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今宵電車の中で

昨夜はシャンパンを飲んで
いい気持ちになって
ろくでもない話に花を咲かせていた。
痴漢にあったことがあるかどうかという話しだ。

どなたも、あるある!あるある!と
どんな痴漢だったのかを喋り倒していた。

最も多かった意見は

「悔しくて悔しくてたまらない。」
「怖くて声が出ない。」

毎日100%遭っていたという人もいた。自分の足が浮いてしまうほどの満員電車で逃げ場がなかったと。
それは毎日恐怖だっただろうと思う。
私だったら車通勤にするけど。

また痴漢を捕まえて腕を捻り上げ駅員に突き出したけど、駅員がビビって手を離してしまい逃げられたという人も。

弱いんだか強いんだかわからない。

顔は涼しげ腹はブラック。大好きな秘書室チームはお酒に任せて
話しがエスカレートしていく。

ついには痴漢に遭った時に
なんと言ってやったか!という話しになり、みんな大盛り上がり。
ちょっと楽しんでない?
とても発散してる感じがある。

少し触られたくらいだから
笑っていられるが、本来性犯罪に遭った傷は浅くはないと思う。
先日彼の人と「さまよう刃」という映画を観た。東野圭吾原作のNetflix版の方だ。中学生がレイプされるシーンに恐怖混じりの怒りを感じた。(直視出来ないほどエグく作られている)
そして、父親が犯人を殺すために探す。

よく彼の人が
「好きな人にされたら嬉しいことを
好きでもない人にされたらセクハラだって言うよね。同じ行為なのに。」
と言う。

その通りだ。理屈ではないのだ。
良いか嫌かは感覚だから。そして鳥でもライオンでもまずは美しい羽を羽ばたかせてみせたり、立派なタテガミを誇示したり、鳴いてみたり吠えてみたりと、まずはご挨拶がある。
いきなりはステーキだけでいい。

そして矛先は私に。

「オンディーヌさんの痴漢に遭った時の話し聞かせてくださいよ〜。」
と、皆さま身を乗り出す。
期待を裏切り

「私は痴漢に遭ったことはありません。」

と言うと全員絶句。

「絶対私に寄るなビーム出してそう。」

と大笑いになった。

帰り道に電車の中で座って本を読んでいたら私の目の前にふたりの男性が立った。ひとりは真っ青な顔。
「気持ち悪いの?」
と声をかけるとそうだと言うので
席を譲った。
そしてバックの中に手を入れて
力なく何か探している。
私は買ったばかりのワンピースが入っているビニール袋からワンピースを取り出し、彼にビニール袋を握らせた。お連れの方が
「ありがとうございます。ありがとうございます。」と言う。

電車を降りるその時まで
御礼を言われた。

箱型の電気で動くその乗り物の中では
性欲を見せる者もあり、読書する者もあり、吐くヤツもいる。本来は移動手段として存在しているのに。
ホテルじゃないのに。トイレじゃないのに。
人間とはどういう生き物であろうか。
生物のなかで一番知恵があり文明を持っているとか、どうでも良い。
自分の欲求を晒してしまう
言葉を話す可愛い動物だ。

偉くなんてない。どうしようもなく
一生懸命生もがきながら生きている
動物だ。

彼の人が
「食べるために生きるんじゃない。
生きるために食べるんだ。」

と言っていた。私にとって本当に大切なことはそれだ。

彼の人はまた遠い国を旅している。
驚きながら考えながらたくさんの方々とつながりながら。



#電車の中で





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