「イナズマイレブンGOクロノストーン外伝/夭折の叛逆」
[悪魔の末裔]
【セカンドステージチルドレン】。通称SSC。
それは人智を超えた完全生命体。
人の域を超えたそれは、人の姿をした悪魔。
彼らはSSC遺伝子細胞により、幼い頃から恐るべき能力を誇っていた。身体的にも学術的にも人間ステータス外内問わず、トップクラス。先天性の能力覚醒もいるが、SSCワクチン強制投与により、子の意見も無く、SSCは金になる…。天才を欲する親の身勝手な判断で能力覚醒を強いることによりセカンドステージチルドレンになった子もいる。
セカンドステージチルドレン能力の代償として生命力は極端に短く、20歳で生涯を終える。
彼らに思い出は無い。
あったとしても結末は皆一緒。
悪夢だ。
先天性も後天性も関係無い。
“あの家には悪魔がいる”と罵られ、虐待を受ければ親への暴力で家庭崩壊、社会の闇に身を潜め己の力を行使することで裏社会の支配者になった者もいれば、自警団のように反社会勢力を警察の影で取り締まる正義者もいる。
だが、どうであれ能力者の存在が発覚されれば、それぞれの自国が統制する強化人間隔離施設【二ゼロアルカナ】へ連行される。四肢拘束、飲まず食わず、人体再生能力の確認による部位の切断、人の様々な可能性を求められる人体実験。それを繰り返される悪夢の日々。
そんな隔離施設に一人の男児“サリュー・エヴァン”通称SARUが送られる。SARUは血塗られた過去と決別し、この隔離施設から脱獄を図る。
SARUの忌まわしき過去。
[約束された目覚め]
SARUの能力が覚醒したのは幼少期でのこと。
SSC遺伝子を持つとされたSARUの先祖たち。
先祖たちはSSC遺伝子の暴走により、軍隊がエヴァン家を制圧、二ゼロアルカナへ連行される。そこで能力を使い脱獄を果たした兄・二ーディール12歳、妹・エレリア10歳が生き残りとなりエヴァン家を守り続けた。
兄妹は各々で子孫を産み続けた。
だがやはりSSC遺伝子の血は受け継がれていた。生き残りのエヴァン家はあの地獄を二度と味あわせない。特に子供たちに。
そして子供たちには長生きしてほしい。
そう思い、他人の血液で遺伝子情報の書き換え【リコンビナント計画】を行った。
その為に人を殺しまくり次々と輸血を行った。
エヴァン家の血を絶やしていく。
数え切れないほどの人を殺した。
沢山の時間を浪費したが、エレリアが20歳の誕生日を過ぎても絶命することは無かった。
長きに渡りSARUの家系は、SSC遺伝子の血を断つことを掟と定めている。
それから100年後…
エヴァン家は世界各地に散らばり、人間社会に染まり、普通に生活を暮らしている。
二ーディールの子孫、後のSARUの父親・アレハンドルは若干のSSC遺伝子を秘めていた。
孤独な少年期を過ごし、外の世界を嫌っていたアレハンドル。
自分の思い通りにいかない人間関係。
うざったい。
みんなが一瞬にして、俺の前から消えてほしい。
言葉には無限の可能性がある。
人を示す座標となり、偽りを語らう虚構だって操る事ができる。それを発生させる事のできる権限は人間全員にある。
なのにも関わらず、国民の意見なんて政治家には全く届かない。穢れた国際社会に飽き飽きしていた。
青年時代を経て、外界とのコミュニケーションをとることにより喜怒哀楽の感情臨界点を超えた抑えきれない衝動に駆られる。
次第にSSC遺伝子は感情制御を殺し、己を侵食していく。
アレハンドルはエヴァン家の掟に反抗意識を露わにする。
時が経ち、アレハンドルは遺伝子ワクチン型血液アンプルを妻・ギュエールに投与。
妻はそれを受け入れる。
両親はSARUを産み、SARUの身にはSSC強制遺伝子が宿った。
───
「この子が新世界を創る。」
───
思惑通りSSC遺伝子は覚醒。
SARUの身体で微量に眠っていたSSCの【原初の血】も、目を覚ます。
長年守り続けたエヴァン家の禁錮を父親・アレハンドルは破ったのだ。
アレハンドルはエヴァン家を迫害した政府機関に宣戦布告。
SARUのSSC遺伝子覚醒により、壊滅的打撃を負わせる。
だがSARUの遺伝子覚醒は想像を絶するもので、自制御が効かなくなる。
SARUは両親が今まで見たことも無い姿に変貌。殺戮兵器と化したSARUは意識を失い、周辺区域の建築物は爆散、近くにいた民間人と施設員、そしてアレハンドルとギュエールを爆殺してしまう。
遺伝子暴走が急速に停止したその隙を見て軍隊はSARUを強化人間隔離施設【二ゼロアルカナ】へ連行することとなった。
[来訪者]
意識が戻ったのは捕獲されて2日後。
SARUの意識が回復。巨大なドーム空間、4本の杭で繋がれた鎖がそれぞれの四肢を拘束、センターサークルに放置されていた。
SSC遺伝子能力物理的封印システム【レッドチェーン】が胸郭部分に装着され身動きがとれずにいた。
目覚めた事を確認し、ドームに現れた謎の男たち。
SARUは敵対意識を露わにして喚く。
ジャリジャリと鎖による金属音がドーム空間を響音する。
「凄まじい力だ。ありえない。」
レッドチェーンを装着しているに関わらず、ここまでの行動を起こせるSARUの身体組織。
男たちは『異常』と称えた。
昏睡状態のSARUから採取した生体細胞を観察。無数の遺伝子情報が反応を見せる混血児であることが判明。それに対し研究員らはSARUの処遇を熟考する。現世に存在するべきで無いと判断し殺めるべきか、研究対象としてこのまま隔離施設での保有権利を政府機関から獲得するか…。
すると隔離施設に突然の爆撃が起きる。
施設内には警報音が鳴り響く。突然SARUが拘束されているドームの天蓋が全壊、何者かの爆撃を受ける。そこに現れたのは大翼を広げた巨大航空機。空挺から降臨する2人の少年少女。
SARUは直ぐに悟った。
彼らもセカンドステージチルドレンだと。
