🌳三題噺 #8
木炭 重低音 ほうき星
吉兵衛は、街道を歩いている。夜空に満点の星があった。一晩で数えられないほどの星灯が黒色の空を満たす。つまり遠く永く天の川が見えていた。
歩きながら、子どもに聴かせて眠らせる優しい唄をうたっていた。背中には小さな女の子が負ぶわれていた。すやすやと寝入って安心した表情でゐる。
一日中、おとと様おととさまと言ってはしゃいでいたから疲れてしまったのだろう。今日は帰りがすっかり遅くなってしまったので、きっと家の者が心配して待っている。
母親は、この子が産まれてからまもなく死んでしまった。いつも家の者に子守を任せ木炭を売りに出ていたが、今日だけは聞かなかった。一日くらいいいかと思い連れ出してしまったが、明日は連れていけぬ。
防人に立ちし朝明の金門出(かなとで)に手離れ惜しみ泣きし児らはも
古人は、どのような想いで和歌を詠んだのだろうか。
低く優しい響(ひびき)は、穏やかなこきゅうとともに夜の閑さに心地よく溶けていく。
わが子を背負いながら広い空をつと見上げて大きなほうき星があった。
起こして見せてやりたいがそういうわけにもいかない。
すると、ふと娘は目を覚ましたのか、ととさまほうきのような星が見えるねとむにゃむにゃと小さい声で言った。...
銀(しろかね)も金(くがね)も玉も何せむにまされる宝子にしかめやも
山上憶良