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母とのことを癒す✦後編✦善と悪【ヒプノセラピー体験談】
前回の記事の続きです。
瞑想のあとで、もっと奥へ進むことにしました。
まだ、母と何かあると思ったのです。
★政府高官の娘
・意味深な教会
最初に降り立ったのは、わりと近代的な街。
ストレートの金に近い亜麻色の髪に、白地に金の縫い取りがしてある、丈の短いワンピース。太目で高いヒールの、かっちりしたパンプス。私はスタイル抜群の美女でした。
アスファルトの道を歩き、目の前の大きな白い建物を見上げました。何かの聖堂のような感じですが、「大きさ」には感嘆したものの、その存在にはいい感情を持っていません。「これがあの教会ね……」といった感じ。
何教の教会なのでしょう……それはこのとき、分かりませんでした。
・幸せの場面
「幸せの場面へ」と飛ぶと、青い海が見えました。青い青い海に、白い建物。乾いた、気候のいい場所。ミコノス、と聞こえた気がしました。
私は赤子になっています。
朗らかで元気な母親が私を抱き、楽しそうに海を見せています。
「おいおい、気をつけなさい」
ほほ笑みながらそう声をかける父が、隣に座っています。
母は私と同じ亜麻色の髪ですが、父はとても濃い色の髪と瞳をしています。
どうやらここは自宅ではありません。バカンスに来ているのでしょう。
美しく盛り付けられた魚介の皿に、キレイなグラスに注がれたワイン。質のいい服を着た両親に、落ち着いた広い部屋……ここはホテルなのでしょう。
とんでもなくハイクオリティな生活です。
余暇を楽しんでいると、秘書が父を呼びにきます。険しい表情で会話をしていますが、小声で聞き取れません。
父はどうやら、国の重要な役職に就いているらしいのです。穏やかな顔には、いつも眉間に深いシワがありました。
「アリューシャ、パパはいつも忙しいわねぇ。お休みくらいゆっくりできればいいのにねぇ」
母は娘に気取らせないためにか、ことさら朗らかに私へ微笑み、おどけます。両親の笑顔が好きでした。温かい抱擁が幸せでした。
★クーデター
・死
あれから、何年も経ちました。
美しく成長した私は、その日は父の執務室に来ていました。何かに文句を言っています。おそらく、政治に口を出しているのでしょうが、父は苦笑いをするだけで取り合いません。
轟音が響きました。
重く大きな扉が強引に開けられ、警備員とともに乱入してきたのは、濃い緑色の軍服に身を包んだ男たち。荒々しい殺気を放っており、警備員が大けがをしているのも分かりました。
ただの若い娘である私ですら、とてつもない惨事が起こったのだと分かりました。クーデターです。重要な地位にいる父を殺し、国の中枢を乗っ取ろうというのでしょう。
「あなた達、何しに来たのよ! 控えなさい!」
「アリューシャ、やめなさい!」
食って掛かる私に、父が命令します。
「フン、我々がこれから何をするか、分からん訳があるまい」
突き出された銃に、スラリと抜かれた大剣。反り返った形で、まるでアラビアンナイトに出てきそうな形。アリューシャの目の前で、それがギラリと光ります。
(「私」は、時代錯誤な剣だなあと思いましたが、調べると確かにそれに似た剣は中東で使われていました。ジャンビーヤというナイフをもっと大型にした感じです)
「よせ! 娘は関係ないだろう」
「いいや。こいつを人質に取らなければ、何をされるか分かったもんじゃないからな。ちょうど良かった」
私は捕らえられ、後ろ手に縛られました。
「なぜ、こんな事をする」
「知れたこと。この国の支配のためには、お前が邪魔だからだ」
その問答を聞いて、私は思いました。こいつらは何にせよ、父も私も殺す気なのです。どちらが早いか遅いかだけです。
むしろ、ただ命を取られるだけなら、どんなにマシか……と思うようなことも、されるかもしれません。私も、彼らが残忍な一派であることを、知っていたのです。
「暴力で望みを、自分の欲を叶えようとするなんて、浅ましい、恥ずべき行為だと思わないの!?」
捕らわれたまま、私は言い募る。
「よせ、アリューシャ! 刺激するな!」
「何も言わなくても同じことよ、お父様。こいつらは私をどうせ殺す。生きながら辱しめを受けるくらいなら、いっそ私は死を選ぶわ」
彼女が言わんとした事に気づき、父は絶句しました。
「この、クソ生意気なアマめ!」
「まあ、待て」
私の首を絞めようとする男の後ろから、一際迫力のある、体つきの大きな男が進み出てきました。その男こそ、一派の頭でした。
「威勢のいい娘め。いいか、お前たちが何と言おうと、邪魔者は殺すまでだ」
「そうやって武力で邪魔者をどかして目的を達成しても、結局は自分も同じことをされるのよ!」
頭の眉がピクリと動きました。
「知恵で国を治めることと、武力で無理やり服従させることは違う。服従は次の暴力を生むだけなのよ!」
頭の怒りが爆発しました。
「お前らが服従させてきたんだろうが!!」
「父はそんなことしない!」
「同じことだ! お前ら皆、同族だからな! やれ!」
そこでアリューシャの意識は途絶えました。銀色のひらめきを怖いと思ったので、一刀両断されたのでしょう。なぶり殺しよりずっと良かった、と彼女は思っていました……。
★雲の上で
・天は悪を裁かないのか?