無表情で感情を表さない裂空からの訪問者。
2人の少年少女はSARUに近づこうとする。
「その者をこちらに渡してもらおう。」
少年の要求。研究員はSSC遺伝子反応を確認。それに対し、隔離施設マスターコマンドは排除を指令。
研究員らはウェポンモジュールをリサーチからコンバットに変更。
研究員ら10名が光線銃ヘルブリンガーを来訪者めがけて発砲。
すると来訪者はビームガーターを展開。
展開されたビームガーターの副次的な攻撃作用が発動。ビームガーターの光波壁を受けた射撃弾を瞬時的に真反対化、研究員らに向けられた射撃弾は一瞬にして対象に命中、殺戮した。
少女が放つ闇の爆風波がドーム空間を滅却。
ただ1人SARUのみをバリアで抱擁。爆風で生まれた煙が辺りから無くなる頃にはSARUは少年少女らと共に消失していた。
───
「悪魔の末裔、セカンドステージチルドレン。この星において最も不必要な異分子。人類の大罪だ。やはり元凶であるあの時代へ行かなければ…。」
「オリジンですか…。」
───
[フェーダ]
SARUは少年少女らに連れられドーム空間を脱出し巨大空挺にいた。空挺にはSARU以外にも複数名のセカンドステージチルドレンがいる。
だが拘束状態は継続であった。2人の遺伝子能力によりSARU周辺の4本の杭をSARUごと掘削。半径4mの逆円錐型大地と共にSARUは空挺に連行された。
SARUが拘引されたのは作戦統括司令センター。数多くのセカンドステージチルドレンがSARUに向けて臨戦態勢をとる。
「やめるんだ」
先程、SARUを強奪した少年少女が現れる。
男はベラージュ、女はゼロア。
そして姓を、エヴァンと名乗った。
SARUは目を見開き硬直した。
エヴァン家の生き残りがいたのだ。そして会えた。涙を流さずにはいられなかった。べラージュ26歳、ゼロア24歳。共にエヴァン家の掟を守り続けていた。
「お前の父、アレハンドルは大罪人だ。掟を破り、SARUに強制的な遺伝子ワクチンの接種を行った。お前は父親に洗脳されている」
反人類殲滅組織【フェーダ】。
セカンドステージチルドレンのみで構成され様々な境遇を経てきた者たちが集うグループ。世界の情勢を見据える監視者。
世界のありとあらゆる物資の強奪、サリューエヴァン強奪作戦のような襲撃を行うテロ組織として国際指名手配されているがステルスモードを搭載する当航空艇の影響で国際刑事警察機構はフェーダの捜索が停止状態にあった。
フェーダは世界各地に点在していたがSARU達が現在搭乗している飛行空挺で招集活動を行っていた。招集活動及び、セカンドステージチルドレンを奪い返す行為が世界各地の強化人間隔離施設で活発化していたこともあり国際警察は捜索網を大幅に拡大。
当然ながらSARU収容並びに拘束の際も隔離施設内外には特殊部隊が蟻のように大量配置された。だがステルスモードの当航空艇搭乗中のセカンドステージチルドレンによる遺伝子能力を行使した強力なジャミングで妨害電波を発生。
さらに不可侵透明防御膜スフィアインビジブルを展開。スフィアインビジブルにより隔離施設のドームエリア、作戦司令所、連絡橋、道という道が見えない壁で分断。
そして特殊部隊員一人一人にスフィアインビジブルが展開され完全孤立状態にした。
SARUはその招集ターゲット最後の1人。二ーディールとエレリア、それぞれの子孫の元に産まれたべラージュとゼロア。べラージュとゼロアより前に産まれた人物こそアレハンドルであった。
[拠点]
現在、フェーダとSARUが搭乗しているのはステルス搭載超大型全翼航空爆撃機エゼルディ。
半年前、米国空軍が保有していたエゼルディをフェーダが強奪。
当航空艇には様々なフェーダによる魔改造が行われている。セカンドステージチルドレン招集活動を行う為、SSC遺伝子の血をアンプル化してそれをレーダーサイトに書き込むことで世界中にいるセカンドステージチルドレンの所在地を判明させる【ドスレーダー】を開発。フェーダの遺伝子能力でSSC遺伝子能力攻撃型アンプルタレットを艦首、右舷砲、左舷砲、艦尾に搭載。抜群の攻撃性能と共に元々搭載されていた光学迷彩ステルスモードで所在不明のままでいた。
エゼルディが向かったのは断界の孤島・ポーターズウェッジ島。かつては亜鉛鉱山生産工場及び精錬所として造成された人工島。べラージュとゼロアは上空から島を発見。エゼルディでの生活も限界に達し乗員数も限界値に到達していたため、拠点の設営を急いでいた。為、この島をフェーダの拠点にすることを決定。
島全体を暗黒に覆うスフィアシュヴァルツを生成。フェーダが暴虐を尽くす際に発動させる【エスピオナージレイドシステム】で襲撃。
フェーダはこれを総称してジェノン計画と呼ぶ。
島で生活と仕事をしていた者らを虐殺した。
島を乗っ取ったフェーダはポーターズウェッジ島を外界からは姿を確認することができないようにした。
透明網膜で抱擁されているライアーメールを解除して進行が可能になる。解除にはフェーダ上級官のSSC遺伝子プラスシグナルを行使する必要がある。
ポーターズウェッジ島に着陸。
面積22万平方キロメートル。元々島全体が工業地帯のような要塞となっていたものはほぼ現存。生活資材や食品を作成する加工場や生産ライン、巨大な産婦人科施設など必要不可欠なエリアを増設した。
島中心部に存在するエクリュプラザという黒の塔。
ここがフェーダ本部として機能し、ポーターズウェッジ島の社会福利やインフラ整備を統括している。
セカンドステージチルドレンは病に侵されない。
20歳までに生涯を終えるセカンドステージチルドレンは18歳までに子供を産むことを義務づけられている。セカンドステージチルドレンの血を絶やさない、子孫へフェーダの魂を後継させるための守らなければならない絶対的なルールだ。
[Tsar Harmony:AN207]
