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01.Globe40レース概要

今回挑戦するGlobe40とはどのようなレースか。
名前にも表れている通り、Class40という40フィートのヨットで、地球(=Globe)を一周する、世界一周のヨットレースのことだ。全部で8レグに分かれており、全期間は9ヶ月。
と人に話すと、「?!?!」となるところが幾つかあるので、もう少し詳しく、説明してみる。なお日本から参加する team MILAI の情報をベースにしている。

1. 期間&寄港地

まず驚かれるのは、「9ヶ月もかかるの?!」というところだ。ヨットで世界一周するならそんなにかかるのか、という驚きまで見て取れるのだが、そうではない。
今回のレースは本拠地ロリアン(フランス)からスタート地点のタンジェ(モロッコ)に移動、そこから7箇所に寄港しながらレースを行う。無寄港世界一周ではない。船に乗っているのは9ヶ月のうち162日間、全体の約60%だ。残りの期間は何をしているのかというと、到着後、船を修理したりメンテナンスしたり、食材の補給や乗組員が休憩を取ったりする。また艇団のバラツキを抑える役割もあるし、なんなら観光もしてバカンスも楽しんでね、というのもあると思われる。team MILAI はプロローグ・レース+全8レグの予定航行期間を割り出していて、だいたいこんな感じ(プロローグ・レースについては後述)。

・プロローグ・レース: ロリアン(フランス) - タンジェ(モロッコ) 6/11-6/17, 7日間
・第1レグ: タンジェ - カーボベルデ 6/26-7/6 11日間
・第2レグ: カーボベルデ - モーリシャス 7/17-8/20 35日間
・第3レグ: モーリシャス - オークランド(ニュージーランド) 9/11-10/7 27日間
・第4レグ: オークランド - パペーテ(タヒチ) 10/27-11/9 14日間
・第5レグ: パペーテ - ウシュアイア(アルゼンチン) 11/26-12/17 22日間
・第6レグ: ウシュアイア - レシフェ(ブラジル) 1/5-1/22 18日間
・第7レグ: レシフェ - グレナダ 2/6-2/15 10日間
・第8レグ: グレナダ - ロリアン(フランス) 2/26-3/15 18日間
計162日間/全277日

なお「レグ」とは区間のことで、語源は leg (足)のようだ。今回は7寄港地が設定されていて、全部で8レグに分かれている。

Globe40 のコースとMILAIの各レグスタート/ゴール予定

(出典: Team MILAI Facebook)

2. 乗組員(スキッパー&コスキッパー)

乗組員は2名、メンバーはレグごとでの交代が可能。スキッパー、及びコスキッパーという呼び方をするが、この辺りは飛行機の操縦士&副操縦士(パイロット&コパイロット)と似た関係ではないかと思う。船や航行に対する責任者はスキッパーにあるが、コスキッパーは操船する技量は勿論あるし、どうして行くかは2人で議論して決めていく(船によると思うが)。team MILAIでは全部で5名のメンバーがいて、鈴木晶友選手が全行程のスキッパーを務め、他の4選手が交代で乗船を予定している。

鈴木晶友選手(”マサ”、日本)
中川紘司選手("コウジ"、日本)
アン・ボージ選手(フランス)
エステル・グリッグ選手(フランス)
アンドレア・ファンティーニ選手(イタリア)

https://milai-sailing.com/team.html

なおレースには全部で8チームが参加予定、開催国であるフランスに留まらず、オランダ、モロッコ、アメリカと、国際色も豊かである。

3. 船(Class40)

今回使用される船は、Class40(クラスフォーティー)というタイプの船。全長が40フィート(約12m)で、追い風でパフォーマンスを発揮する設計が特徴だ。
この外洋レースは「同じ規格の船を使う」事が大事なルールになっている。ヨットは全く違うタイプの船が参加するレースもあり、その場合は、到着順とはまた別の、修正順位というものが出るのだが、このレースは同じ規格のため、到着順がそのまま順位となる(※)。
今回のレースで使用して良いセールも決まっており、全部で10枚、メイン、ジブ、ジェネカー(スピンネカー)、ストームジブ、スペア(※※)。
船にはみんな名前が付いている。team MILAI の船は「MILAI」、日本語の「未来」から名付けられた。フランスの発音では R だと「ミハイ」と発音されるため、音を重視して「MILAI」表記に決定された。

“MILAI” 
後ろに見えているのは LA BASE(ラ バーズ)の建物。
元はナチス時代のUボートのドッグ。

(写真は Team MILAI Facebook より)

