見出し画像

【時事】亀田製菓 情報整理

久々の企業の情報整理ものです。過去にコオロギ生産者さんのお話、ニトリ、上海電力などの「あまりにネットでひどく書かれているけど、実際はどうなんだ?」という記事を書きました。(まあ、上海電力は大阪咲洲のメガソーラーの件限定でしたが)理不尽すぎるバッシングで、何故か日本の企業を叩きまくる方が後を絶たなくて頭痛が痛い(音速のソニック構文)です。

一回整理しておきましょう。結論から言うと「ニトリと同じく、勘違い愛国者さんが派手に暴走してる」だけのお話のようですね。


01. 亀田製菓の沿革

まずは亀田製菓ってどんな会社なのかをざっくり。「投資先としてどうなのか?」的な、株価推移やIR情報は今回の話とは少し分野が違うので割愛。その辺詳しい方にでも聞いてください。


01-01. 組織沿革

1946年、戦後すぐの時期に「水飴工場」として事業を開始しておられます。つまりもう80年弱の歴史がある会社なんですね。柿の種、ハイハイン、ハッピーターン、ぽたぽた焼きとヒット商品も多数。海外展開も手広くされておられます。現在は国内米菓市場の約30%を占めるシェアナンバーワンの、文字通り「リーディングカンパニー」です。


01-02. 商品ラインナップ

商品ラインナップも「みんな一度はこの中のいずれかを食べた事がある」レベルで広く愛されています。亀田製菓の商品が置いてないコンビニやスーパーはないのではないかな。

ハッピーターンの粉とか、海外の方々に「なんだあの中毒性の高い粉は!」って騒がれていた記事を読んだ事がありますw

亀田製菓商品一覧

現在販売中の商品数は200種類以上ですが、主力8商品で売り上げの約50%との事です。さて、この商品ラインナップは「原料の原産国」トピックで再度触れるので「そんなに大生の商品があるのか」ってところは心に留めておいてください。


01-03. CEO ジュネジャ・レカ・ラジュ氏

既に帰化しておられる日本国籍の方です。経歴を見ますと、元々は科学畑の方、微生物学の研究が彼の起点のようです。名古屋大学で学び、太陽化学やロート製薬を経て、現在の亀田製菓に入社され、その間、世界各地から国際会議や学会などに招待され、これまでに100以上の講演を行っておられます。また、175の論文発表、130以上の特許出願をしているとの事。

1984年 大阪大学工学部に微生物学の研究員としてインドから来日。
1989年 名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程を修了。
1989年 太陽化学に入社。取締役研究部長、国際部長などを経験
2003年 同社代表取締役副社長に就任。
2014年 ロート製薬に移り、取締役副社長兼最高健康責任者(CHO)就任。同社の子会社社長を務め、グローバル事業の発展に尽力する。
2020年 亀田製菓副社長に就任。
2022年 CEO就任。

日経ビジネス

実は今でこそメジャーな「カテキン」を工業ベースで茶葉から抽出するのに成功したのがこのジュネジャ氏。(元々のカテキン抽出はなされていたのですが、工業ベースの抽出ですね。)太陽化学時代の研究成果で、彼はその研究で2009年「農芸化学技術賞」を受賞しています。カテキン学会の理事も務めておられます。

そこでお茶の研究を行い、「テアニン」と「カテキン」の抽出にジュネジャ氏は成功する。ストレスを緩和する成分のあるテアニン、抗菌作用のあるカテキンを茶葉から生み出し、飲料や食品に使用できたら。そう考えてジュネジャ氏は世界の飲料・食品メーカーに営業に出向くように。現在多くの飲料などの商品でその表示を見ることができるのが、その成果なのだ。

GOETHE

その後のロート製薬時代は、シークァーサーからサプリをつくる研究をされておられます。

亀田製菓に入社される前の事について触れられたインタビューはこちら。


01-04. 社会貢献

東日本大震災の後の被災者支援、雇用支援も置いておきます。ニトリもこんな感じでしたね。規模の大小はあれど、日本の大手企業さんは、比較的ちゃんと社会貢献をしておられます。


02. 原材料原産国

「原料が国産だと信じてたのに、中国産の原料使ってるなんて失望した」という論調で批判がなされていましたね。中国産をいつから、どのくらい使っているのか?他の原材料はどこのものなのか?この辺りを検証します。


02-01. いつから使っている?

