谷桃子バレエ団「ラ・バヤデール」@上野文化会館 1月19日昼公演、の巻
※1月18日夜公演の感想はこちらです。
この記事の中に、あらすじも書いておきました。
https://note.com/lilalicht8/n/na24f3f462144?sub_rt=share_pw
まずは本日の公演の写真から
本日も日原永美子先生が、
「今日の思い出を世界に拡散してくださ~い」
と軽やかに仰るのでw 撮らせていただきました。
昨日と今日の取りこぼしから
舞台装置のこと
今回はまず、舞台装置の豪華さに圧倒されました。
奇しくも少し前、私はXで「ジャニーズのコンサートにおける建込み舞台装置の豪華さと贅沢さ」について語っていたのですが、今回の「ラ・バヤデール」公演でもそれを目撃しました。
上↑の写真をご覧いただければおわかりの通り、壁面にインドの神々の彫刻が施してある、2階建てか3階建てほどの高さになる可動式の壁が左右で合計6面、どーんと現われます。
これが、主に王宮のシーンに使われているわけですが、それを左右に分けると、寺院になったり、最後の黄泉の国のシーンでニキヤとソロルを神々が見守っているような演出効果が出ます。
こんな豪華なレリーフの施された建込み舞台装置、なかなか見れないですよ・・・
そして、最後の黄泉の国に天上界から射し込む、雲間の光の美しいこと!
舞台装置は妹尾河童さんの手によるものと知り、納得しかありません。
この美しい舞台装置、もう一度見たいなぁ・・・
なんて贅沢な空間だったんだろう。
音楽とオーケストラのこと
「ラ・バヤデール」の音楽は、荘厳でとても美しいですよね。そしてドラマチックで、何度も繰り返し聞きたくなる。
今回は全公演オーケストラの生演奏が入っていました。
指揮は、斎藤友香理さん。演奏は、Teater Orchestra Tokyoでした。
斎藤さんの指揮は、大変歯切れが良く、聞きやすかったです。句読点がはっきりした指揮だなぁと思いました。ということは、踊り手にとってはとてもいい指揮だったのではないでしょうか。踊り出すきっかけがわかりやすいので。
私はオケを聞くとき、どうしても金管の音を中心に聞いてしまうのですが、Theater Orchestra Tokyoは金管の音がほどよく伸びやかで繊細で、とても好きなタイプの音のオケでした。
劇場演奏を主たる演奏活動にしているそうで、前に出すぎないバランスも絶妙。いいオケだなぁ、と思いました。
やっぱり生演奏付きの公演はいいですよねぇ。
衣装のこと
今回の衣装はとにかくかわいい!
エキゾチックでオリエンタルなデザインでパキッとした色がとても美しい。
さらに、ソロルの色、ニキヤの色、ガムザッティの色・・・とイメージからを設定してくださったので、役柄の理解にもとても役立ちました。
華やかでかわいくて、こちらも目のごちそう、といった感じでした。
イヤホンガイドのこと
今回も、イヤホンガイドを借りました!
18日夜は高部先生、19日昼は声優中野萌さんによるナレーションでした。
やっぱり、イヤホンガイドは必携ですよ~
ラ・バヤデールに見られるハンドサインのこと、インドのカースト制度のこと、要領よく手短に説明してくださって、物語の理解を助けていただきました。
そしてやっぱり、踊っている方の名前がすぐにわかるのがとてもいいです!
今後も是非とも続けてください。
私も頑張って借り続けます!