SARUがポーターズウェッジ島に着いて一日が経つ。
フェーダに休息の余裕は無い。
べラージュとゼロアは次なる標的にツインサイドを指定する。そこは世界各国のリーダーたちが集う世界国家首脳会議が開かれる場所。当会議ではセカンドステージチルドレン対策法案を閣議決定した大元でもある。
その会議が明後日開催される。
当会議では日に日に加速しているフェーダ暴走行為について世界各国が提案をし、それを1つの回答とし全世界の共通認識を再定義。
そしてフェーダの襲撃【メガロポリスレイ】を受けた各地の資本主義システム、高次的グローバルサービスといった世界経済のハブ要素を有するエリアの回復計画発足が予定されている。
ツインサイド襲撃に向けてフェーダは大型海空母艦海上軍事基地【アドバンスドユダフォート】に格納されているメガトン級爆弾セト100【ツァーリ・ハーモニーAN207】の強奪作戦を計画する。
当爆弾は現世に存在する戦略兵器の中で最大威力を誇る水素爆弾。ツァーリ・ハーモニーはツインサイド襲撃に必要不可欠なのだ。
ツインサイド自治領空域はレッドチェーンの粒子を細胞化したバリアを張っている。セカンドステージチルドレンの遺伝子能力を無力化するためツァーリ・ハーモニーによる莫大な熱核エネルギーで突破を試みるしかなかった。ツァーリ・ハーモニーはとても敏感で少しの振動で衝撃波が炸裂し、海に風穴が空く。さらにSSC遺伝子能力を持つ者がツァーリ・ハーモニーに直接触れると自動的に自爆プログラムが発動する仕組みにもなっている。フェーダは事前にウェポンモジュールへエレクトロキャプチャーを装備。電磁柵を展開し直接触れることなく間接的な奪取を図る。
[逃避]
SARUは個室を設けてもらい眠りにつく。
その夜、SARUはアレハンドルとギュエールの姿が夢に出てくる。SARUにとってそれは初めてのことでは無い。時々SARUは頭痛に襲われる。
エヴァン家政府機関襲撃事件がフラッシュバックする。
心的外傷後ストレス障害。
SARUはPTSDを患っていた。
両親を自身の力で殺したことが頭から離れない。隔離施設連行後にそれは枷となった。脳内で再生された映像にはとても自分とは思えない忌まわしき害獣が暴れている。
その害獣は目に入った人間すべてを敵とみなし、なぶり殺しにしている。
その途中に現れる両親。
両親の臓物が露呈し、脇腹から溢れ出てきている。
政府機関を血の海にした害獣。それは紛れも無く自分。
SARUはPTSDに苦悩しながら、サリュー・エヴァン強奪作戦に巻き込まれていた。
[海上要塞アドバンスド・ユダ・フォート]
翌朝。
作戦決行日、アドバンスドユダフォート上空にエゼルディがマーク。
フェーダは軍事基地直上までステルスモードで接近。強奪作戦にはべラージュ、ゼロア、そしてフェーダ上級官のメイア、ギリス、ニケ、フェイを中心に構成された精鋭部隊【アルマダ】、それにプラス構成員としてSARUが参加。
ステルスモード解除、ジェットエンジンを装備し降下を開始。
エゼルディはステルスモードを起動させて遠方にて待機。アドバンスドユダフォートのロレンチーニサイトがSSC遺伝子信号をキャッチ、母艦並びに航行中のフリゲート艦、イージス艦の防衛システムが発動。
大量の早期警戒管制ナノマシン【アシッドビット】がフェーダを襲う。フェーダはべラージュの号令で迎撃を開始。精鋭部隊アルマダが狂気のままに自身の能力を振るう。圧倒的な戦闘力と暴虐の姿にSARUは言葉を失う。
大量アシッドビットをもろともせずに全員が航空飛行甲板に着艦。フリゲート艦とイージス艦はべラージュの高エネルギー加粒子砲撃で沈黙。甲板に現れた戦闘員もサイコパワーで海に葬る。もはや敵無しの精鋭部隊アルマダによる侵攻。SARUはべラージュ、ゼロアと共に第1区画コントロールブリッジへ向かい、全制御ロックダウンを目指す。そしてべラージュとゼロアにはもう1つとある目標があった。
[特別個体]
今までフェーダは数々の世界経済のハブターミナルとも言える拠点を襲撃し、破壊活動を行い続けてきた。その破壊目標の中にレッドチェーン生産工場及びSSC遺伝子研究施設が指定されていた。
レッドチェーンはフェーダにとって唯一の天敵。
人類がSSC遺伝子を採取して完成させた対フェーダ制圧兼拘束兵器。
だがその遺伝子は150年前のセカンドステージチルドレンによる血液でありサルベージしてきて幾数年、腐乱の一途を辿っていた。
更にその血液は特別なもので各国の強化人間隔離施設収容員達のSSC遺伝子ではレッドチェーン細胞粒子とは相反するものという判断が下された。
故に150年前に採血されたSSC遺伝子は特別なものであったと言える。そのレッドチェーンは世界に流通し主に強化人間隔離施設へ支給された。
後にレッドチェーンが存在する場所をエゼルディのロレンチーニサイトがSSC遺伝子を特定、SSC遺伝子を細胞粒子として投入されていたレッドチェーンもロレンチーニサイトに表示されていた。
レッドチェーン搭載エリアはフェーダが襲撃を続けてきた。強化人間隔離施設のセントラルセンターである二ゼロアルカナの襲撃を終え、べラージュは海上軍事基地アドバンスドユダフォートを狙いに定めたもう1つの理由はここが最後のレッドチェーン生産工場にしてサルベージ元であるオリジナルSSC遺伝子が現存しているからだ。
恐らく開発者もいるのだろう。
フェーダが人類の対して唯一恐れる兵器であるものを破壊するべくべラージュ、ゼロア、SARUは第1区画コントロールブリッジ、第2区画シーウィードプラントへの侵攻を開始する。
[難敵]
精鋭部隊アルマダは階を降り、目標物ツァーリ・ハーモニーが格納されている第5区画ハンジャールデッキへと行軍する。
精鋭部隊アルマダは第5区画ハンジャールデッキに到着。
アルマダ構成員がエレクトロキャプチャーを装備し、作戦第2段階へと移る。