アリューシャは、気づけば雲の上にいました。
目の前にいるのは、白く大きな大きな天使です。
(「私」はお馴染みのガイド、フィロソフィーさんだと分かりますが、私の意識は彼女には届かないようでした)
彼女は跪きました。祈りを捧げる姿です。そして、熱心に言葉をつづけました。
「天使さま、なぜ、このような事になったのでしょう? 私には納得がいきません。だって、私たちは間違っていませんでしたよね?」
天使は答えます。
「間違っては……いないのでしょうね」
「では、なぜ悪人がのさばり、得をすることになるのですか!? 天は悪を裁かないのですか!?」
勢い込んで立ち上がってしまった彼女に、天使は静かに伝えます。
「人はみな、見合った出来事が起こるようになっていますよ」
「そんな! 私は、私や父が間違っていたとは思えません! 父は決して自分のためではなく、国や民のために働いていた。なのに、なぜ! あの悪人を許しておくのですか!?」
「正義と悪の境界線とは、曖昧なものです」
アリューシャは逆上しました。
「な……なんですって!? では、天使さまはあいつらが悪くない、とおっしゃるの!?」
「悪くない、とは言っていませんよ。人は必ず、見合った報いを受けます。……ただ、善人と悪人に明確な境界線はない、と言っているのです」
「そ、そんな……!」
・善と悪
天使とアリューシャの問答は続きます。
「君は、物を盗む者を、どう思うね?」
天使の問いかけに、アリューシャは即答します。
「それは、いけないことです」
「ではその人が、今日食べる物もなく、それを買うお金もなく、今にも飢えて死にそうな我が子がいて、やむを得ずたった一つのパンを盗んだのだ……としたら、どうだい?」
「それは……」
「悪人かい?」
「……いいえ……。でも、もし盗みを常にしているのなら、働けば……」
「働きたくとも病気の子がいる。乳飲み子がいる。働いても、すぐにお金は手に入らない。それなら、どうだい?」
「…………」
答えが見つからず黙り込んだアリューシャに、天使は優しく言いました。
「【彼ら】のやったことは、良いこととはとても言えない。だけどね、生まれながらの悪人なんて、いないんだよ。赤子はみな、真っ白なんだ」
アリューシャは考え、悩みつつ、問いました。
「では……たとえ殺されても、殺した相手は悪くない、仕方なかった、と許せということですか?」
「それも、少し違う」
「え?」
アリューシャは、まだ天使が何を言っているのか、分かりません。
そして、「私」の意識も声も、まだ届かないということも分かりました。
意識の階層が違いすぎると、声が届かないのです。だから、私はまだ彼女の前に出られないのだと思いました。
「君は、善と悪という二種類のものがこの世にはあり、人は必ずそのどちらかに属している……と思い込んでいる」
「でも……だって! 私は悪くないもの! だったら相手が……」
「ほらね、二つに分かれてると思ってるだろう。……さっきも言ったように、境界線とは曖昧だ。くっきりと二つに分かれているのではないんだ」
「……何をおっしゃりたいのか、よく分かりません」
「この【全ては善と悪の二つに分かれる】という考え方は、争いしかもたらさない、ということだよ」
「……!!」
彼女は、賢い女性です。すぐに自分が、殺した男に叫んだ言葉を思い出していました。
【争いは悪だ、武力で服従は悪だ】という自分の考え方すらも、【争いをもたらすもの】なのだと、言われていることに気づいたのです。
しかし、頭では理屈は分かっても、すぐに腑に落とせるわけではありません。