開場前・休憩中のロビーのこと
プログラムの販売、イヤホンガイドの貸出しのみならず、グッズの販売や、バレエ団の団員の方々、高部先生がいらっしゃって撮影会が開かれたりして、とにかく活気がありました。
こんなに賑やかな開場前、幕間は、バレエ公演では珍しいかもしれません。
文化会館のロビーが広くて良かったw
ただ、ちょっと動線がわかりにくくなっていて、移動しにくくなっていたのが残念だったかなぁ・・・もう少しここは改善されるといいなと思いました。
キャストに関する短い感想
さて、今回もキャストに関する自分勝手な、そして暑苦しい感想を少々・・・
ニキヤ=倉永美沙
倉永さん! 倉永さん! 倉永さん!!!(昨日の二山さんに続き・・・w)
今回の公演、見に行きたい!と即決したのは、倉永さんがニキヤを踊られると知ったからでした。
これを見逃したら、多分私はあとでものすごく後悔する。
そんな直感が働きまして、すぐに動きました。
もうね・・・その直感は正しかったですよ。
倉永さん、圧巻でした。
とにかく回転が速い。そしてしなやか。
倉永さんの腕が、手が、指が虚空を滑れば、そのあとに綺麗な流線が描かれているのが見えるような気がしました。
手の先指の先から光の残像が線になって描かれていく・・・そんな感じです。
動いているところももちろん隙なく美しいのですが、特に一瞬止まってトゥで立つ姿の美しさったらありません。
指先まで綺麗に伸ばされ、体をギリギリまで伸ばしているように見えて、決して伸ばしすぐない、曲げすぎない。
倉永さんの頭の中には、美しく見える顔の角度、腕の角度、足の角度が全部記録されていて、常にベストのポジションに配置されるよう体が訓練されているのだと、そんな気がしました。
連写でとっても、多分どの写真も美しいです。
足も体幹も強いから、全然ぶれない。
いつどのような着地をしても、綺麗に5番や1番の足のポジションに入っている。
基礎を決しておろそかにせず、人体の研究を積重ね、そして筋肉と技を鍛え続けている。
それを淡々と毎日続けられる、本物のプロなんだと教えられた気がしました。
仕草の一つ一つに胸を打たれました。
機会があったら、また倉永さんの舞台を見たいです。
ソロル=森脇崇行
YouTubeお稽古の様子を見ていたら、森脇くん、にっこにこだったんですよね。とにかく踊るのが楽しい!と。そんな気持ちにあふれた笑顔でした。
倉永さんというプロ中のプロ、プリンシパルの相手役を演じることで、踊る楽しさに目覚めたのでしょう。
それもあってか、森脇くんは急成長を遂げていました。
まず、線の細さが消えて、たくましさが出てきたと思います。王子として頼れる感じ!
そして、若い! ジャンプが高い! 勇ましい!
森脇くんのソロルは、闘志の見える「戦士」という感じが前に出ていました。
それでいて、ちょっと青臭いんですよねーw
倉永さんのニキヤと踊っているときはにっこにこなのに、光永さんのガムザッティと踊っているときはぶすっとしているというか、ビジネスライクというか。
おいおい、ソロル、そんなに態度に出してええんかい?w
八方上手くまとまるよう振る舞っていた今井ソロルに比べ、森脇ソロルは自分の気持ちに正直な人でした。
ジャンプも大胆でダイナミック。
みていて気持ちがいいくらいビュンビュン飛んでくれます。
上り坂にある人の演技・ダンスはみていて楽しいですね。
演技もとても良くなって、これからが益々楽しみです。
ガムザッティ=光永百花
光永さん、腹筋が綺麗・・・
最初に思ったのがそれでした。
YouTubeで見ていたときより、体が絞れていて、とにかく腹筋に現われる縦の筋が美しかったです。
私、そういう根性のある人好きです。
その「根性のある感じ」がびっくりするほどガムザッティにはまっていたと思います。
ガムザッティの気位の高さはもちろん、ソロルとの間に歴史があるニキヤに対しても臆することのない図太さ、ニキヤへの殺気、ニキヤに見えるようにソロルに口づけを強要するときの悪い顔ったら!
光永さん、女優ですよ。肝の据わった女優だと思いました。
ダンスも安定感があって、失敗するんじゃないかと不安になることがありませんでした。
いい方が谷に入団なさいましたよね。
私、光永さんが高笑いするオディールを是非見たいと思いました。いい表情してコケティッシュに踊ってくれそう!
バラモン=三木雄馬
三木さん、なまじお顔が綺麗でいらっしゃるから、悪役メイクをすると色悪っぽくなっちゃって・・・w
バラモン、かっこよかったです。
それでいて、ニキヤに言い寄るところがスケベおやじ丸出しで・・・もしかして三木さん、悪役演じるのお好きですか?
