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桃源郷に誘う門

初めて香林居の入り口を通った時の「現実ではないところに来てしまった感」はとても心に残るもので、私にとってそこが非現実から職場になった今でもあの時の気持ちを忘れずゲストに接したいなといつも思っています。

香林居の象徴とも言えるこのアーチはどうしてこんなに心を惹きつけられるのだろう?と疑問に思っていたのですが、昨年2022年に国立新美術館で開催された李禹煥展で少しだけアーチの魅力がわかった気がしました。

李禹煥は70年代から現在で活躍されている現代アーティストで、石・鉄・木などの素材をそのまま使った作品を多く生み出しており、直島に李禹煥美術館があるため元島民の私に取っては馴染み深い作家さんです。

展示作品の中に、「無限門」というその名の通り大きな門の作品があり、高さ3メートルほどのステンレスのアーチがありました。ちなみに直島にもっと大きなアーチで常設展示されています。このアーチについて音声ガイド担当・中谷美紀さんは「鳥居を想像しました」とコメントしており、これが人間がアーチに対して無意識的に感じる魅力なのかも、と思いました。

鳥居は、現在のような社殿ができる前から存在し、山や岩などを御神体とするところでは鳥居だけが建っているものもあります。鳥居の役目は日常と非日常(ハレとケ)の境界を表すものとして存在すること。香林居の外観がこんなにも惹きつけられるのは、日常と非日常を分けるアーチが、門をくぐった先は別世界で「この中はどんな場所なんだろう」とドキドキさせる存在であり、かつ神聖なものだと想起させるからなんだろうと私なりに落とし所が定まりました。

(参考にした愛読書)

スタッフがどこにアーチが隠れてるか、鉄板トークで話せるレベルでアーチまみれの香林居。ファサード以外にもルームキー、客室ドア、インテリア、ロゴや文字に至るまで統一されたこのアーチは、くぐった先が非日常で理想郷であることを示すような、香林居を香林居たらしめる、私たちにとって大切な象徴である、そんなことを感じております。

香林居の本で、取り壊しの可能性もあったこのビルの設計士の奥様が「主人はなくなったけれど、最後に見に来ました」とずっとアーチを見上げていたというエピソードが載っている。会って話を聞くことはできなくても、アーチに込められて職人の心は今もなお、この場所を守り続けている。


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