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華と三途の川

10年前、私は医者に「あともう少し遅かったら命が危なかった。」と言われた。
原因不明の高熱に侵され、体温計は測定可能な最高温度である42.0℃を示していた。
幻聴が聞こえ始め、意識が朦朧としていく。
そんな時に見た夢についてのお話だ。


私は先の見えない暗くて狭い穴の前に立たされていた。
左右を見ると、まるで魂を抜かれたかのような表情で突っ立っている人々がいる。それぞれの前には同様に穴があった。

誰かの声がする。

「穴を掘りなさい。」

最初は戸惑ったが、私達は素手で土を掻き分け、奥へ奥へと穴を掘った。屈まなければ進めないほど狭い穴だった。

何時間掘り続けただろうか。
いや、何日掘り続けただろうか。
手からは血が滴り、呼吸が浅くなっていく。

「もう無理だ。私はここで死ぬのか」
もうなんでもよかった。


すると奥から細い光が差し込んできた。
その光には希望が詰まっているように見えた。
私は最後の力を振り絞り、懸命に土をかき分けた。徐々に光が強くなってくる。


突然目の前が霧に覆われた。
「貫通したのか!?」
ゆっくりと立ち上がり、霧の中へと足を進めた。


そこには青空が広がっていた。
中央には白い花瓶に一輪の白い華。
とてつもない魅力を放っている。
私にはそれがとても美しく見えた。
触れたいと思った。

私は、無意識のうちに花瓶の前に立っていた。

白い華に触れようとした瞬間、ざわつきにやっと気がついた。
辺りを見渡すと、そこには多くの人々がいた。
皆が純白のサテンの袈裟を纏っていた。
優しく微笑む人、楽しく談笑する人。
とても平和な世界だった。


しかし、そこには共にこの試練に挑んだものが誰1人としていなかった。


「ここが、天国か」

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