気になったので「亀田製菓 中国産」で検索をしてみると下記のような記事が出てきました。2003年に中国で現地法人を設立しています。これは現地向け生産なのでしょうか?ここの生産分が日本にいかほど輸入されていたのかは不明です。

日本食糧新聞

海外原材料が入ってきていたであろう事は次の記事で推察されます。一旦は海外産の原材料は使われていたようではありますが(それが中国かアメリカかタイかはわかりません)米トレーサビリティ法の流れで、国内生産分は再び国産原料に戻されたようですね。この時期の海外原材料の比率や商品構成などは発見に至らず。

その後、韓国の食品メーカー「農心」と提携することを発表した騒ぎもありました。農心と商品の共同開発や生産技術の提供で、韓国マーケットを視野に業務展開を狙ったもの。韓国からの輸入があったのかなかったのか、あった場合はいかほどだったのかは不明。

時間が経過していますし、情報掘れなかったので、ご存じの方がいらっしゃればご教示いただけると幸いです。


02-02. 現在の原材料

実は亀田製菓の中で中国産のもち米を原材料にしているのは「梅の香巻」「梅のり巻」「午後のつまみ種」のみです。商品ラインナップ(200種類以上)の多くで、原材料はほぼ国産米、もしくは米国産と国産のブレンド。

WEBから米関係だけ抜粋してみたら下記の通りでした。商品ラインナップが多く(量のバリエーション、味のバリエーションが豊富)、同じ商品の別Ver.などは省略している旨ご了承ください。

筆者作成:出典「亀田製菓公式HP」

亀田製菓は前述のとおり、国内の米菓市場の30%です。例えば国産米の供給が不安な場合は「代替の確保ルート」が必要でしょう。が、中国産はごくごく一部で、ほぼ国産、次に米国産。これは企業規模に起因する部分も大いにあるかと思われます。小さい規模の会社の方が「原材料確保を国産に絞る」は容易ですよね。


02-03. 国産米はどのくらい使われている?

現在、亀田製菓全体でどのくらいの日本のお米を使っているかは発見できませんでした。が、2010年のTV放送で下記のような内容が放送されたようです。

TBS「がっちりマンデー」2010.11.07

ここからの数値はあくまで私の概算です。米の年間消費量は年々下落傾向なので、2010年から15年経過している今は乖離があると思います。

佐賀市のお米の年間消費量:約70.14kg(世帯当たり)(1)2024年
佐賀県全体の世帯数:295,425世帯(2)2010年
70kg × 295,425世帯 =20,679,750kg

ざっくりですが、つまり約2万トンくらいは商品の原材料として使われているようです。(まあ、誤差はあるでしょう)柿の種の工場で年間1万トンは使われているようなので、他の品目も含めると2万トンは割と当たらずとも遠からず、近似値ではないでしょうか?

「一つの県の年間消費量に相当する米を購入している米菓メーカー」が経営不振になってしまうと、販路を失ってしまう米農家さんが多く現れることは想像に難くないでしょう。


03. CEOの移民受け入れ発言

これが炎上のコアな原因かもですね。ニュースに「移民という言葉」があるだけで直情的に批判する方が割と多いので。


03-01. 原文確認

多分、ネットで猛バッシングが起きた原因はこれが一番大きいのではないでしょうか。AFP通信(日本語訳)記事をまず貼ります。

続いてAFP記事の英語表記は「Rare foreign-born CEO says Japan needs immigration to thrive」

これは意図的なものなのか、はたまた翻訳の問題なのかは判別できませんが、ニュアンスが変わって記事になっているようなのです。AFP通信のあるフランスでは全人口の10%が移民という背景はあるので、日本と事情が違う側面も加味して考えなければいけないのかもですね。

まずは発言を聞いてみましょう。Yahooニュースは期限を超えたら削除されるので、その時はWEBACKでアーカイブ探すかもですが、今はまだ視聴可能です。

1分18秒当たりですね。「people from overseas (海外からの人材)」と仰っています。「immigrant(移民)」とは言っていないのです。これは我が国の移民の定義を正確に理解している場合だと、ジュネジャCEOの発言は至極真っ当な発言であると思います。


03-02. 移民の定義の差異

まず、前提として「他国で使われている移民の定義」と「我が国の移民の定義」は違うのですよね。国連広報センターによると下記の通り。

【国際移住機関(IOM)による移民の定義】
「移民」とは国際法などで定義されているものではなく、一国内か国境を超えるか、一時的か恒久的かに関わらず、またいかなる理由であれ、本来の住居地を離れて移動する人という一般的な理解に基づく総称

国際移住機関(IOM)

では、我が国の場合はどうなんでしょう。法律の条文などに記載はないので、安倍元総理の国会答弁を記載します。

【我が国における移民の定義】
衆議院議員 奥野総一郎
「わが国における政府の「移民」及び「移民政策」の定義を示されたい」
内閣総理大臣 安倍晋三「お尋ねの「移民」や「移民政策」という言葉は様々な文脈で用いられており、それらの定義及び御指摘の「1,278,670人の外国人労働者」に係るお尋ねについて一概にお答えすることは困難である。その上で、政府としては、例えば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない。