見事、キャプチャーに成功。
だがその時、異音が轟く。連絡通路の開閉扉がアンロック。その先に見えたのはジャガーノートと呼ばれるカタパルト式自律稼働型特攻兵器。電磁波帯電ゼロ距離突撃兵器パイルバンカー、リニアレーザーキャノン、多連装ミサイルといった重装備を携えたアドバンスドユダフォートが誇る最終防衛ユニット。
さらにジャガーノートにはパルスアーマーという対SSC無力化特殊装甲を装備。
精鋭部隊アルマダは激戦を強いられる。
[覚醒]
第1区画コントロールブリッジへと向かうSARU、べラージュ、ゼロア。先頭を走っていたべラージュとゼロアはブリッジに到達しドアを破壊した瞬間、溶けるように地面に倒れる。すぐさま異変を感じたSARUは物陰を使い隠れた。立ち込める煙が晴れ、眼前に見えたのは2人がレッドチェーンで拘束された姿だった。
周りには総司令官、多数の管制員と上級監査官の姿。
周囲に多数の戦闘員を予見、レッドチェーンも危惧、人質に捕られたこともありSARUは大人しく投降した。
二ゼロアルカナ襲撃をはじめ、世界経済を大きく動かしたフェーダの捕獲に成功。
拘束した2人は要注意危険人物と判断し、レッドチェーンの圧縮、殺害を命じる総司令官。
その行動に憤怒するSARU。
SARUに高エネルギー収束帯が発生。
ブリッジの制御システムが次々にアラート反応を見せる。
SARUが感情の臨界点を突破したことで総司令官が第3のレッドチェーンを放つ。
だがレッドチェーンはSARUの収束帯エネルギーを抱擁することが出来ず、破壊される。
だがレッドチェーンはアンチSSC遺伝子能力を持つもの。その収束帯は至近距離では効果はあるものの、ある程度離れていたべラージュ、ゼロアのレッドチェーンに効果は発揮されなかった。
べラージュ、ゼロアのレッドチェーンが緊急事態モードを自律稼働により起動。
2人を圧縮し爆殺させた。
SARUはその瞬間を見た途端、己の過去と重ね合わせた。
「また、俺のせいか?」
感情の制御は、効く。
殺戮行動を開始した。
[おそい、まってたよ。]
全ての管制システムを破壊、第1区画コントロールブリッジを『制圧』という名を超える撃滅に至らしめる。
その衝撃波は第2区画から第5区画までの各階層にまで走る。
第2区画シーウィードプラント、レッドチェーン生産工場に侵攻。高エネルギー収束帯を纏わせるSARUに、恐れひれ伏す研究員達。
抵抗することも無い研究員、むしろ降伏宣言をする研究員を虐殺した。
獣のように徘徊するSARUは生産工場中心地に存在するレッドチェーンを発見する。そのレッドチェーンに見惚れるように接近。
まるでなにかが共鳴しているかのように。
SARUはそのレッドチェーンに自身の手をかざした。するとその瞬間、脳に訴えかける女性の声が聞こえる。
その声と共にSARUの脳内に再生される何者かの視点映像。
「Yubel Evan:1.22474487139-0727-0627」
その視点映像には何かの意味を成しているかのような数字の羅列とこの名前が秒速で点滅する。
SARUは理解した。
この女性は家族だ。
セカンドステージチルドレンで一番最初に人類からの被害を受け、何百もの実験を繰り返された実験体。
誰からも愛されることなく、一生を終えた彼女。
そして最終的にはSSC遺伝子サンプルを採血されレッドチェーンを生成された。
細胞粒子の元とも言える彼女こそが【オリジナルユベル】。
ユベル・エヴァンである。
SARUはユベルとの邂逅を果たした。
内的宇宙で満身創痍のオリジナルユベルを介抱するSARU。
「ずっとまってた。きてくれたのがわたしのこども。すごくうれしいよ。ほんとうにありがとう。」
SARUの優しさに満ち満ちた抱擁に涙が溢れるオリジナルユベル。
「ひとりじゃない。俺が守る。」
[融合体]
「ネクローシス反応、ネクローシス反応、オリジナルユベルのシグナル信号がサリュー・エヴァンに発生しています、至急全部隊コンバットモードに転換。捕獲行動は禁止、生死は問いません、フェーダへの無条件殲滅行動を開始してください。」
アドバンスドユダフォート全区画に緊急アナウンスが流れる。そんな放送に関係なく辻斬りのように烈火の如く現れたSARU。SARUは第3第4区画を亜空間フィールドにし、区画ごと飲み尽くした。
精鋭部隊アルマダが死闘を繰り広げている第5区画にもそれは轟音として強く伝わる。
その轟音が鳴り止む直前、SARUが姿を現す。
光の輪を発生させたその容姿は獣を食らった天使のように見えた。SARUは会話することも無くジャガーノートを粉砕した。
遺伝子能力無力化をもろともせずに。
理解不能な超次元的な力を手に入れたSARUの見姿に唖然とするアルマダ員。
「いこう、帰艦する。」
そう一言いったSARU。姿を確認することが出来ないべラージュとゼロアについてSARUに言及したが、SARUからの返答はなかった。
2人の逝去をアルマダ員は理解した。
エゼルディへ作戦終了の連絡、エゼルディを要請し脱出を図る。
目標物【ツァーリ・ハーモニー】、最後のレッドチェーン生産工場の壊滅。作戦は成功したが、代償としてフェーダ皇帝として君臨したべラージュとゼロア、そして多数のアルマダ員という大きすぎる犠牲者を出し、アドバンスドユダフォート艦内区画を後にした。
メイアから脱出の指示を受けたエゼルディはアドバンスドユダフォート空域へと向かう。
空域には国際航空自衛隊がアドバンスドユダフォート全体を覆うかのようにマーク。その空域上層にエゼルディは侵入。
攻撃不可能状態の光学迷彩機能を解除し、エゼルディは国際航空自衛隊への奇襲攻撃を開始。
スキを突かれた航空部隊は為す術もなく全機沈黙する。
SARUの覚醒が停止、どうやら自分での能力コントロールは決断可能なことをアルマダ員は理解する。