・想像すること、慮ること
「では……私たちはどうすれば良かったのですか? 他になにか、あの時にもっといい対応や方法、考え方がありましたか? そうすれば死は避けられましたか?」
これに天使は少し黙りました。
「君がどういう考え方をしても、どういう人生を歩んでも、あそこで殺されるのは運命だった。それは変わらない」
「……だったら、意味なんてないのでは?」
「それは、少し違う」
「いったい、私にどうしろと?」
「君は、彼らのことを、生い立ちを、知っているかい?」
「知りません。興味もありません。あんな、野蛮な……」
「【それを想像する、慮る】ことが大事なんだ」
「そんな……、そんなこと……」
信じられない、とでもいうように彼女は首を振りましたが、天使は手を伸ばして言いました。
「少し、見てごらん」
雲を丸くなぞると、そこに窓があきました。
そこには、先ほどの頭目の男の幼少期の姿が映りこんでいました。アリューシャは嫌悪感を覚えながらも、それを見つめました。
酷い人生でした。
母は死に、父は働けず、幼い頃から誰も守ってくれない。食べる物どころか飲み水すらなく、泥水をすすって生きていました。
彼はもともと体が小さく、侮られていじめられてきました。
殺されるような恐怖を何度も味わってきました。なぜ自分が生きているのかも分からず、ただ転がるように生きてきました。
ある日、いつものように暴力を受けているときに、恐怖のあまりに相手を殴りました。棒で、動かなくなるまで。
すると、周りの人間が驚いて逃げていったのです。
「そうか、強ければ身を守れるんだ。死ななくてもいいんだ」と彼は思いました。
そこから彼は、とにかく強さを求めました。体を強くし、武器を手に入れ、脅すことを学びました。居場所を得るためにそれを繰り返しました。一人より大勢のほうが安心なので、仲間も増やしました。
その代わり、裏切り者は粛清しました。裏切り者は自分を脅かす危険因子なうえ、粛清は恐怖につながります。周囲を怖がらせることが、自分の安全なのだと思いました。
そんな彼にも、優しい一面がありました。飢えた貧しい家族に、施しを与えることもありました。自分の境遇を思い起こさせたのでしょう。時折見せるそんな優しさから、涙を流して彼を称える人もいました。
自分を恐怖させた「国」は、彼にとって、悪でした。自分の影響が大きくなるにつれ、恐怖は大きくなってきました。いつ自分が、もっと大きな存在から「排除」されるか分かりません。
彼は思いました。「そうか、だったら「国」を自分のものにすればいいんだ」と。
そうすれば、誰からも排除されない。安全だ。仲間も養え、増やし、より安心して暮らせる。自分の居場所を作るんだ。
彼の人生を見ていたアリューシャは、沈黙していました。彼もまた、国を、相手を「悪」だと思っていたことに気づいたからです。
そして、こう言いました。
「彼の事情は分かりました。とてもつらい人生だったことも。それでも私は、彼のやったこと……人を殺してでも……という姿勢を、いいとは思えないのです」
「それでいいんだ」
「えっ?」
彼女は驚いて顔を上げました。「許せ」と言われると思っていたのです。天使は微笑みました。
「許せと言っているわけでも、それを【いいと思え】と言っているわけでもないんだ。ただそこに、相手の思いや事情、どうしてそういう決断に至ったかを考え、知る努力をすればいいんだ。
いいかい?
相手を悪で、敵だと思っているうちは、争いはなくならない。君が憎んだ、武力による争いは、それではなくならないんだ。
では、どうすればいいのか?