衆議院議事録より 経済財政諮問会議 平成30年2月28日

03-03. 食品製造業の外国人労働者

現に食品製造業では「外国人を受け入れないと労働者が著しく不足している」という現状があります。下記の資料は令和4年10月末時点のデータ、約15万人がこの業界で働いています。(※全外国人労働者の8%であり、食品製造業者の8%が外国人という訳ではないので注意)

農林水産省「食品産業における外国人材の受入れについて」

食品製造業の就業者数は、2023年時点で約1,055万人。20年前と比べると100万人以上減少。「誰かが穴埋めをしないと、我が国の食産業は支えられない」という厳しい実情があります。そこで受け入れるのは「外国人労働者」というのは「普通にそうなるよね」です。ジュネジャCEOは実際に食品製造のお仕事をされているので、私たちのような他業種の人間よりも「働き手が足りない」は強く認識しておられるはずですし、なおかつそこを埋めるのに「移民」という言葉は使っておられないです。

移民、外国人労働者、難民、準難民は多くの人がごっちゃになっている気がします…。これは完全な誤解でしょう。


04. ハイハイン台湾カドミウム基準

先日、台湾に出荷した「ハイハイン」から基準値を超えるカドミウムが検出されたというショッキングなニュースがありました。イタイイタイ病で知られるカドミウムが、乳幼児向けの「ハイハイン」から検出されるのは結構怖い事なのでは?とその時は思ったのですが、実はここも大きく誤解がありそうです。検証してまいりましょう。

ハイハイン

04-01. 台湾のカドミウム基準値

これ、実は最初から比較的正確な報道がなされていたようです。

【検出量】
40g ハイハイン:0.046mg/kg
40g 野菜ハイハイン:0.044mg/kg
【基準値】
台湾の乳幼児向け食品の基準値:0.04mg/kg以下
日本の米(玄米及び精米)中のカドミウムの基準値:0.4 mg/kg以下

台湾の基準値が日本の1/10なんですね。日本で健康被害が起きていないものなので、当該商品が即「有害なもの」と解釈するべきではないでしょう。

亀田製菓ご担当者の方の発言もニュースにありました。

当事者である亀田製菓では、今回の騒動をどう受け止めているのか。亀田製菓・経営企画部の担当者は、本誌(SmartFLASH)の取材にこう答えた。

残留カドミウムの国際的な安全基準は0.4 mg/kgで、日本もそれに準拠しています。0.4 mg/kg以下であれば、安全に問題はないという基準が、まずあります。当社は『ハイハイン』の原料になるお米についてカドミウムの残留量の調査をしておりますが、直近の調査で検出した数値は0.1 mg/kgで、まったく問題のない結果となっております。また、日本ベビーフード協議会の規格では0.2 mg/kgとなっており、今回、検出された値はこの基準も下回っています。

その一方、台湾は、成人の場合、国際基準に準拠する0.4 mg/kgですが、乳幼児用の食品については、0.04 mg/kgと、成人の10分の1という非常に厳しい基準になっています。今回引っかかってしまったのは、後者の基準です。といっても、0.046 mg/kgですから、ほんの少しオーバーしたという程度です。そうは言っても、台湾の基準、とくに乳幼児向け食品の基準の厳しさについて、どれだけ情報をつかんでいたのかという点で、いま事実確認を進めている状況です」

SMART FLASH

ちなみに、ハイハインの原材料は「新潟のお米」です。「国産米を守れ」という論調で亀田製菓の不買運動を展開している人たち、真逆ですね。


04-02. ハイハイン以外の品目

実は台湾において「日本から出荷される品目がカドミウム基準値を上回って弾かれる」はそこそこ多いようなのです。

台湾が標準で日本が甘いという訳ではなく、日本の基準値は国際標準レベルです。ここも誤解が多いかな。


03. CEO「コメの力で80億人の食作る」

日本のコメの消費量が少なくなっているのは割と有名なお話だと思います。外国人観光客需要で少し盛り返した側面はあるものの、米農家さんの前途はどうなるのかわかりません。米菓の需要もなかなか先が見えない。亀田製菓の業績はそのまま「お米の生産農家さん」の暮らしに直結します。

ジュネジャCEOは「コメの魅力を世界に伝え、拡販していく」スタンスです。日本米でしか開発・生産できないような商品が海外に広がるのであれば、これは歓迎するべきでしょう。まあ、これは「構想」なので、今すぐそうなるというものではないにしろ、応援してもバチは当たらないかな。

世界の主食は下記グラフの通りです。(2017年)

HOMEMEAL MEISTER「農畜水産物の生産と流通」

「お米の文化圏」以外の国にも販路開拓さえ出来れば、これは大きく展開できるんじゃないかなぁ。


04. 私見

大体「不買運動のターゲット」になる企業って、結構社会貢献もしているいい会社が多い気がします。今回も問題なし。むしろ、日本の食産業、農家に多大な貢献をしている企業です。こういう難癖なくなるといいなと願います。

いいなと思ったら応援しよう!