そういえば、ロットバルトも楽しそうでしたよねw
イヤホンガイドの幕間ラジオで、永橋あゆみさんが、
「雄馬は本当に頭の形が綺麗で・・・」
と仰っていましたが、顔といい、頭といい、綺麗ですよねぇ。
綺麗な方が嬉々として悪役を演じていらっしゃるのを見るのは、楽しかったです(しかもバラモンは、悪役といっても悪役になりきれない優しさのある人だしね)
マグダヴェア=二山治雄
まだまだ語らせてください、二山マグダヴェア。
今回は、細かい所作に注目してみていました。
マグダヴェアって、割と舞台のあちこちにひっそり登場して控えているんですが、その間、休むことなく演技し続けてるんですね。
例えば、1幕2場で、バラモンにニキヤの白いベールを持っていることを見とがめられ、はっとするところとか。
その白いベールはバラモンに取り上げられるのですが、そのあと、本当に悲しそうに嘆いている様子を全身で表しているんです。
マグダヴェア、いじらしい・・・(涙)
もう、完全にマグダヴェアに感情移入ですよ!
こんなところで判官贔屓発動か!(←自分につっこんでますw)
ブロンズ=牧村直紀
プログラムでは「仏陀の踊り」となっていますが、一般には「ブロンズ」で知られるパート。
色々なバレエ団の、金粉で全身の肌を装飾した扮装のブロンズを見る度、
「この人、皮膚呼吸はどうしてるんだろう?」
と思います。
しかもこの扮装で、ジャンプをぴょんぴょん跳ぶし、そのジャンプの度に仏像の座組を空中で組んだり、手で印を結んだりしてるんですもの。大変すぎる。
牧村さんのブロンズは、「仏」らしく、単に高く飛ぶだけでなく、柔らかくたおやかに仏の姿を現していらっしゃいました。
18日夜、19日昼ともにブロンズだった牧村さん。
ブラボーがあちこちから飛んでいました。
太鼓の踊り=松尾力滝
18日夜、19日昼ともに太鼓の踊りだった松尾くん。
18日はハラハラしたけれど、19日は安定して太鼓をキャッチしていましたね!すごい進化だ。
パワフルで賑やかで、燃えるような舞踏。迫力がありました。
松尾さんの太鼓キャッチもそうなのですが、19日は前日に踊ったせいもあるのか、コールド、1幕2場の女官たち、その他の二幕の各舞踏も、全体にピシッとしていてとてもできが良かったなと思いました。
(ちなみに1幕2場の女官たちの踊りですが、足から伸びるベールのさばき方が難しいのか、18日夜は手足の動きもなんとなくバラバラしていて気になっていたんですよね。それが19日には修正されていたので、とてもいいと思いました)
3幕2場32人のバヤデールのコールドバレエ
圧巻でした。
本当に美しかった。
アラベスクの形で一歩前に出て、アンオーで立ち直る。
その繰り返しなのですが、これを三階から二階、二階から一階へと傾斜する坂道で行うんですよ。
目が回らないかな、とまずそれが心配になります。
それが、そんな心配もものともせず、果敢にバヤデールたちは下っていく。
のみならず、舞台に向かって縦のラインもビシッと揃えてるんですよ・・・
つまり、間合いとタイミングを、全てピタッとあわせに来てるって事ですよね。
18日は少々首の角度が違う方もいらっしゃいましたが(ほんのちょっとですが)、19日にはそれが修正され、完璧といってもいいほどの揃い方でした。
やはり、日本のバレエ団、谷桃子バレエ団のコールドバレエは美しい。
コールドバレエは「生きた舞台装置」です。
基本は動けない。
動けないけれど、一瞬の気を抜くこともできず、踊り出せば前後左右ぴったり合わせなければならない。個を殺し、動きを封じられることを受け入れなければならない、過酷な役どころです。もはや座禅を組むとか、修行をするとか、そのレベル。
今回の32人のバヤデールの皆さん、その大役を見事に果たされていたと思います。
バヤデールのバリエーションも、19日の皆さん素晴らしかったです。
アメリカから帰国した第1バリエーションの森岡恋さん、ものっすごく体幹がしっかりしましたね~ちょっとやそっとでは揺るがない。静止しているときのポーズが確実で、「ああ、上手いな・・・」と言葉が漏れそうになりました。
