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【ライブレポート】それは、今も回り続ける輝く天体。Hoshimachi Suisei 日本武道館Live SUPERNOVA
本記事は2025年2月1日開催のHoshimachi Suisei 日本武道館Live SUPERNOVA ライブレポート記事になります。悔しくも残念ながら現地参加はかなわず、配信にて鑑賞しました。感想を綴っていきたいと思います。なるべく演目全体に触れていきますが、主な記事内容は "本公演ですいちゃんが何を伝えようとしてくれたか紐解く試み" と "本公演のテーマ曲ともいうべき新譜『Orbital Period』の、いち星詠みの感想" になってます。
僭越ながら、本公演に寄せる『comet』と『Bluerose』への想いについては、別途直前記事にしたためましたので、この記事を読んでくださった方は合わせてご一読いただけると大変嬉しいです。
それではライブレポート本編です。
配信参加の唯一にして最大のメリットを享受すべく、とっておきワインを早々に抜栓し、お昼寝してスタンバイ。……やっぱ現地行きたかったなあ。
1曲目はイントロを聴いてうん!順当!!と思いました『ビビデバ』ですが……馬車から降りてきたあああ!!!からの、黒基調の新衣装に大変身メイクアップ!!!!1曲目からフルエキサイティングです。歌声もつやっつやで、回を重ねて歌い慣れた1曲で初っ端でもやりやすかったとアフタートークで語っていましたね。
続く『TRUE GIRL SHOW』でいつものご挨拶。ちゃんと最新バージョン。"今日もかわいい"は慣れないと意外とタイミングが難しいんですよね。
この後、『Newton』『綺麗事』と立て続けたのはなかなか驚きました。どちらもメッセージ性の非常に強い曲なので、メインディッシュにもデザートにもなりうるわけですが、このアンティパスト的な突き出し方はセトリ全体を俯瞰するとすごく腹落ちします。『Newton』の詞は武道館のステージにふさわしい楽曲である一方、2nd albumの裏テーマ曲っぽさもあるので、 "ぎらぎらほしまち" とは差別化された使われ方がすごくしっくりきました。『綺麗事』は……すごくすごく書きたいことがいっぱいあるので、また後日別記事にさせてください。
そしてチルパートは『褪せたハナミドリ』、この曲も人気高いですよね。思えばこの曲も『Specter』の中では異彩を放っていて革命的であります。緑に染まる客席が素晴らしい。続けて、歓声が止むまで充分待ってから板付いたすいちゃんのブレスをCUEにして『ムーンライト』、いやこの歌い出しはやべえって!ベンチに腰掛けての歌唱でうっとりする時間が流れます。そしてまた一拍おいて『ビーナスバグ』。情感たっぷりに歌い上げたと思ったら、今度はにっこにこで縦ノリをあおるすいちゃん。かわいい。
そしてライブは中盤戦、いわく、「革命パート」へと進みます。
正直なことを告白すると、私はどことなく落ち着かない気持ちで本公演の中盤を観ていました。もしかして、すいちゃんは革命を起こしてどこか遠くの宙へ旅立ってしまうのではないか?と。
「愛してるよ愛してるよ愛してるよ さよならなんて涙が出ちゃうけど」
「革命の狼煙は 変化を恐れない覚悟さ」
「次から次へと過去に手を振っていけよ」
「終わりが来る時まで 強くあろうと演じてきた日々に」
「今日を変えて 鮮明な方へ どんな痛みも 胸にあるまま」
表現は様々あれど、明確に3rd album『新星目録』の曲たちには一貫したテーマがあります。私は腕をおろして固唾を飲んでいました。真剣な眼差しと歌声を全身で浴びて、心臓が早鐘を打つのがわかりました。『繭と心』のイントロなど特に、ひずんだギターと重たいブラスの音、明滅する光に巻かれて、彼女が電子の殻を破ってくる錯覚を覚えました。
でも結局のところ、今まで手にしたスタイルに凝り固まって、変化を恐れているのは受け手である我々なのかもしれません。推しを推すには、新しいものを次々と生み出してほしいという渇望と、ずっと今のままで居てほしいという傲慢、その二律背反をうまく手懐ける必要があるのでしょう。
彼女という存在が大きく変わる何かが、本当に起きるのではないかと私はヒリついていたのですが、バーチャルアイドルの矜持を胸に、爆発音で革命パートは堂々と幕を引きます。杞憂でした。やりやがったなぁ。
そして舞台は終盤戦へ。
2019年から星のめぐりが辿られ始めたとき、なんとなく予感していました。あ、本当に『comet』の流れだこれ―――
気が付けばステージには、夢を叶えたとびきりのステージには、私の知らないすいちゃんが立っていました。
その衣装は、私がまだ彼女の存在を知らなかった頃の遠い昔の姿であり、そしてまた新たな輝きを放つ生まれ変わった姿です。
「その中で私は 何が残せるのかな きっと誰よりも青く強い光を」
感極まって声が紡げなかったこの詞に、彼女の苦悩や焦燥、歓喜や情熱、言い表せぬ深い深い感情の片鱗を垣間見たような気がして、自然と私も涙を流していました。
間違いなく、彼女は夢を叶えたんだと、ここで実感。
