生まれ故郷のIDを失った香港出身の元同僚の話
久しぶりに、前職の元同僚からWhatsApp にメッセージをもらった。
彼女は香港生まれ、BNO(British National Overseas)パスポートホルダーで、2年前にUKに移住した。彼女と私は年齢も業務経験も近くチーム内でオンライン上ではあるがバディとして動いていた。
たわいのない近況報告のあと、本題。
最近彼女は香港IDカードを入れた財布を紛失したという。銀行のカードやクレジットカードはすぐに電話一本で再発行手続きが完了したが、香港IDカードの再発行は、一旦彼女の故郷に戻って所定の官庁で手続きをしなくてはならない。
彼女は続けた。
『私はHK IDカードの再発行はしない。私のパスポートはUK政府が発行しているから香港にIDやパスポートの発行依頼をする必要がない。私はこちら(UK)で同じように香港から移住してきた友人達、法律の専門家にも相談したし、何より香港政府は信用できないと皆言ってるし私もそう思っている。だから私はこの結論に至った。』
彼女の言葉から、現香港政府へ強い不信感が窺えた。
実際、最近数ヶ月で、海外に移住した香港人が香港に戻ったところ逮捕されたケースが二桁台だそうだ。理由はいろいろで、反政府的なSNSへの書き込みを海外から行なった人、海外に移住するので年金基金を役所で宣誓して解約し受け取ったのにまた戻ってきて香港で就業した人、などがあったという。元同僚は、自分も香港に戻ったら同様にマークされる可能性が高いのでもう戻らない、と言い切った。
香港からUKに移住した場合は、UKと通じる国家資格を持った士業や師業でないと、香港にいた頃よりグレードダウンを覚悟しないと仕事を見つけるのが厳しい、それでも住宅環境は香港よりはるかに良く、子どもが学校で愛国教育の洗脳を受ける心配はないので、安心している、とも彼女は言っていた。
私が学校を卒業し日本に戻って某多国籍企業で社会人生活を始めた頃、四半期ごとに本社主催のミーティングがあって、各国支社の同僚達に会う機会があった。
その時、香港支社の人達は、日本より市場は小さいのにいつも大人数でミーティングに現れた。中国に返還され10年くらい経ても、アジアなんだけど、元植民地だったのでイギリスっぽさもあって、日本や韓国みたいな元々の自国文化を推さないというか独特なギラギラ感を醸し出していた印象がある。彼らにとっては中華文化とイギリス文化が混ざっているのが物心ついた時からデフォルトで、アジアっぽさに偏重がなかったのかもしれない。私の知る香港支社メンバーのうち何人かは、元同僚同様にUS、カナダ、UK、オーストラリアに移住したとSNSで告げていた。
私個人的には、今の香港は英語が公用語で税制優遇措置のある点を除けば、深圳や広州とあまり変わらなくなってしまったような感じを受ける。
第三者の私がそう感じるのだから、昔の香港、特に返還前に生まれその時代を少しでも覚えている人達がその変わり様から受けたインパクトは計り知れないだろう。
UKを自分の新しいホームタウンとして選ぶ覚悟を決めた元同僚に、Add oil and all the best🥂とメッセージを送ったら、💪🏻と返事が来た。