第2バリエーションの齊藤耀さん、カブリオールが正確で足先まで美しかったです。これ、結構な運動量だと思うのですが、平然として見えるその胆力、お見それしました。
第3バリエーションの白井成奈さん。失礼ながら私、白井さんがこんなにお上手だとは気がつかなかったです・・・ゆったりした音楽がまるで体から出ているような一体感で踊っていらっしゃって、素晴らしかったと思います。
先にも書いたとおり、19日は全般、コールドがピシッとそろっていて、本当に見応えがありました。
ここまで揃えてきた皆さんのプロ意識に、感激しました。
こういうのを、私たち観客は見たいのです。
そのためのお金なら、払うことを厭いません。
とてもいいものを見せていただきました。
ありがとうございました。
おわりに~白いベールのゆくすえ
18日夜公演のイヤホンガイドで判明した、3幕2場で天上から降ってくる白いベールが「マグダヴェアの象徴」であったことについて、あれからずっと考えています。
ニキヤ亡き後のマグダヴェアの願いはただひとつ。「ニキヤの望みを完遂させること」。
そのためには、ソロルを殺すことも厭わない。
ベッドの上でぐったりしているソロルに向かって、階層があがったマグダヴェアが「死ね」というハンドサインを見せます。
1幕1場でソロルがマグダヴェアに向かって見せたのと同じハンドサイン。
ここで、ソロルとマグダヴェアの立場が逆転したことが示唆されます。
でも、マグダヴェアって修行僧なんですよね・・・
マグダヴェアのハンドサインにはダブルミーニングがあったのではないかと、私は考えています。
ストレートに「お前は死ね」という命令形。
もうひとつは「お前は死ぬのだ」という現在完了形。
ソロルに死を受け入れさせる命令形と、ソロルに死んで自分の望みを成就させて欲しいと願う現在完了形。
谷版マグダヴェアの感情の複雑さについて、思いを馳せています。
そして、「マグダヴェアの象徴」であるところの、黄泉の世界でニキヤとソロルをつなぐ「白いベール」。
私は昨日の感想で、こんなことを書きました。
「しかしそれは、「源氏物語」のような、人の想いが複雑に交錯し、小さな小道具や自然に想いを託す物語を、千年に渡って読み継いできた、日本人だから発想できる、そして日本人だから納得できる…そういう類の魔改造。」
私がこんなことを考えたのには理由があります。
あの二人をつなぐ白いベールを見た瞬間、こんな和歌が頭によぎりました。
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば
忍ぶることの よわりもぞする
百人一首にも採用されている、有名な和歌ですね。
私にはあの白いベールが、「玉の緒」・・・つまり、魂と魂がつながれた緒のように見えました。
ニキヤとソロルの「魂と魂をつなぐ」白いベール・・・それがマグダヴェアを象徴しているのだと。
白いベール一枚でこんなことを考えるのは、考えすぎでしょうか。
しかし、白いベールがマグダヴェアの象徴で、それがニキヤとソロルを結びつけているのであれば、決して無理な解釈ではないと思います。
そもそも、人魂のような「魂の形」を想像し、その魂の尾っぽが結び逢っている様子を想像できるのは、日本独特の文化であるように思います。
マグダヴェアに対する判官贔屓的な視点から発展したこの新解釈は、多分に日本の古くからの文化に内包された要素に支えられているように、私は感じました。
「ラ・バヤデール」というインドをモチーフにしたバレエが、日本文化との親和性があるように演じることができる。
広くアジアに伝わる宗教観が根底にあるかもしれません。
玉の緒よ 絶えなば絶えね・・・
ソロルの自室から、凜とした姿で立ち去っていったマグダヴェアの背中に、こんなにもぴったりな和歌もないよね。
東京文化会館をあとにするとき、私はそんな、切なく悲しいけれど美しい妄想を、頭の中に思い浮かべていました。
谷桃子バレエ団版ラ・バヤデール。
2公演、楽しませていただきました。
ありがとうございました!