だが、SARUの顔は別行動をとる前とは打って変わっていた。
べラージュとゼロアの死を目の当たりにしたから当然だ、とアルマダ員は思っていた。
だが真実はそうでは無い。
SARUは自分が過去に起こした暴走を自身で受け止めた。
心的外傷をユベルの力で乗り越え覚醒に成功した。
この事実はSARUの感情を飲み込み、大いなる可能性を宿した。
[新皇帝]
リーダー不在となった精鋭部隊アルマダ。
するとSARUが先立って態勢を命令しだした。人格が変わったかのように場を支配していった。
メイア、ギリスはSARUの異常なまでの支配力に心配までするが、SARUの目を見るとまるで取り込まれてしまいそうな力の解放に戦慄する。
アルマダ員らはここで確信する。次のリーダーはSARUだ、と。
ギリスはエゼルディから円筒型脱出兵器【エスケープシリンダー】のアドバンスドユダフォート航空甲板へ発射を命ずる。
エゼルディは発射シークエンスに移ろうとした時、SARUが「必要ない」と言った。だが死闘の末、我々にはもう力は残されていなかった。SARUはその後一言を発することなく、とある能力を解放。
その力は彼らからしてみればSSC遺伝子と識別できない謎の力だった。
SARUが解放した能力でメンバーは浮遊能力を有した。
メンバー全体を防御スフィアが囲い、ツァーリ・ハーモニーを空間転移でエゼルディに移した。メンバーも空間転移でエゼルディへと帰艦。
エゼルディはステルスモードを起動させ彼方へと姿を消した。この姿は遠方にて捉えたテレビクルーがメディアを通して全世界へ同時放送、配信され確認することができた。海上要塞とも言われているアドバンスドユダフォートが炎に囲まれている禍々しい映像…。世界はその地獄とも言える光景を見て、虚構を願う。
エゼルディ内、フェーダメンバーがSARUを問い詰める。あの時何が起きたのか?感情が安静状態になったSARUはその問いに答えた。
フェーダメンバーは改めてリーダーの死亡を実感する。
各々で想いが溢れるフェーダメンバー。そんな様子を見てSARUは士気を上げる。
「死んだからなんだ?俺たちは生きている。それで十分だろ?彼らは俺たちを生かすために死んだんだ。戯言はやめろ。前を向け。振り返るな。戦争が始まるぞ。僕にはすべてがわかる。」
握り拳を作り、涙を堪えながらも放たれるSARUの言葉がフェーダメンバーの心を貫く。
次第にフェーダメンバーはSARUに取り憑かれるように掌握されていく。
そしてSARUは融合を遂げたオリジナルユベルの能力をフェーダメンバーに与え、SSC遺伝子の臨界点を超える力を分け与える。
オリジナルユベルのSSC遺伝子が二重螺旋を描くようにフェーダメンバー個人個人へと周回する。
各々の身体の中で形成される強靭な肉体と超次元パワー。それまでとは段違いのSSC遺伝子エネルギーを感じた。サリュー・エヴァン。フェーダの新たなる皇帝の誕生だった。
[監視]
12時間後。
エゼルディは第44回世界国家首脳会議が開催されるツインサイド大統領府の最上空、成層圏に中空していた。
SARUは電波観測衛星ホークアイをジャミング。
その衛星を利用し、フェーダは監視カメラ映像でツインサイド大統領府の様々な場所を監視していた。
世界国家首脳会議の開催時間定刻19時。
ツインサイドは昨日のアドバンスドユダフォート襲撃事件もあったことから、防衛体制を強化。
だが、オリジナルユベルを損失した今、フェーダへの対応策が人類には無い。
最後の悪あがきだった。
我々はただフェーダの襲撃が無いことを祈るしかない。
しかし我々人類がセカンドステージチルドレンにしてきた行為の数々。
それを非道と捉える者も少なからずいた。
昨日人類は遂にフェーダの皇帝を殺した。
さらに世界国家首脳会議ではセカンドステージチルドレンへの対策法案を決議した大元。
国際司法の頂点に君臨する高次法人グローバルシステム。
それに黙っているような存在では無いことぐらいわかっている。世界経済を一気に暗黒へと陥れるには絶好のチャンスだ。それを承知での殺害は人類にとって悪夢しか生まないんじゃないか。
人類とセカンドステージチルドレンの共存は不可能なのか。
僅かな希望の光を信じる者。
わかる人にはわかっていた。
それもほぼ全員であろう。
今日がこの都市にとって、最後の日になることを。
[ジェノサイドフェーダ]
──
これから起きる悪夢は【ジェノサイドフェーダ】と呼称する。そしてこんなことが二度と起きることのないよう、切に願う。
──
ツインサイド大統領府にて第44回世界国家首脳会議が開催された。
当該会議は3時間を予定されており、世界の在り方、金融や経済、国際問題の動向を意思決定。最終的な結論を議長である【首の賢人】が下す。
そして緊急議題として昨日のアドバンスドユダフォート襲撃事件及び、オリジナルユベル損失によるフェーダへの軍事対応策も上げられる予定となっている。
ツインサイド上空の成層圏にマークするエゼルディ。当該会議が開催された。
エゼルディ内の指令所ではツァーリ・ハーモニー投下の最終チェックを確認するオペレーター達、降下ドックのルミナスエンデバーでは降下作戦に参加するフェーダ攻撃部隊の全ての準備が整った。
サーチ衛星のサーバーをハッキングし、ツインサイド領内を監視。
メイア、ギリス、ニケ、フェイ、デッキ、ユウチを各部隊の統合末端攻撃統制官に置いた高高度降下空挺攻撃部隊を編成。各部隊の名称はコードという言葉の後ろに統制官の名前を付けている。
ツインサイド大統領府の東西南北各方角に向けて上空からアタッカー部隊が【ポッドドングリ】に乗り込み襲撃を仕掛ける。
SARUは作戦発動を前にしてフェーダメンバーに対して士気を上げる。