『Stellar Stellar』『NEXT COLOR PLANET』の2曲も絶妙な構成でした。『comet』が武道館を目指す"原点"であったならば、この2曲はその道のりの"礎"となった2曲でしょう。名刺代わりとでも言うべき楽曲ですが、今回はまた特別な感情がこもっていた歌唱だったと思います。そしてcomet衣装で歌ったときの正統派アイドル感ね…今日は特にかわいい……
さて、すいちゃんという存在はどのように映って見えているでしょうか。きっと、歌えばいつでもかっこよくて、しばしばお茶目で、芯が強くて固いポリシーを持っていて、それでいて仲間想いで………でも、彼女が時たまに曲の中で見せる苦悩、夜空の中に消えてしまいそうな儚さにも彼女らしい魅力があって。そんな星。
新譜『Orbital Period』は、まさにそれを体現した楽曲でした。
今の彼女はもはや、『天球』『GHOST』を歌っていたころの彼女ではありません。先駆者として大旗を地に刺し時代を牽引するバーチャルアーティスト、それが今の星街すいせいです。だから、彼女が苦悩するならばきっと、もっといろんな人に歌を届けたいとか、上手に表現したいとか、次はこれができるようになりたいとか、そう語るだろうと。ややもすると、私は無頓着でした。
彼女の苦悩はもっと根源的で、未だ「僕のこの声が聞こえてる?せめて声を枯らそう」であり、さてまた「どうか声よ枯れないで」であったのです。これSSAの『GHOST』のMCでも思ったのですが、また胸を打たれました。
Orbital periodは、このイディオムで公転周期を指すのだそうです。星街すいせいの "公転周期" は6年と317日ということになりますね。
Periodという単語には期間や時代といった意味がありますが、私がまず連想するのはピリオド/終止符かもしれません。そしてOrbitは天体の軌道、すいちゃんは星なのですから彼女がこれまで歩んできた軌跡と表現できるでしょう。
やはり、彼女にとって武道館とは明確に、一夜の終わりだったのです。しかし最初の地点に戻ってきた天体は、そのまま滑らかに軌道上を運動し続けるよ、と、『Orbital Period』は言うのです。何かが違ったならば、その星は今日の空で輝いていなかったかもしれない。軌道は途切れ、夜闇に消えていたかもしれない。いや今もなお彼女は苦悩していて。
ステージ上で、声を絞り、腕で頬を拭う姿など、想像すらつきませんでした。その儚さと切なさに、透き通った声が「嗚呼、僕は、この景色を只、信じて良かった。」と歌ったとき、また涙が流れました。
彼女が信じてくれるなら、この旅を終えていっそう輝きを増したその星は、明日もまた同じように輝いてくれるのでしょう。天体の軌道とは、決して目には見えない事象ですが、その天体が輝いている限りは必ず辿ることができる道のりなのです。
武道館公演はこれで完結していて私はもう満ち足りた気持ちに浸っていましたが、アンコールのあとの構成もすごく良かったです。
『キラメキライダー』はまったくの死角から突かれた気持ちでしたが、ここまでの道のりの感謝を誰よりもホロメンに伝えたいんだという、本当にすいちゃんらしい曲選だったと思います。と同時に、私はこの前のぺこマリのプロフィール帳の配信を思い出していましたが、すいちゃん自身が多くのホロメンにとっても尊敬や憧れの対象になっているんだぜっていうね。ホロライブあったけえよ。
『Bluerose』の花言葉については直前記事で記しましたのでここでは割愛します。ただ一つ言えることは、イントロで頭を抱えて唸っていたってことですかね。どこまで完璧にしてくれるんですかこのセトリ…。comet衣装を身にまとって「ねぇ 貴方のすべてを守るから そばにいてね (バチコーン」で日本武道館の耐久年数が少し縮んだとかなんとか。
で、ここまででも完成されつくしているのですが、度肝を抜くダブルアンコール。脳内プレイリストのザッピングが始まります。うーんこれ『天球』の流れか?違うよな。『Stellar Stellar』『NEXT COLOR PLANET』はもう役目を果たしたし。あー、じゃあ…!
みんなを笑顔にするギターリフで始まったダブアンは、"普段着"を身にまとったすいちゃんの『ソワレ』でした。この楽曲がなくてもセットリストは成立していますし、『Bluerose』の前後でも矛盾は生じません。
でもそうではなく、ダブルアンコールと衣装チェンジを選んだところに妙があります。
天体は原点を越えた直後も、軌道上を滑らかに運動するのです。普段着の『ソワレ』、渾身の「また明日」に込められたのは、次の公転、希望に満ちた第一歩が今この瞬間なんだよというメッセージであったと、私は受け取りました。
武道館という夢の舞台、掲げたテーマは "革命" でした。
意図されているのか否か分かりませんが、革命は英語でrevolution、そしてこの単語は "天体の公転" の意味も持っています。
彼女にとって革命とは、原点に回帰してなおも回り続ける、歩みを止めない天体であることだったのかもしれません。
ライブイベントとは物語であると、私は常々思っています。星街すいせい武道館ライブは間違いなく屈指の傑作であったでしょう。
今回は思いが溢れすぎて、筆がだいぶ重くなってしまいました。ライブがナマモノならば思い出にもまた鮮度がありますから、次に活かしたいところです。息継ぎもそこそこに次はフブちゃんの1st liveですね。