それはね。互いの溝を埋め、手を取り合って歩むことなんだよ。そして溝を埋めるためには、【相手に興味を示す】ことが、何よりも大切なんだ」
・戦争と内戦が、なくなった国
アリューシャは、絶句しました。そして、何とか……何とか、声を出しました。
「そんな……そんなことが、出来るのでしょうか? 人間に……私たちに、分かり合える、手を取り合える日が、来るのでしょうか……?」
ここで天使は、「私」を呼びました。君もおいで、と。
私は自己紹介をしました。すべて一緒に見てきたことも。
最初、彼女は不信感でいっぱいでした(私が、彼女の見たことない人種だったせいです)。
でも、天使の次の言葉で、彼女の態度は豹変しました。
「この女性の国では、内乱がないんだよ」
「!? 戦争やクーデターや、内乱がないの!?」
「あ、はい。戦争は、70年ほど前までは、ありました。でも今はしていないし、戦争をする国を支援しません。国で内乱はありません。人を殺して改革をするようなクーデターもありません。犯罪はゼロではないし、政治その他を見ても汚い部分はあると思うけど……武力を行使して政権を取り合う……などの行為はありません」
「そんな国が、実在してるだなんて……」
彼女は本当に驚いていました。そして、【実現はできるのだ】ということにも。
「一朝一夕でできた訳ではなく、何度も失敗し、痛い思いもし、各国にも迷惑をかけつつ、少しずつ成長して今の国になっていきました。先人のおかげです」
そう答えると、アリューシャは何かを考えはじめました。真剣に。
天使が声をかけます。
「もう一度、やってみるかい? 今気づいたことを胸に、自分の人生をもう一度。ただ、殺されることには変わりはないけれど」
天使の言葉に、彼女は力強く頷きました。私もついていくことにしました。
・意識が変わった彼女の挑戦
セレブな生まれ。
でも、成長した彼女は他の宗教に嫌悪感を示しませんでした。
色んなものを見聞きし、貧しい方の話を聞きに行ったり、施しをしたりもしました。そのとき「お前に何がわかる!」と罵られても、彼女は「知ろう」とし続けました。
そして運命の日。
彼女は父と話し合っていました。最近の動向や、人々の暮らし向きについて。
そこに、あの集団が踏み込んできました。
彼女はもちろん驚きましたが、自分が見聞きしていた情勢で、こうなる可能性も考えてはいました。国の不安定を考えると、あり得ることだったのです。
最悪の事態。
でもそれは、「国に対して恨みを持つ人間がおり、彼らに対して政治が無力だったことへの現れ」でした。
彼女は、歯向かいませんでした。しかし、静かに言いました。
「私たちと同じく、あなた方にも自分の正義があるのでしょう。でも、こうやって武力を行使して邪魔者を排除していくことは、本当の意味での解決にはなりません。恐れによる支配は、また別の恐れを生み、それは自分に返ってくるのです」
頭目の男は、アリューシャから目をそらしました。彼女の目を見れぬまま、「殺せ」と命じました。前回は、目をそらさずに、あざ笑うように行ったことでした。
彼女の言葉は、何がしかの響きを、彼に与えたのです。
ちなみに男は政権を握りますが、何年かのちに同じようなクーデターで殺されました。
戻ってきたアリューシャに、私は「立派だったよ」と言いました。
「天使さまの言うようには、私はすぐにはできないわ。でも、善と悪がある……という簡単な世界なんてないんだってことは、何となく分かったわ。そして、武力による争いのない世の中は、必ず作れるんだってことも」
そして彼女は光の世界へ戻っていきました。晴れ晴れと。
★頭目の男は、「私」の母だった
私は、途中から気づいていました。
あの頭目の男が「母」だと。
ここでも殺されるのか、と思いました。
「信じられません。これは、私の思い込みではありませんか? たとえば私が母をまだ恨みに思っているせいで、このような妄想が出てしまったとか」
そんなふうに天使さんに尋ねると、首を振りました。
「残念だけど……思い込みじゃないんだ。君はこうやって、何度も害されてるんだ」
そして、それを償う……という関係性でもあるのだ、ということも。
「親子」とくに母子は、相手を殺しづらくなる。時代にはよるけれど、ある程度の生活ができる現代であれば、起こりづらくなる。どんなに子を憎かろうと、生意気だろうと、よほどのことがなければ手をかけることはない。
そういう事情があるらしい、となんとなく伝わってきました。
何度も私を害し、償う……という繰り返しを、今世の母である魂はしてきたのだ、とのことでした。
何度も言うことですが、「私」としては納得できないものでした。
「納得したくない」のかもしれません。
「私が【償われたい】と思っているからでは?」と尋ねても、そうではないの一点張りです。
何代もかけて、罪を薄め、「善と悪」の認識を改め、愛に変えていく。
それが、母の「本来の魂」が望んでいることなのだそうです。
前回の「ぶどう畑」の時代も、その途中のひとつだったのかもしれません。
そして、母との関係性は、今すぐにすべてを理解できるものではない、ということも分かりました。
たとえばこれから、母が亡くなる。先に私かもしれませんが、どちらかが亡くなるときに、また何かの学びがあるのかもしれません。
それはきっとそのとき明かされる。そんな気がするのです。
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