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圧倒的な孤独を学んだ女王【ヒプノセラピー体験談】


いつものんきで大らかな私ですが、調子が狂うときもあります。
これは、何をしてもずっと「悲しい気持ちがぬぐえない」状態になってしまったときに、しっかり深く向き合ったヒプノセラピーのお話です。


★青いビーズと刺繍の飾り


ずっと悲しい気持ちがぬぐえずにいました。
むりやり言葉にするならば、「私が相手を大事に思っているほどには、自分は愛されない」というもの。
恋愛とかではなく、普通の人間関係です。

――相手の気持ちなんて関係なく、好きなら勝手に好きでいればいい。

そうは思うのですが、できなくて苦しくて苦しくて。むしろどんどん、「私は嫌われているんだろうか」などど感じてしまうのです。

ヒプノセラピーに入ると、目の前に白くツルツルしたドアがありました。
扉を開けた向こうは、見渡す限りの砂。
砂漠……にしては少し湿り気がある気がします。
平坦な場所ではなく、高低差がだいぶある、谷のようになっているところでした。谷の部分に水があるのかと思ったら……何もありません。私はそれに失望しそうでした。……水を探しているのでしょうか?

よく分からないので、次の場面に行きます。

青と緑……ターコイズのような色合いの、見事な刺繍飾りが目の前にあります。ビーズと糸で編み込んだ、襟飾り?でしょうか。
とても立派で手の込んだ、美しいものです。一目で高価なのが分かります。
それは私に手渡されました。

私は白い柔らかな布の服をまとっており、肩にその青い襟飾りを載せました。私はまだ若い女性でした。

とにかく、その見事な技術に感動しています。素晴らしい技術と根気で、作り手を褒めたいと思いました。しかし、相手は誰なのか分かりません。

それだけ、なのです。
その部屋には私しかいません。
ほかの誰かとの交流があるわけでも、出会いがあるわけでもありません。
部屋は広いけれど、まるで狭い牢獄に閉じ込められているような気分でした。
名前は……ハト……なんとか、といいました。


★何もできない、役立たずの王妃


「必要な場所へ」と飛ぶと、胸に苦しみがわいてきました。

私は、孤独でした。
王である夫には妻が大勢おり、私は正妃とはいえ、相手にされていませんでした。食事も夜も、一人きりで過ごしていました。

夫が玉座にあるときは傍らに座っていましたが、ただ座るだけでした。
私が何かを質問したり意見を言ったりすると、無視されました。王妃は黙っていろ、お前に何がわかる、と王に言われました。

そんな状態でしたので、子どももおりませんでした。
食事を一人でとるのは慣れました。
食事を運んでくれた者や身支度を手伝ってくれた者にお礼を言うと、「王族ともあろう方が、従者にそんなことを言わなくてもいい」と窘められました。感謝を伝えたいだけなのに、と思いました。

しかし陰で言われていることを、耳にすることもありました。
「王妃は王に顧みられないから、臣下の情を買おうと必死なのだ」と笑われ、バカにされておりました。私は、聞かぬフリをしました。


私には、仕事がありません。
王族としても、女としても、家庭人としても。
ましてや、手に職もありません。

あの素晴らしい刺繍の作り方を、教えてはもらえまいか、とお願いしてみました。すると「王族がそんなことをするものではない」と断られました。
花や草木の世話をしようとすると、「見ているのが仕事だ」と言われました。
料理を教えてもらいたいと言っても、邪魔そうにされました。

どんなお願いをしても、聞いてもらえませんでした。
王妃だから、と拒否をされ、その陰では王妃のくせにと嗤われました。


それならばぜめて、国のために民のために役立つことをしたいと思いました。
どんなに陰口を叩かれてもあざ笑われても礼を述べ、すべての人に丁重に接し、外に出て施しをしようとしました。止められてしまいましたが。

ふとある日、「祈りは邪魔にならないのでは」と思いました。神殿に行き、祈りに参加させてもらえないだろうか。

すぐに神殿に向かいましたが、神官たちに歓迎されませんでした。
「自分たちこそが、それを行う特別な役なのです。王に任命されたのは我々です。王妃さまはそういうお役目ではないでしょう」

