05. シャチに舵をかじられる(プロローグ・レース)
MILAIはプロローグ・レースを見事トップフィニッシュ。幸先の良いスタートである。
(写真は Team MILAI オフィシャル Facebook より)
とはいえこれは前哨戦、練習レースだ。アメリカから参加している2艇は、「風がないから機走(※)してレースやめちゃった、てへ」というお気楽さのあるレースのようだ(筆者による若干の脚色表現あり)。
※エンジンをかけてプロペラを回し、船を進めること。ヨットレース中はエンジンで進んではならない、というルールがある
強風、のち無風、のち試練
スタート後しばらくして40ノットの強風を迎えた。40ノット、は、大体風速20m強。風速20mはどんなものかというと、「何かにつかまっていないと立っていられず<中略>不要不急の外出は避けた方が良い」と、ウェザーニュースさん。海の上なんですが?
何メートルから危険?風の強さの目安 (ウェザーニュース)
しかしその後、無風に。風、もうちょっと平均的になってくれたらいいのに。
その後風も戻り、トップフィニッシュに至るのだが、なんといっても今回の最大の試練は、ジブラルタル海峡で起こったシャチの来襲だ。シャチ、オルカ、キラーシャーク。海のギャングと呼ばれる、彼らである。イタリア人クルー、アンドレアの instagram, 3枚目に注目。
はじめに2頭寄ってきて、その数はすぐに6頭になったそうだ。船に体当たりされるたびに、船がガスーンと揺れる。最終的にはエンジンをかけ(※)、その場を後にすることが出来たそうだ。この間約15分。長い。クルーが無事だったことが何よりだ。動画が MILAI の投稿にある。2枚目。
※前述の通り、ルール上はレース中にエンジンを使って進むことはできない。今回の件はレース委員会に報告済、緊急事態での使用ということで、ペナルティーは無し。
無事にゴールして港に入って確認したところ、なんとラダー(水中の舵)が千切られている!😱 クルーは無事だったが、船はかなりの痛手を負った。
(写真は Team MILAI オフィシャル Facebook より)
シャチは攻撃しているのか遊んでいるのか
シャチは獰猛と言われるが、かといって船を襲うのが常という訳ではない。しかしジブラルタル海峡では、近年船を攻撃するシャチの報告例が増えているそうだ。これは2020年の記事。
シャチが船を攻撃する事例が急増、専門家も「このような攻撃は見聞きしたことがない」と困惑
今回も、北の方は鯨とシャチがいるので南からアプローチするように、レース委員会から指示があったそうだ。そして南からアプローチしたにも関わらず、遭遇。人間の理とは違う世界でこちらはお邪魔している身なので、なんとも仕様がない。
今回、水中の彼らギャングたちの様子が動画に収められた。YouTubeにアップされたので、是非見てみてほしい。見る時は、画面を縦に。
真ん中に写っているオレンジ色のものはキールといって、ヨットの下に付いている、転覆防止の錘。このカメラは本来、キールに藻など、抵抗になるものがついていないかを確認するために設置されている。キールの後方(動画を縦に見て左上と右上)に、折れ曲がった棒状の突起物=ラダー(舵)が見えると思う。そしてよく見ると、シャチがラダーを咥えている。ぐりん、と、ラダーがあり得ない方向に曲げられている。クルー曰く、まず体当たりでラダーを損傷させ、その後咥えてちぎってしまったよう。鈴木は、この水中動画を見るまでは「シャチに襲われた」という気持ちでいたようだが、動画を見て「・・・遊んでる」と思ったそうだ。たしかに3頭のシャチが、「誰がラダーを取れるかな選手権」を開催しているようにも見える。
フランスのヨットメディア「Voiles et voiliers」でも、この件が取り上げられた。(Mさん、情報ありがとうございます!)
VIDÉO. Une attaque d’orques sur un voilier filmée par une caméra sous-marine
(DeepL訳:シャチのヨットへの攻撃を水中カメラで撮影)
繰り返しになるが、海という彼らの領域にお邪魔しているのはこちらなので、人間のルールと違うことは承知であり、こういうこともあるんだね、という感じだった。でも出来ることならば、もう会いたくないそうだ。
ラダー修理
ラダーの損傷自体は想定内だったため、すぐにフランスのロリアンにいる陸上スタッフ(ショアクルー)に連絡を取り、持ってきてもらうことに。ロリアンからTGV(ヨーロッパの新幹線みたいな特急電車)でパリへ移動、空港からタンジェ(モロッコ)に移動したが、その間の写真レポートが面白い。旅するラダー。
オマケ: カップ麺人気は日本のみならず
今回のレースは日本人クルー2名、フランス人クルー1名、イタリア人クルー1名の4名体制。イタリア人クルーのアンドレアはブルーグレーの目をしたナイスガイなのだが、そんな彼が今回ハマったものは、日本のカップ麺、特に豚骨と味噌がお気に入り。自分のフランスご飯(ドライフードやレトルト)を日本人クルーに、これ食べて!とおススメしてくれるそうなのだが、その心は、日本のカップ麺と交換して欲しいのだそうだ。好評過ぎて、船上のカップ麺は売り切れになってしまった。
ちなみにアンドレアは、ものっすごーくプロフェッショナルなセーラーであることを、併せて記しておく。
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