星の堕ちたバス停

バス停がある。
かつて流星が堕ちたその場所は、時が流れて
広大な焦土から、スミレが息づく程度には生命が宿る場所となっていた。
土にガラスが混ざり、そこを歩くと時折
「宙に帰りたい」と呟く声も聞こえる。
”星降りのバス停”とだけ書かれた看板だけが
この場所で唯一の建造物だった。

遠くにうっすらと見える山脈は、かつてこの場所に堕ちた流星によって形成されたクレーターの端っこだ。
時の流れによってその山脈も削られて、高さもまばらになっている。
その中でもひときわ高いふたつの山がある。
それは「門の山」と呼ばれていた。
山頂がキラキラと多彩な色彩を放って輝き、赤黒い山肌も相まって、万華鏡のように美しかった。

バスがくる。
そしてそれは空を往く「舟」でもあった。
”星降りのバス停”に立ち寄る「ソレ」は、
「門の山」の間を通って現れる。

「くおぉぉぉん……」
エンジンの駆動音か、それとも本当に鳴いているのか。
クジラの鳴き声にも似た音色をあげて、「バス」がゆっくり降下してくる。

全長300アンマ、全幅50アンマ、全高30アンマのそのバスが静かに降り立つと、風が舞い上がり前髪を揺らした。
バスの側面にある扉がゆっくりと開き、中から車掌が降りてくる。
真珠のように真っ白で立派なひげをたくわえた老人の車掌に切符を手渡す。

「忘れ物は見つかったかい?」と
けさがけに下げた巻き取り機で切符を刻みながら車掌が問いかけてくる。
「いえ、まだここでは無かったみたいです。」
そう答えると、「そうか。」と優しく返してくれた。

老人の車掌と一緒にバスに乗り込み席に座ると同時に、バスがゆっくりと浮かび上がる。
「門の山」に向けて回頭したところで、上からもう一度「バス停」を見つめる。

「ここにあると思ったのにな。」と小さく漏らして、バスの揺れを感じながら、静かに目を閉じたのだった。

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