「今から世界のリーダー達を抹殺しにいく。これは人類に行う聖絶だ。オリジナルユベル遺伝子原液はお前達に与えたもので底を尽きた。だが先程サーチ衛星でツインサイドを監視していた所、微弱ながらレッドチェーンの細胞粒子を確認した。人類の最後の悪あがきだよ。これが世界で最後のレッドチェーンだ。だけど喩え微弱なものだとしても僕たちが触れることはできない。ツァーリ・ハーモニーがこの作戦のキーだ。恐らく爆弾投下はツインサイド防衛システムによってすぐ見つかる。攻撃部隊以外のメンバーはエゼルディ内から当該爆弾の護衛を頼む。必ず守るんだ。目標はツインサイド大統領府の国際的機能の損失、そしてセカンドステージチルドレンを迫害したリーダー達の虐殺だ。数時間後には僕たちが新世界の裁定者、理想郷の創造主だ。今までの絶望を力に変えろ。」
全員散開。各持ち場に移動する。
19時30分──。
「【オペレーション: プラクセディス】発動。高高度降下空挺攻撃部隊、降下ドックにて待機。降下シークエンス、常時発動可能状態を維持。」
「エゼルディ、熱圏から離脱、カーマンラインを突破、まもなく成層圏へと突入します」
「対流圏に突入、ツインサイド大統領府上空に下降開始、ツァーリ・ハーモニー投下目標エリアまであと14万km。」
目標ツインサイド大統領府エリアを光学で捕捉。
フェーズ1、ツァーリ・ハーモニー投下開始。
ツインサイド大統領府の防衛システムが若干のノイズを検知。その検知対象をフェーダだと識別。
ツインサイドに設置されている全ての対空防衛システムが次々と迎撃行動を開始。誘導ミサイル、リニアレーザー、追跡ドローンが地上から放たれる。
世界国家首脳会議にそれはすぐに伝令された。警備員たちが首脳陣達を避難させるため空間転移時に必要なテレポートモードへと装備モジュールを変更。
テレポーテーションを発動させようとするが効果が発揮されない。なぜだ?と一同が焦る。フェーダは電波観測衛星から世界の様々な通信衛星基地をハッキング。それをルーター化させ、全世界の電波をインフィニティゲートに向けてコネクト。
強力な電波ジャミングを生成。
それを使用し、最強の防衛システムを誇るツインサイドのサイバーウォールを極大に弱体化させたのだ。
セカンドステージチルドレンといっても人類の化学でゼロイチ産出された空間転移能力はどうすることもできない。よって、フェーダはこのような行動を起こした。
誰も逃げれない。
目を背けることもできない。
フェーダは戦争の檻を作った。
[遊弋]
次第に落下スピードを増すツァーリ・ハーモニー。
国際航空部隊が戦闘機で落下爆弾のインターセプトを行おうとするが、エゼルディ乗員による耐熱耐圧耐核シールドで完全防護。戦闘機は他のフェーダメンバーに撃墜されていく。
落下速度が次第に目に負えない速さになる。
ツァーリ・ハーモニー爆撃形態にフォルムチェンジ。
種子のような小型な姿からまるで別物かのように、蛾のような遊弋型へと変貌。
これはツァーリ・ハーモニーが人類の手にあった時には開発されていない謎の姿。
この数時間でこのような姿へと変貌させることのできるセカンドステージチルドレン。
単なる科学力と言えばいいのか、人智を超える超次元的な文明を齎されているのか、人工知能による回答は【ALERT】という緊急命令。これは戦闘配置命令時に表示される危険信号だった。
そしてそれは、戦争の始まりを表す。
ツァーリ・ハーモニーがオリジナルユベルの力を失ったレッドチェーン細胞粒子を含んだバリアに直撃。
尋常ではない熱核衝撃波がツインサイド全域と周辺領域を襲う。一瞬にして光と煙に包まれた。
視界を邪魔する粉塵らが消え、エゼルディから捕捉された直下映像をSARUをはじめとしたフェーダメンバーが見る。
「やはりな、レッドチェーンは大したもんだ。」
ツインサイド空域を抱擁していたレッドチェーンはツァーリ・ハーモニーの熱核エネルギーを可能な限り防御。地上に多く配置されている指向性エネルギーレーザー兵器が落下爆弾一極に集結、欠片として発生した熱核エネルギーも、全て残らず航空部隊によって撃ち落とされた。間一髪で迎撃に成功したのだ。だがそれはSARUの範疇。
予想通りツァーリ・ハーモニーの爆発がレッドチェーンを消失させた。
[アタッカー部隊]
フェーズ2、ツインサイド大統領府へのアタッカー部隊降下シークエンスに移行する。
エゼルディ内のオペレーション部隊は巨大なスフィアシュバルツを生成。ツインサイド大統領府と周辺領域を分断。
遠方から来る援護、つまり外界からの攻撃部隊を阻害させた。
周辺領域から見えるツインサイド大統領府は亜空間のように真っ黒な半円フィールド。
エゼルディがサークルを描くようにツインサイド上空を航行。
高高度降下空挺攻撃部隊、第1波コードメイア、コードギリスが降下開始。地上からの白兵部隊がアタッカー部隊めがけて銃を乱射。
セカンドステージチルドレンへの制圧兵器を完全に失った今、人類に残された攻撃手段は保有している軍事力を存分に解放する、ということだ。
ツインサイド防衛システムが降下中の第1波に高エネルギー反応を確認。その数値は今までのフェーダとの戦闘データから人工知能が経験値を産出して制作。その臨界点を大幅に超えた。
「緊急事態宣言発令、緊急事態宣言発令、オリジナルユベルの識別信号が降下中フェーダメンバー全員に検知されました。戦闘能力が13時間前の襲撃事件に比べて格段なパワーアップを遂げています。ハイスピードリサーチ成功、サリュー・エヴァンの微量な細胞粒子を並びに検知。彼がユベルゲノムを分与した模様。現在、彼らの感情を読み解く行為は不可能。暗黒で埋め尽くされた憎悪が彼らの表情から見物可能。結論、戦争を予期。」
人工知能が回答を提示する。
地上でそれぞれが所持する武器を構えるツインサイド特殊部隊は戦慄する。
第1波が地上に降着。
「さぁ、人間ども、悪夢の始まりだよー!」
[みーんな、死んじゃえ!]