ごく稀に町へ視察に行くときが、一番楽しい時間でした。
町の人は皆、「自分の役目」を持っていました。子どもも、大人も、老人も。


「私には「王妃」という役目があるのでしょうか。王妃とは、何をすべきなのでしょうか。国母だと思っていたけれど、子を産んだり民のことを考えたり、政策をするものではないのだとしたら、何をすればいいのでしょう。奥向きのことも何ひとつできない自分は、何をすればいいのでしょう」

何もしていないのに、国民よりも良い食事をし、質のいい服を着て、宝飾品を身に着けていることが、王妃には心苦しいのでした。


★逃げる


誰も来ない部屋で、青い空を見上げます。
砂埃の舞う空はくすんでいて、でも青くて、美しくて。
「一人で空を見上げているとき」が一番落ち着くなんて、と彼女は悲しく思いました。

あまりに、寂しかった。
どこにいても、孤独だった。
皆に愛を伝えたいのに、大切に思って感謝しているのに、何かを皆のためにすることもできず、何をしても嫌がられるのです。
諦めずにいろいろ働きかけてはみたけれど、臣下の対応は変わりません。
王の寵姫たちには皆すり寄るけれど、彼女の元へは誰も来ませんでした。
「何をすることも」できませんでした。まるで、忘れ去られたような気持ちでした。


ある日、王妃は心が挫けました。
誰にも顧みられないのをいいことに、夜中にこっそり王宮を抜け出しました。
見とがめられることもないまま、地下の通路を渡り、外へと脱出しました。王族しか知らぬ道。亡き母が教えてくれたものでした。

星明りでうすぼんやりとする砂の大地を歩いていきます。深い砂で覆われた道は、徒歩では歩きづらいのだと分かりました。足を取られるし、夜はとても冷え込みます。

いつしか王妃は、王族の墓のある地域までたどり着きました。ここならば、しばらく身を隠していることができるでしょう。

……しばらくとは、どれくらいだろう…と思いました。
そもそも、自分を探しに来る者など、いないのです。
きっとそれは、一生なのでしょう。
もう、戻る場所もありませんでした。

消極的自死です。
お墓に葬られた、王族の皆様に、申し訳ないと思いました。
役に立たなくて、本当に申し訳ございません。


★天界にて

王墓で亡くなった彼女は、気づけば白い石の階段を登っていました。
階段の上からは、白い雲がゆるやかな水の流れのように、あふれ落ちてきます。

なんと美しい……と彼女は胸を打たれました。自分は死んだのでしょう。なぜなら、王国にこんな場所はない気がしたからです。

「このまま登れば、神々の住まう国だろうか」と王妃は考えました。
そう思うと、それ以上進めなくなりました。
自分は王妃なのに国を捨て、民を捨て、責任を放り出したのです。神々に顔向けができないと恥じ、彼女は石の階段に座り込んでしまいました。


それをずっと見ていた「私」は泣きました。
こんなに優しい人が、なぜ、死んでからもこんなに悩まねばいけないのでしょう。

「王妃さま」と駆け寄りました。
王妃は驚きましたが、私の自己紹介を聞くと、こう言いました。
「私がこのように苦しんだ影響が、あなたにも出ているのでしょうか。それはなんと、申し訳ないことをいたしました」

私はそれを聞いて悲しくなりました。
「王妃さまは立派でした。何もできなかったと自分を責めておられますが、あれでは仕方ありませんでした。そんな中でも腐らず、臣下に国民に優しく声をかけておいででした。自分のできることを探し、まっとうしようとしておられました」
「でも、何もできず、結局自ら逃げ出したのです」

あまりに大きな悲しみ。
私は王妃に許可を取り、その胸にあった苦しみを取り出しました。
それは、濃い、少しくすんだ青。
まるで涙にぬれた目で、見上げた空の色でした。
触れると、それが何なのかすぐに分かりました。

