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【一曲集中・Vtuber楽曲】全力"深読み"考察 第1回 「灰色と青」(歌ってみた)

 一曲・一動画に焦点を当てて、歌詞やメロディ、MVに込められたメッセージを考察していく記事です。筆者の主観や独自解釈を多分に盛り込んでおり、全力"深読み"と銘打ちました。思い立ったら定期的に書いてシリーズにしたい。

 すっかりVtuber沼につかっている私ですが、黎明期から今と同じ熱量で応援していたわけではなく、思い返せばターニングポイントがいくつかありました。「バーチャルタレントが創る音楽の世界」の魅力にハマるきっかけの一つだったと意識している作品がありますので、第1回ではそれを取り上げてみたいと思います。

 灰色と青/星街すいせい×常闇トワ(cover) です。

 いわゆる、歌ってみた動画です。本作品が公開されたのは2021年12月23日、ちょうど今日から3年前。3年経ったか、と痛感。
 まずは"素敵な本家様"のMVがすごく良いので、こちらを観ていきます。

 出だしの通り、本譜の舞台は夏の終わりです。早朝の電車に揺られながら少年時代の風景を思い起こす、『米津玄師さん演じる一人の男』の独白から曲は始まります。たくさんの年月が通り過ぎていったけど、『君』はあの頃の面影のままだろうかと歌い1番が終わります。
 2番はタクシーに背負われたもう一人の男、『菅田将暉さん扮する彼』がくしゃみをするところから始まります。彼もまた、少年時代の心揺さぶられた思い出を忘れることはないんだと独白します。
 君は今もあの頃みたいにいるのだろうか、と2人は回想します。どれだけ月日が流れても、どれだけ身の丈が環境が変わっても、時には無様に傷つこうとも。訳もないのに胸が痛くて、同じ空の元に居るだろう『君』の面影に励まされながら、お互い毎日を過ごしていく。

 この曲が特筆して美しいのは、テーマを「少年時代の追憶と美しい友情」に置きながら、登場人物の2人は決して再会せぬ点にあると私は感じます。歌詞割やMVでもそれが表現されています。『米津玄師』と『菅田将暉』の歌声は、ただの一度も重なることはありません。デュエットソングなのに。場面が何度切り替わっても、2人は決して同じ画面に映りません。たばこの紫煙を、揺れるブランコを、その面影を感じ取れたとしても、決して出会うことはないのです。「もう一度初めから歩けるなら すれ違うように君に会いたい」は仮定法で、実際にはもう再会しないことの究極の暗示です。ラストの象徴的な詞「始まりは青い色」とはおそらくブルーモーメントのことを指していますが、それは青春時代の郷愁を糧に日々を歩んでいく、寂莫とした朝の暗喩です。

ブルーモーメント (ウェザーニュースの投稿から)

 天才的な詞としか言いようがありません。実のところ筆者はグッドエンドでもバッドエンドでもない結末、ビターエンドが大好物の人間でして、曲を聴く順番は原曲が後でしたが、まあ強く心を打たれました。


 それでは、星街すいせい×常闇トワ バージョンを観てみましょう。 

 白雪が降りしきる中、厚手の防寒具に身を包んだ2人の女性が歌うという構図です。1番の出だしから曲の最終盤まで、登場人物2人の歌声は会話するように、投げかけるようにして何度も交互します。
 原曲と対照的なこの描写は、本作品がアナザーストーリーであることをほのめかしている、と私は解釈しています。晩夏と真冬、少年と少女、独白と対話。ならば結末は。
 1番は灰色『常闇トワ』のパートですが、サビでは『君』のハモりが聞こえ、その面影を探します。2番は『星街すいせい』の青色のパート。サビのハモりも逆転します。Cメロのあと、つぶやくような「すれ違うように 君に会いたい」を歌った直後、落ちサビで堰を切ったように斉唱が始まります。

 物語の『常闇トワ』と『星街すいせい』は、きっと再会を果たしています。私には、改札口を抜ける『常闇トワ』の姿を、タクシーから降りた『星街すいせい』がその目にとらえた光景が、まぶたの裏に浮かぶのです。「始まりは青い色」、薄明の中で再会した2人は、隣に互いの姿を認めながらブランコを漕いでいる。
 そこまで空想たり得てなお、本作品は強烈に"てぇてぇ"のです。
 トワ様の歌動画ではいつも、概要欄に歌詞から一文が引用してあります。どこの詞を引くかに彼女のハイセンスがすごく現れていて、うお~そこを引くか!といつも楽しんでいます。そして、本作品の引用はこうです。

 「何があろうと僕らはきっと上手くいく」。


 原曲がすごく良いのもあります。この頃から2人の歌表現にはすでに魅力が充実しています。実際この動画は3年間で1350万回再生されました。とかく、この歌ってみた動画との邂逅は私にとって本当に鮮烈なもので、Vtuberにますます惹かれていったことを覚えています。
 本作品のように、"フィクショナルな物語"の解釈を多彩に表現できることも歌ってみた動画の魅力のひとつだと思います。オリジナルソングと比べればコストが低く済みますし、様々なタレントが様々な作品を創ることができる土壌だと感じています。

 ここからは余談ですが、「灰色と青」は既にたくさんの歌ってみた動画が作られており、様々な"解釈"を楽しむことができます。もう3つほど紹介して終わろうと思います。

・西園チグサ×HACHIバージョン

 こちらはかなり原曲リスペクトの作風です。ただし、チグちゃん(青色)に主人公としてスポットライトが当たっており、はちたや(灰色)を回顧するような構成になっているかなと思います。
 ってかシンプルに2人の歌声が好きなんで、取り上げちゃいました。

・VESPERBELLバージョン

 本作品の公開は2024年10月31日で、VESPERBELLの2人にとっては直後にキービジュアルと3Dモデルの大幅な刷新という、節目的なタイミングでした。デビュー以来の旧デザインの姿で創った最後の作品が本譜ということになります。2人のこれまでの歩みを追想しながら、「今も歌う 今も歌う 今も歌う」と力強く歌う本作にて強調されていたのは、背景画のように、欠けた月ではなくまぶしい朝日であるように思います。

・相羽ういは×北小路ヒスイバージョン

 テーマ自体は「追憶と友情」ですが、本作品もまたアナザーストーリーで、2人は静かに寄り添って同じ電車に乗っています。何より先述と異なるのは"1人称視点"で歌われていることです。「今更悲しいと叫ぶには あまりにすべてが遅すぎたかな」。
 大サビでは、にじさんじという電車を降りて行った『君』の、明るくも物悲しい歌声だけが響きます。「始まりは青い色」に居るのは、残された『僕』ただひとりです。同じ空を『君』もどこかで見ているかな、と祈って曲は終わります。
 概要欄に引かれた歌詞は、「変わらない何かがありますように」


 今回が第1回の予定ですが、かなり気合が入ってしまいました。第2回はオリジナルソングを取りあげたいですが、はてさてどの曲にしようかな。

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