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なんでも文学化「マリアのマイク」

鈴木さんが来る。
この鈴木さんは特別な鈴木さんである。東京の不動産屋で働いて3年。ただの内見にここまで緊張しているのは初めてだ。
先日鈴木と言う名前のお客様が現れた。
その姿を一目見て確信する。セクシー女優のマリアだ。店に入り帽子とサングラスを外す。画面越しに何度も見ていたままの姿のマリア。僕は突然の出来事に二つの意味でガチガチになった。ただ僕がファンである事を悟られると警戒されるかもしれない。ただでさえ自分の住む場所をファンに知られるなど嫌なはずだ。そう思い昂る心と体を押さえつける。きつめのボクサーパンツを履いていてよかった。この日ほど自分がボクサー派でよかったと思った事はない。
内見当日。店でマリアを待つ。5分前にマリアは到着する。帽子とサングラスをしているがその豊満なKカップのバストとくびれ、139センチの破壊力抜群のヒップは隠しきれない。
今日の為に失礼がない様に出演作品をおさらいしておいた。準備は完璧だ。念の為に名刺にLINEのIDも書いている。よし。とそこでマリアの横に男がいる事に気づく。身長2メートル近くある。筋骨隆々の黒人だ。
「あのー、そちらの方は?」と尋ねてみる。
「すいません。彼氏です。一緒に内見させてもらおうと思って。」と鈴木さん、もといマリアは答えた。
「なるほど。かしこまりました。では参りましょうか。」ビジネスモードで対応する。名刺をそっと握りつぶし昨日おさらいした作品の黒人物を脳内で再生しているうちに現場に着く。
「こちらです。」と2LDKの部屋を案内する。正直もう仕事などどうでも良くなっているが社会人としての責任感で物件の説明を進める。
説明をしながら頭の中では塩顔のクズっぽい見た目の優男より黒人大男の方がまだ好感度が高いかもしれないと考えながらベランダを開ける。説明を終え二人に目線を戻すと黒人大男とマリアがディープキスをしていた。
ディープキスの激しさとは対照的にこれが寝取られかと冷静に思う自分に少し驚いた。
遅れて嫉妬と苛立ちを感じる。
説明を聞けよこの野郎。飽きてんじゃねぇ。ちくしょう。
リアルな寝取られを前に拳と下腹部が硬くなる。
「あのー、いいですかね?」
と少しの抵抗を行う。
マリアが気づきディープキスを中断しようとするも黒人大男は止まらない。「ちょっと、今はダメ!マイク!また後で。Stop!」とマリアが言い。マイクが止まる。そして黒人大男、もといマイクがこちらを向く。すると大きくなったマイクのマイクが僕に向けられインタビューでも始まるのかと錯覚する。
僕はマイクのマイクに向かって案内を続けた。しかしマイクはずっとマリアの臀部を撫で回していて僕の話など全く聞いていない。そもそも日本語がわかってるのかも怪しい。
不毛な内見を終えてマリアとマイクを見送る。
その日は仕事が手につかなかった。圧倒的敗北感と妙な納得感だけが残る。家に帰り画面越しのマリアを眺める。その日受けたストレスを画面越しのマリアへ全てぶちまける。自分でも驚くほど溜まっていたそれは黒くて大きいあいつへの白旗の様だった。

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