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チョコニート[毎週ショートショートnote裏お題]

 ありふれた一軒家のリビングでタカシは漫画を読んでいた。大学を卒業しても就職活動をしようとしない彼の毎日は、大好きなチョコを頬張りながら漫画に明け暮れる日々だ。

 彼の体型は不健康に太り、真っ白な肌をした、まさに、不健全男子の典型だった。

 その日も、チョコレートを口に放り込みながらゴロゴロしていた。
 夕方になり、玄関のドアが開く音が聞こえた。

  タカシ!

 母が怒鳴りながらリビングに入ってきた。

  いつまで漫画ばっか読んでるの!あなた、早く働きなさい!

  わかってるよ…

 タカシは漫画から目を離さず、適当に答えた。

  自立して社会の役にたとうとは思わないわけ?

 母は続ける。

  あなたが今食べてるチョコレートだって、色んな人が手を加えてくれたから食べられるんだからね!

 タカシは一瞬反論しようと思ったが、少し考えた後、無理に言い返す。
  
  でも、カカオ豆は、身の中でゆっくり過ごしたかったんじゃないのかなー?

 母はため息をついて、また怒鳴り散らしている。

 しばらくして、仕事帰りの父がリビングに入ってきた。父は、リビングの片隅で二人の会話が続いているのを耳にしていた。

  カカオ豆だって成熟したら、実から出てくるもんだろ?

 父は不意に口を開いた。
  
  いい歳して社会に出ようとしないお前は、それ以下だ。

 タカシは不満そうに答えた。

  違いますー、僕はまだ未熟だから社会に出るタイミングじゃないんですー。

 父はその言葉に顔を真っ赤にした。

  そうだな!まず殻が開かないとな!荷物を纏めとけ!

 タカシは目を丸くして父の顔を見たが、少し笑って言った。

  それはやめてよ。豆が飛び出たら実は用無しになっちゃうよ。

  もう、君は…
 
 父はため息をつき、また一言、

  チョコを作ってくれた人達には感謝しないとな

 と呟いて席に座った。

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