#57 今一番欲しいもの/及川恵子
とんでもない時代を生きていてえらいけど
健康な体が欲しいし、時間も欲しい。
お金だって車だって家だって欲しい。
かわいい秋服も、早く走ることができるランニングシューズも、秋メイクによく似合うテラコッタ色のリップも欲しい。トムフォードの4万円の香水だってずっと欲しいし。
絶対に破けないパンストも欲しい。
語彙力も欲しい。
文才も欲しい。
知識も瞬発力も集中力も欲しい。
気力も欲しい。
ざっと思いついた“欲しいのもの”を書き出してみたらこんなことになりました。
ただ、“今”一番欲しいものは、「落ち着いたら会おうね、を言わなくてもいい世界」かもしれません。
本来なら「コロナウイルスのない世界が欲しい」と言いたいところだけど、それはもうありえない。付き合っていくしかない。
そんな中で、もうそろそろ「落ち着いたら会おうね」が虚しく聞こえてくる瞬間に出会いたくないというか。
もう何回言ったかわからないもん、この言葉。
いつまで待てばいいのかなんてわからないのに、
落ち着いたらがいつなのかなんてわからないのに、
結局“落ち着いたら”なんて日は来ないような気もしているのに、
ヘラヘラしながら言っちゃうこの言葉。
ああ、むなしい。もういい加減、飽きました。
仕方ないんだけどね。わかっているんだけど。
ここ最近、最初の緊急事態宣言の時のような閉塞感をまた感じています。
八方塞がりどころか、九方も十方も塞がっているような閉塞感。苦しい。
「私ってすごい時代を生きているねえ」と、どこかで自分を外側から見ている私と、
現実と向き合ってお先真っ暗を思い知る私とを交互に行き来して、ヘトヘトになってしまう。息絶え絶えながら、かろうじて生きているような気もしています。
会いたい時に、会いたい人と、楽しく会いたい。
ただそれだけのことを、“落ち着いたら”なんて言わなくても、かたちにしたい。
こんなことを願う日々が、こんなに長く続くなんてね。
まだまだ会いたい人も、見たいものも、行きたい場所もある。
随分と先にある光をかろうじて頼りにしながら、どうか私の歩く力だけは衰えないでくれ、と、願ってばかりいる今日この頃です。