【効いた曲ノート】伊藤康英「吹奏楽のための交響詩"ぐるりよざ"」
主に趣味の都合で週末は電車で長時間移動することが少なくないので、リコメンドを漁ったりだとかその場の連想で検索するなどの適当な思いつきで見つけた曲を「積み曲」として移動中の楽しみにしています。GWの手慰みとして曲目のメモでも残しておこうと思います。
今回は長崎・天草の「潜伏キリシタン」世界遺産登録から連想して”吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」”を聞いてみましたが非常に”残る”曲で良かったです。ということです。
”ぐるりよざ”とは長崎生月島に伝わる歌で、16世紀スペインのマリア賛歌"Gloriosa"が厳しいキリスト教徒弾圧の中で細々と歌い継がれていく中で転訛(なまっていった)もの。「ぐるりよざ」の元ネタの聖歌は廃れてしまっており、見つけるのが大変だったそうです。口伝だけでほとんど元の発音通りに残っていたのだというのだからすごい。
1889年から1990年にかけて自衛隊音楽隊の委嘱を受けて作られ、長崎の民謡とキリスト教音楽の融合した独創性のある曲に仕上がっています。長崎にはそんなに行けてないですが、中国文化やキリスト教文化といった異文化との接点であり続けたことによる”濃さ”を感じる場所だなあという感想がありました。また行きたくなります。
隠れキリシタンたちが歌い継いでいった聖歌は、厳しい禁教のなかで、旋律は次第に歪曲し、歌詞も転訛してしまった。たとえば「グロリオーザ(Gloriosa)」というラテン語は、「ぐるりよざ」というように・・・・。 (作曲者HPから。以下の引用も同様。 https://www.itomusic.com/%E6%A5%BD%E8%AD%9C/wind-band/%E3%81%90%E3%82%8B%E3%82%8A%E3%82%88%E3%81%96-%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%89%E7%89%88/ )
第1楽章「祈り」は、グレゴリオ聖歌をテーマに、シャコンヌの形式による13の変奏から成っている。
祈祷文(oraitio)が"オラショ"という経文のようなものとして(節のついたものはほとんどなくお経に近い)隠れキリシタンの中で定着していきました。「ぐるりよざ」ではグレゴリオ聖歌のような讃美歌のテーマが歌われた後、13の変奏となり進行していきます。13はキリスト教における受難の数であり、シャコンヌはバッハによって集大成に至った江戸時代あたりに流行った形式です。これらの形式上の連想に加えて変奏の中身も弾圧を思わせる激しい響きのものや和風な響きとなるものなど、元の聖歌が長崎の”オラショ”となる過程を想起させます
「唄」と題された第2楽章は、キリシタンにいつからともなく歌い継がれてきた「さんじゅあん様のうた」
2楽章は和楽器竜笛の3分超に渡る長大なsolo。竜笛が唄いあげる鎮魂の歌のピークにホルンが慟哭、全楽器も加わった叫びとなると、最後は再び竜笛のsoloが静かに閉じていきます。個人的には一番好きです。
第3楽章「祭り」は、変形された「長崎ぶらぶら節」が基本となっている。
3楽章は対馬蒙古太鼓のビートと1楽章の聖歌を織り交ぜた華やかさと荘厳さでクライマックスへ。平和への賛歌、という表現をすべきでしょうか。オルフの「カルミナ・ブラーナ」チックな宗教カンタータっぽい雄大なエンディングを迎えます。
作曲者の日記や当時の記事を掘り起こしてくださっているエントリがあったのでそちらを見ながら聞いていました。元のオファーは「吉野ケ里遺跡とかテーマにしてくれ」だったのはちょっと面白いですね。そうなってたらどんな曲になってたんでしょうか…w