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#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門「窓をめぐる物語」(メガネ)(ブラウス)第1話

<あらすじ>
窓をめぐる2つの物語。『メガネ』は母親を亡くした少年のお話。父親と穏やかに暮らす一方で、段々と居心地の悪さを感じ始める。そんな中で思い出したのが、本当の自分になれる窓がふいに開くというかつての体験。少年は独自の方法で、その窓を開けようとするが思わぬ事態に。
『ブラウス』の主人公は若い女性。大きなガラス窓のあるカフェで、子供時代のピアノの先生と再会する。昔から美しく、今はカフェを営む先生と過ごす中で主人公が持った違和感は、記憶の欠片を掘り起こし、窓の外の雪景色に、不可解な現実を描き出す。

「窓をめぐる物語」第1話 メガネ(1)

うすぼんやりしたお日様の光が、少し透明になって春を感じた日。お母さんがいなくなった。病気だから仕方ないと思うことにしたよ。だけど今、僕が欲しいあれは、一体どこにあるんだろう。それは僕を本当の僕にしてくれる窓。場所も時間も関係ない、ふいに開く窓なんだ。お母さんが死んでしまうなんて思ってもみなかったころ頃から、それはあったよ。僕はそれが今欲しい。

いつだったかな。ものすごく早く学校へ行った日、その窓が開いたのを覚えている。校舎は静まりかえっていた。少し怖いくらいに。その時、僕は本当の校舎を初めて見た気がした。廊下には泳げそうなくらい朝日が流れ込んでいて、上向きになった水道の蛇口の先に溜まった水まで、ぱんぱんに光を吸い込んでいた。そして僕も、そこにいる僕が、本当の僕だと分かった。上手く言えないけど、僕のパズルのピースがちゃんと全部はまっている感じかな。水飲み場の横を通り過ぎた時、蛇口が僕に言ったんだ、おはようって。

校舎の屋上でその窓が開いたこともあった。明け方に雷が鳴って、それからすごい雨が降って、風が吹いて、学校へ行く時間に晴れてきたんだ。だから休み時間は屋上で遊ぶことにしたんだけど、屋上の扉を開けて外へ出たら、僕も、友達も、みんな空に見とれちゃったんだ。すごい速さで雲が流れていたんだ。色んな雲だよ。水色の空が透けて見えるくらい薄い雲や、タンポポの種みたいな雲、のっぺり重そうな雲。そのうちに少し離れたところから、ものすごく大きくて強そうな雲がぐんぐん、押し寄せてきた。

雲と雲が衝突する。

どきどきした。そしてものすごい音が響いた。友達もみんなじっと黙って雲を見ていたから、きっとその音を聞いたんだ。そこにいたのは本当の僕だった。僕の好きな僕だった。空を見上げながら、僕は僕の正しい重みを感じていた。友達はどうだったのかな。

だからあの窓を探したいんだ。だってよく分からないんだよ。お母さんが死んでしまってからの色んなこと。心配されること、はげまされること、そこにいる僕は僕じゃない気がする。そんな時はいつもうそをついている気分なんだ。

第2話 メガネ(2)
https://editor.note.com/notes/n3b03c53fc3af/edit/

第3話 メガネ(3)
https://editor.note.com/notes/n6ef497657e56/edit/

第4話 メガネ(4)
https://editor.note.com/notes/n2ee6de137aa9/edit/

第5話 メガネ(5)
https://editor.note.com/notes/n59700d5a0ba3/edit/

第6話 メガネ(6)
https://editor.note.com/notes/n17052f3e19ff/edit/ 

第7話 ブラウス(1)
https://editor.note.com/notes/nae1bb3a092e0/edit/

第8話 ブラウス(2)
https://editor.note.com/notes/n2c24bf08d4e4/edit/

第9話 ブラウス(3)
https://editor.note.com/notes/n1e42539a09c4/edit/


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