露する以外に、それらの写真の使い道はあるのか。
私はレストランの料理は滅多に写真に撮らない。誕生日ケーキくらいは撮って残してあるけれども。花火やイルミネーションも撮影しない。料理は食べるのに夢中だし、花火やイルミネーションは撮影に割く労力を、目に焼き付ける方に使いたい。大体、どんなに頑張ってスマホで写真や動画を撮ったところで、実際目で見たものに勝る美しさは無いのではなかろうか。
薄暗い展示室でサッと撮影された絵画たちは、彼らの夏の思い出を思い起こさせる特別なものとして、今後もずっとカメラロールに保存され続けるのだろうか。
ちなみに、今私のスマホのカメラロールを占めるのは我が子と愛猫の写真ばかり。これらを見返したり現像して飾ったりして、私は存分に楽しんでいる。ふとした瞬間を機動力抜群に撮影できるから、スマホは便利である。どの写真も消し難いので、そろそろスマホの容量がヤバい。
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