同じくGlobe40に参加する、オランダチーム “SEC HAYAI”。日本語の「速い」から来ているそうだ。SEC は2艇目だからだそう。

(写真は Globe40 Facebook より)

※同じ規格の船のレースでも、例外的に到着順とならないことがある。例えば2020-21年に開催されたヴァンデ・グローブ(世界最高峰の単独外洋ヨットレース)では、あるセーラーのレスキューが必要となり、レスキューに向かったセーラーたちに、救助に要した時間の控除が認められた。なおセーラーはライフライトに逃れていたところを無事に救助された。救助したセーラーは今回の参加セーラーの中で最高年齢で、2009年に自らが同レースで救助された経験を持つという、ハリウッドばりにドラマチックな展開となった。救助したセーラーはその後レースに復帰して無事ゴール、4位入賞を果たしている。

参考: 「ジャン・ル・カムがケビン・エスコフィエの救助に成功」BULKHEAD magazine

※※ 10枚のセールのうち1枚はスペアで、スタート時にはレース委員会にジッパーをロックされる。セールが破れた時だけ、使用していいそうだ。

4. レーススタート日とプロローグ・レース

レースのスタート日は 2022年6月26 日(日)。モロッコにある、タンジェという港町がスタート地点だ。
その前に「プロローグ・レース」なるものがある。前哨戦、と私は訳しているが、スタートはフランスのブルターニュ地方・ロリアンで、ゴールがGlobe40スタートのタンジェ(モロッコ)。スタート他まで船の移動が必要なので、移動と船のチェックがてらレースにしました、という感じじゃないのかなと思っている。また、レースという形をとることで、本番レースに華を添える目的があると思う。参加は基本的には必須、ただし順位は本番レースには影響しない。
プロローグ・レースのスタート地: ロリアンは大西洋に面した町で、ヨットが産業として機能しており、いまや外洋ヨットのメッカになっている。その昔はフランスの海軍が基地を構えていたようで、そこをナチスドイツに占拠され、Uボートの基地となった歴史を持つ。なお、Uボート時代の施設の壁が厚すぎて壊すのにお金がかかりすぎるということで、潜水艦向けの施設が現在もドッグとして使用されている。

ロリアンにある「Lyophilise & Co」では、山や海に便利なドライフードやウェットフード(レトルト)が多数販売されている。カロリーとタンパク質が摂れるように作られているものが多いそうだ。味も美味しいものが多数ある。
ヨットでは山ほどの軽量化は必要ないため、ウェットフードも多数利用されている。

(写真は Lyophilise & Co Facebook より)

5. フランスのレースの仕立て方


この話は私が見聞きしただけのものなので、いつもよりさらにテキトウかもしれないがご容赦を。
ヨットレースが盛んなフランスだが、彼らのレースの仕立て方は大変面白く、自治体が協力していることが多いようだ。協力とは、出資を意味する。
レース前には「レースビレッジ」と呼ばれる会場がオープンし、ずらりと並んだ参加艇を近くで見ることができる。スポンサー企業のブースや食べ物の屋台も出店し、ある種お祭りのようである。スキッパーたちを迎えたステージイベントやサイン会も行われ、びっくりするほどたくさんの人達が現地を訪れる。そう、これはレースという形をとった「観光産業」「エンターテイメント」でもあるのだ。レースによっては学校が休みの時期を狙って行われ、ファミリーの訪れを期待するものもある。ルアーブルという、パリから2時間ほどの場所にある港町からスタートするレースでは、まさに秋休み(かな?)中の子ども連れのファミリーを沢山見た。
加えて多数のボランティアが活躍していた。食べ物の屋台で話した男性は、パリからボランティアとして来ていると話してくれた。一大イベントのレースに、楽しく参加していたようだった。(ちなみに彼は合気道を習っているそうで、日本人だというと写真を見せてくれた。フランスでは、柔道をはじめ、武道も本当に人気があるなー!と感心する。)
フランスが日本よりヨットに馴染みのある国だということは勿論影響すると思うが、たくさんの人を巻き込む仕立てが本当に上手だなぁと思う。多くの人がレースビレッジを訪れるヨットレース。出艇時には大きな歓声と拍手が起こり、出艇する船に合わせて人の波も動く。緊迫感もあるけれど、選手も、観客も、ワクワク感が募っていく様子は、一参加者としてもとても楽しい。

#ヨット #世界一周 #旅 #応援 #外洋セーリング

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