圧倒的な孤独。
悲しみ、苦しみ、そしてそれ以上に、深い深い孤独でした。

「この人はこんなに深い孤独に耐えながら、それでも皆に愛と感謝を示し続けたのか」と胸が締め付けられました。


私は、「青」に尋ねました。
なぜ、それを、この人生で、味わう必要があったのか?と。

青は答えました。
「悲しみと孤独を知る必要があったのだ。幸せで満ち足りているだけでは、本当に大切なものに気づかない。圧倒的な悲しみに触れることで、同じように悲しむ人の心が理解できる。理解したうえでの、愛を示せるようになるのだ」

青の言葉を聞き、聡明な女王は頷きました。
「ではこれは、私自身が決めたことだったのですね」
「そうだ」

「青」を癒しました。
色味が変わります。くすみが消え、より深く深く、愛に満ちた藍色に。慈愛の青でした。
そしてそれが、彼女の胸からあふれるように輝きます。輝く光は虹色でした。虹色の光は、私の胸にも、光線のように差してきました。

私は彼女を抱きしめました。
おそらく長い間、こうやって抱きしめられることもなかった王妃を。
美しく、賢く、尊く、愛おしい王妃。

するとそこに、階上から降りてくる姿が見えました。
大勢の存在たち。私の知っている人が、何人も。
それは、王妃……いえ女王のお迎えでした。

「女王、お迎えにあがりました」
「私を……?」
「そうです。あなたこそが、ここを治めるに相応しいのです。本来、あなたにはそれができるはずだった。名君のはずだった。しかし自分の学びのために、あの人生を選びました。学びの済んだ今、もう遠慮はいらないのです。私たちは誰も、あなたを「立場」という眼鏡をかけて見ません。私たち全員が、魂を見て、魂同士で正直に対応いたします。もう何も気にせず、心のままに愛を示し、生きていいのです」

王妃はそれを聞き少し泣いてから、彼らの手を取りました。
そして階段をのぼり、玉座へ座りました。

感謝をし、微笑み、心おきなく、皆のために祈りました。自分の素直な思いを素直なままに表現し、それを受け取ってもらい、彼女は幸せそうでした。
「ありがとう。私はここでこれから、歴史を学び、今を学んでいくわ。あなたも自由に、自分の思うがままに表現して、生きていってね」
そういうと、「自由の翼」というものを私にくださいました。


私には、雲の下が少し見えました。

王妃がいなくなり、亡くなられてから、国の人々……特に王宮の臣下たちが後悔していたことを。
いなくなってみて、王妃がどれだけ正直に、どれだけの優しさと思いやりを自分たちに示していたのか、ようやく気付いたのです。

「誰に対しても態度を変えないのは、王妃さまだけだった」
「王さまも他の寵姫たちも、我々を無下に扱い、利のある者だけに優しく接する」
「これまでは、それを王族だから当たり前と思ってきたけれど、そうではなかったのだ」
「あの優しい王妃さまは、もう、どこにもおられないのか……」


王妃さまはもう、雲の下で、自分が何と言われているかを、気にしてはいません。
何も気にせず、ただ自分の愛を、放出し続けています。



★話は変わって


このヒプノセラピーの後から、私の悲しみはまったくなくなりました。

しかも不思議なことに、「好かれていないかも」「嫌われているかも」なんて思いこんでいた方々からも、久しぶりの方々からも、たくさん連絡が入ったのです。

すべては「自分の眼鏡」のせいだったと、改めて思いました。

この「眼鏡に気づく」「眼鏡を外す」をすることで、どれだけの変化があるかも、改めて実感しました。

簡単ではなくとも、やっぱり「いらない眼鏡」に気づき、外すことは、気持ちよくラクに生きるコツなのでしょう。

目の前にある物事……それがどんな感情でも、どんな出来事でも、やはり「自分の意識」の反映。鏡のように現れていること。
「気づき」、「腑に落とし」、「どちらでもいい」にしていく。
それが、楽に楽になっていくことに繋がるのです。

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