第1波が虐殺を開始。
SARUから分け与えられた始祖たるオリジナルユベルの力【セカンドステージチルドレンゲノム】がアタッカー部隊一人一人の特色を最大限に高める。
跳躍力を上げ高さを生かして相手を翻弄する者、攻撃の手を緩めずに惨き鉄槌を与え続ける者、自身の毛髪から発現される細胞をアサルトビットとして攻防を受け持つ者、2人1組で軍隊を一瞬にして薙ぎ払う者ら…予測不可能な攻撃の数々にツインサイド大統領府は大混乱に陥る。
続いて第2波のコードニケ、コードフェイが降下シークエンスに入る。
北側に続いて東側への降下を開始した。
既に行われている北側での戦闘はさすがメイア、ギリスが指揮を執っていると言ったところ。圧倒的なコンビプレイが降下中のポッドドングリからでも観測できた。
阿鼻叫喚。
戦場は混乱の声と怒号が飛び交っている。
泣き叫ぶ民間人も巻き添えのカオス空間が形成された。
首脳陣らは会議が開催されていた【月の臍】からの退避を選択するが、開閉扉の電源がロックされていた。最重要機密を意思決定する場。何重もの特殊装甲で構成された出入口。人間業では到底突破は不可能だ。
「これを含む、これから起こる全ての悪夢はフェーダの攻撃だ。」
完全なる檻へとシステムハックしたフェーダ。
人類に対して、彼らは選択の余地を与えない。まるで線路を伝う鉄道のように、迷い道無き計画。
計算され尽くしたミッションを遂行していく。
第2波が地上に降着。
第1波の攻撃で人類側の戦闘指揮機能は不安定な域に達している。
北側を制圧するはずが、第1波の攻撃はツインサイド北東西にまでエネルギー衝撃波が拡散されていた。
それほどまでにメイアとギリスが暴虐を尽くしたのだ。それを確認したSARUは南側の制圧を行う予定だった第3波を西側に変更。第3波の降下を開始した。エゼルディは急速旋回、スラスターを急制動させ南側へと向かう。
人類側の航空部隊は全て撃墜。
第3波は遊覧飛行のように、なだらかに滑空。
時たま目に映る兵隊を指ポキをするように簡単な作業で殺しながら。
SARUは己の力を全世界に見せつけようと自らが最終波となり、まだ被害の少ない南側へ降下することを決定する。
第3波コードユウチ、コードデッキが降着。
だが西側エリアは壊滅状態。はしゃぎすぎたメイアとギリスをユウチが叱る。
[見てて。]
最終波、SARUが率いるチーム【フォースラグーン】が降下を開始。この班のSARU以外のメンバーは高濃度なユベルゲノムの吸入に成功した完全体。全員が統合末端攻撃統制官になる素質がある。完璧で究極の身体を手に入れた、フェーダ最強のチームだ。
未だ制圧下に置かれていない南側から、ツインサイド周辺領域に設置されている機動作戦部隊が地鳴りのように流れ込む。SARUは北側、西側、東側エリアを制圧した部隊に待機を命令する。
「僕がやるよ、見ててみんな、すごいことやるから」
SARUが先行して降着、他のフォースラグーンメンバーは浮遊状態を維持。
多勢の特殊部隊、ありとあらゆる兵器、銃火器、カーゴトラック、対戦ヘリ、戦車が各方角エリアに向かいその場を奪還しようとしていた。それをSARUが止めた。人類は一斉に武器を構えてきた。
その表情は皆一色、僕に慄いていた。恐怖していた。断末魔を見るような目。
僕は興奮した。
憎悪の対象がこんなにもいる。
無駄な戦いに何故コイツらは集結するのか。
意味がわからないけど、嬉しかった。
来た甲斐があったと思った。
すると一人の男が荒い呼吸の中、大きく一息を吸った。
──
「わかっている、我々人類は君達に許されないことをした、だけどもう十分な筈だ。頼む、やめてくれ。民間人も巻き込んでいる。女子供、君達には関係ない筈だ。今からでも間に合う。君たちと人間、我々は一緒の空間を生きれるはずだ。共存する道を選んでくれ。」
──
今さら何を言ってるの?こいつは。
ウンザリしたし、ガッカリもしたし、憤怒した。
お前たちが僕らの人生を壊したんだ。くだらない。憎たらしい。気持ちが悪い、気分が良くない、こんな声を聞く前に殺しておくべきだったと思った。
SARUは右手を広げ、相手に見せる。
その掌から高エネルギー収束帯が放たれた。
その瞬間から南側エリアの戦闘が始まる。
SARUへ一気に放たれる銃弾。
その銃弾をSARUが左手で生成したバリアで全て受け止める。実弾では煙などの砂塵は生まれず、ロケットランチャー等の重火器類でようやくの爆撃音を聞くことができた。
高エネルギー収束帯が発現。爆煙を一気に振り払う。光速スピードで敵陣の目の前に現れるSARU。
SARUは呆れた言葉を吐き、機動作戦部隊へ、ユベルゲノムを装填した攻撃ビットを放つ。SARUの猛攻は止まらない。左右広範囲から反撃を行っている機動作戦部隊をサイコキネシスで中心部へと強制的に寄せ集める。引力で真ん中へと引き寄せられた人類は身体と身体がぶつかり合い、激痛の声が轟く。
「やれ。」
南側エリア直上に浮遊待機していたフォースラグーンメンバーが地上の人類へ【グランドスイーパー】を使用した。ユベルゲノムを供給された指向性対人地雷。フェーダが開発した特殊ウェポンユニットだ。1000以上もの敵部隊をグランドスイーパーが容赦なく爆殺。敵部隊を壊滅させた。
フォースラグーンが高高度降下空挺攻撃部隊全班と合流。
フェーダは歩みを止めることなく、静かに行軍。たまに発見する人類の生存を発見したら殺していく。その様子がギリギリのところで分断されずに済んだ離れ地にいるテレビクルーによって生放送される。それをエゼルディがサイバーハック。都市内の監視カメラが全方位フェーダの方を向き、視覚化情報が鮮明になる。SNSの情報共有システムにもそれは統合映像として生配信された。
SARUは人類に向かって宣言する。
─
「ひれふせ、獣の前に。うけとめてね、神の裁きを。」
─
[ツインサイド・王宮カリーシ]
フェーズ3、首脳陣を幽閉している【ツインサイド・王宮カリーシ】へ侵攻開始。
この分断されたツインサイドにはもう人類は残っていなかった。
フェーダは戦闘を行うことなく、行軍。
左右に一人一人が広がった全翼フォーメーションをとり、辺りを見回しながら突き進む。
ツインサイド・カリーシに到着。
白一色で構成され、大小異なるサイズの塔が中枢区域に存在する城の周辺にそびえ立っている。
