さよなら、ママ。
私は、あなたのことが好きだった。
これからも、ずっと好き。
私は、あなたのことが怖かった。
理由はあったはずだけど、
幼い私は、叱られた原因に辿り着けなかった。
おねしょをしたっけか。
嘘をついたっけか。
友達を殴ったっけか。
わからない。
唯一理由をはっきり覚えているのは、
あん団子しか知らなかった私が、
みたらし団子の甘じょっぱさにびっくりして、
それらをゴミ箱に捨てたとき。
食べ物を粗末にしないこと。
あれからずっと、守っている。
ブランコの立ち漕ぎ。
アナログ時計の読み方。
マリオの1-2の隠しステージ。
精子と卵子から人間ができること。
アダムとイヴの話。
縄抜けの仕方。
中原中也の『また来ん春…』。
別役実の『淋しいおさかな』。
灰谷健次郎の『兎の眼』。
サン=テグジュペリの『星の王子さま』。
大人の女性が『くん』付けで呼ばれる理由。
食べ物を粗末にしないこと。
愛着。
トラウマ。
この命。
あなたが、私に遺したもの。
時が流れて。
私はあなたより、年上になってしまったよ。
なあ、小娘。
あんた、やっぱり、早過ぎた。
これからも私は、
あんたを美化し続けていくだろう。
今が一番、美しい。
あんたはいなくなった。
そして、ずっとここにいる。
そういえば、言ってなかった。
言えなかったし。
言ったつもりになっていた。
さよなら、ママ。
さよなら。