荼毘
早くお別れしなければならない。
あの甘美な日々に。何もかも手にしていたような、初めて幸せを知れた、あの日々に。
早く火を付けて、煙にしてしまわないと。
今度は腐食してしまう。
私は確信している。これからも続いていくはずの私の人生で、死ぬまで忘れる事は出来ないだろう。
そのくらい大きな大きな、人生の詰まった日々だった。
今分かることは、あの日々に自分の全てを詰め込みすぎてしまったという事。
自分の片割れを投影してしまったという事。
これは今ようやく気づいたことで、
だからなかなかこれに火がつかないんだろう。
しかし今確実に目の前にあるのは、もう既に生命活動を終えた物なのだ。もう抱えてはいられない。
私はおもちゃを取り上げられた幼児だった。
こんなに辛いなら最初から強請らなければ良かった、とすら思った。
だがあの時、そこに自由意志はなかった。
これだけが結果で、全て。
追悼は生者の為にあるとはよく言ったものだ。
今はせめて、丁寧に丁寧に仏花の手入れをし、
夜は暖かくして寝ることにしよう。
さよなら。ゆっくりおやすみ。