【中国留学】あの味を忘れないよ
留学初日、上海についた途端5時間さまよったわけだが、なんとかアパートにたどり着いた。
一般的に、中国のマンションやアパートの1階は、道路に面して小売店のテナントが長屋的に連なって入っている。私のアパートの1階にも飲食店が入っていた。
ずぶ濡れになりながら散々歩き回ってヘトヘトになった、上海での初めての夜。とりあえずその店に入って、適当に肉が入ったチャーハンを注文してみた。壁に掲げられたメニューを見上げて口頭で注文するタイプの店で、指をさしてもなかなかピンポイントで伝わらない。しかもメニューに写真がないので読める単語を選ぶしかない。辞書を引いていたらキリがないし…。
たどたどしすぎて、注文するだけでも数分かかる。後ろに並ぶおっちゃんの圧力を感じる。ひええ 对不起 对不起...
なんとか注文し終えて席に着きまるく縮こまっていると、看板娘のお姉さんが、ほわんほわん湯気のただよう出来立てチャーハンを私の目の前に運び、そしておもむろに冷蔵庫から紙パックのジュースを取り出してきて「飲みな」と手渡してくれた。突然のプレゼントに一瞬唖然としたが、下町風の飾らないほほ笑みに、ありがたく頂戴することにした。
なんの変哲もない、ジュースの一滴一滴が、五臓六腑に染み渡った。お姉さんの優しさを噛み締めながら、ちみちみ味わって飲んだ。チャーハンももちろん絶品だった。最高の晩餐だ。以来、私はそこの常連になった。
数ヶ月経ったころ、そのお姉さんがラーメンを運びながら「中国語うまくなったね」と言ってくれたのが嬉しかった。一番安い、塩胡椒だけの塩分ラーメン(と私に呼ばれている)が、とてつもなく美味しく感じられた。もはや塩か涙かわからんが、このしょっぱさは未だに記憶に残っている。今度中国に行ったら、またあのお店に行って 塩分一丁!と注文したいものだ。
なんだかまた、トラブルを書くつもりで、いい感じに締めてしまった。お姉さん、ありがとう。
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【七転び八起記】つづく>>
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