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【効いた曲ノート】レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ"クリスマスキャロルによる幻想曲"


メリークリスマス。いかがお過ごしでしょうか。

キリストの生誕を祝うクリスマス、もとは宗教音楽から発展を遂げてきたクラシック音楽はもちろん名曲揃いですね。家で暖まりながらまったりと聴くとしみじみと心を暖めてくれる幸せをもたらしてくれます。

古くから親しまれてきたクリスマスソングとなれば民謡研究家RVWの面目躍如といったところで、自ら収集した南イングランドのクリスマス民謡をアレンジした“クリスマスキャロルによる幻想曲”もまたクリスマス曲の傑作リストに入って欲しい曲です。簡単に言うとイギリスのクリスマスソングメドレーですね。

クリスマスの合唱曲となると、どうしても聖書が何だかんだとめちゃめちゃ長い話になるのでどれも大曲になってしまうのですが(もちろん素晴らしい曲たちです)、今回は幻想曲と銘打ってあるのでごあんしんです。12分の小曲。しかも美味しいところだけを最高の編曲で味付けをしているのであっという間です





RVWらしい愁いを帯びたチェロ独奏から始まるバリトンの独白は“This is the truth sent from above”というクリスマスキャロル。キリスト教における原罪の教えが解かれています。バックコーラスが霧のようにうねり静謐な雰囲気を作っています。


The first thing, which I do relate,
That God at first did man create
The next thing, which to you I tell,
Woman was made with him to dwell.
Then after this, ‘twas God’s own choice
To place them both in Paradise,
There to remain from evil free
Except they ate of such a tree.


そして曲の後半から合唱が合流し人類が原罪を背負うところで一度クライマックスへ。幻想的な雰囲気を湛えたまま鎮まる一転して明るい雰囲気の“Come all you worthy gentlemen”へ。


Come all you worthy gentlemen
That may be standing by.
Christ our blessed Saviour
Was born on Christmas day.
The blessed virgin Mary
Unto the Lord did say,
O we wish you the comfort and tidings of joy!


合唱各パートの織り成す“we wish you comfort and tidings of joy!(あなたに平穏と福音のあらんことを、ってことでいいんでしょうか)”の掛け合いですっかりとお祭り気分が盛り上がって参りました。

そこに満を持しての再びのバリトンソロ。“On Christmas night all Christians sing”


On Christmas night all Christians sing
To hear the news the angels bring.
News of great joy, news of great mirth,
News of our merciful King's birth.


合唱と金管楽器(天上の音という役目をしばしば担います)を伴うこのあたりはなんというか、日本語が下手すぎて恐縮なんですが、“幸せパワー”が溢れています。なんですが、ゴシック形式!と大上段から強い光を当て続けるという熱さではなく、合いの手や下降音形に民俗的な郷愁のある響きを残しているのが親しみやすくてよいですね。民衆にとってのクリスマスという感じがします。

クライマックスは再び“Come all you worthy gentlemen”

God bless the ruler of this house,
And long on may he reign,
Many happy Christmases
He live to see again!
God bless our generation,
Who live both far and near,
And we wish them a happy, a happy New Year.


ストーリーテラーとしてのバリトン、劇伴の合唱とオーケストラというバランスがメドレー形式を綺麗にまとめていますし、合唱とオーケストラも見せ場があるので(楽譜見るとひそかに超大変そう)、名脇役が活躍する作品は名作というアレです。ひとつの劇のように宗教曲を纏めあげているので作品世界に導かれやすいというのが異教徒にとっては嬉しいところ。

浮き世の嘆き、苦しみ、怒り、哀しみ、そういった負の感情の一切を今日くらいは忘れてもいいんじゃないか。キリスト教徒じゃなくても許してくれるんじゃないでしょうか。そう思わせてくれるものがあります。


we wish them a happy, a happy New Year, both now and ever more.
Amen.


私もこういう気持ちになれる曲です。

それでは。メリークリスマス。