ツインサイド大統領府のインフラ整備を始め、国際ハブ施設の統制を担うターミナル的役割を持つ世界的最重要施設。
フェーダは城の中へ。
─
「もうやめてくれ。」
─
まだいるんだ、と思った。もういちいちめんどくさいなと、喉の奥から溜め息をついた。
あえて攻撃行動を見せまいと、止めていた歩行を再開させると相手は射撃することも無く、場所をどいてくれた。じゃあ来んなよ、と思った。人類には決断力が足りない。最後までやり遂げようとする気概を感じない。まぁ別に人とそこまで居たことないからよく知らないけど。フェーダネットワーク班が昨今の戦闘データを元に人間に関する自我境界と神経回路のアルゴリズム方式を編み出した。この回答は間違いないもの『確定』だと断言されている。
ただ僕は、これを不確実なもの、デリート要素を含んでいるもの、つまり人類に対して内的宇宙への介入は不要だと思った。
僕達があえて攻撃しなかったそいつがその後、どうなったのかは知らない。
[月の臍]
月の臍に行き着いた。人間が造形する建築物は簡略化した方がいいと思う。要所要所に不要な物が多すぎる。そういう思考を働かせていたら、着いていた。
眼前には世界各国の首脳陣らが我々を見て怯えていた。
すぐに殺した。
内蔵が抉れ、全員の臓物が露出した。内側から爆殺させた。
フェーダメンバーは皆、呆気にとられた様子だ。
「あ、殺しちゃった。」
「最期になんも聞かなくてよかったのSARU?」
「ええーー、もっと楽しみたかったぁー!」
「大元だよ?私たちをこんな目に遭わせた…。」
皆がSARUの即殺に反対したがもう済んだこと。しょうがないとは思ったけど、あまりにも急すぎたから驚きすぎて反対せざるを得なかった。それでも目的は達成された。SARUは足早に王宮カリーシを後にした。フェーダはエゼルディへ帰還。
【オペレーション: プラクセディス】完遂。
スフィアシュバルツの外周には無数の対戦ヘリとガンシップが待ち構えている。SARUはスフィアシュバルツの高エネルギー飛翔体を対戦ヘリらに向けて解放。
暗黒バリアの力を失ったスフィアシュバルツのエネルギー飛翔体が波状攻撃となり、ガンシップを襲った。
為す術もなく撃沈。
エゼルディはステルスモードとなり、彼方へ消えていった。
スフィアシュバルツが消失した時、ツインサイドに久々の太陽が射し込んだ。
青空だった。
何事もなくその日をいつも通り過ごしていた人々。
その何気ない日常はセカンドステージチルドレンによって、奪われた。
だがしかし、その青空を見上げる生存者がいた。
[約束されていない目覚め(エピローグ)]
見たこともない、想像したこともない、感情がえぐれるような酷い光景が視界に広がる。
私は生きている。
生存者は歩いた。
見た限り、私だけだった。
倒壊した建築物が無数に倒れ、血腥い場所もあった。人が沢山死んでいる。
破滅的大敗。
花の都だったツインサイドは都市機能を完全に失っている。
死亡者は…、、、、どうなんだろう。
私以外いるのかな。
99%の人工量死んでると思う。
一区画しか目には映っていないけど、この有様は他も同一だと思う。
1%の希望を残しておくことにする。
まだ生きたい。
死にたくない。
けど、私以外にも生き残るべき人がいたよね?
申し訳ないです。
その人たちのためにも頑張りたい。
精一杯生きて、みんなの遺志を残したい。
私に課せられたミッションだと確信した。
神様は私を守護してくださった。
とりあえず歩こう。
1%の希望を信じて、生存者を探そう。
そしてこんな目にあわせたあいつらを許さない。
突然ツインサイドに鳴り響いた轟音。
今まで聴いた事が無かった国民保護サイレンというやつを、、まさか正式に聴く事になるとは…。
絶対に、許さない。
殺してやる。
あんたらが殺したいのは私たちじゃないでしょ。
なんで関係ない人を巻き込むの?
叱ってあげなきゃね。会ったら絶対。
私はこの大地を愚直に前進している時に、なにかを感じる。
細胞レベルで引き寄せられるようにそれに近づいた。目に映ったのは瓦礫が覆い被さる大地。
でも何かが付着してる気がする。
そのなにかに向けて手を差し出した。
直接触れた。
すると脳内に無数の視界映像が駆け巡る。
《Abscheulich Ritter》
《Ewig Liebe Wachter》
《Extremer Traurig Drachen》
《when my wish comes true,i can disappear completely》
《A brank-faced mosquito falls》
《but it was beautiful because it was unpopulated no humans there to warp it 》
《drifting through the dark envelopes the girl》
《her heart is overcome by a world awash in cruelty,harshness,hatred and loneliness》
《why are you still here? i told you to go》
10秒ほど痙攣状態になり、その後はしばらく身動きがとれなかった。
だけど理解した。
この状況も理解した。
自分が本当は何者なのか理解した。
自分が接触したのはあの人の遺伝子情報だと理解した。
主君からのメッセージを受け取った彼女は任務を遂行していく。
でもどうやら、このメッセージは私が受け取るものではなかったみたい。
だから、余計なものも見た。
私が見てはいけない記憶だ。
やっぱり、君がいる。
さっきまで見てた青空の色が虚しく見えた。
不敵な笑みを浮かべ、彼女はその場から立ち去った。
彼女の名はエリヴェーラ。
「大好きだよ、待っててね、サリュー。」
作品タイトル
『イナズマイレブンGOクロノストーン外伝/夭折の叛逆 Ver.0808-0902-****』
『INAZUMA ILEVEN GO2 spinoff/certainty many more days bear forgetting than joyful commemoration』
著者:沙原吏凜
『イナズマイレブン』シリーズ原作:レベルファイブ
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