生まれ育った街と向き合ってみること
平日の午前中に外の用事を済ませられたときは、ランチタイムサービスの恩恵を得られるため、ついつい外食したくなる。その日はふと、病院の近くにあったカフェに立ち寄った。
軽く調べて見つけただけの店だったし、カフェにひとりで入ることはあまりないので、少々不安な気持ちを抱きながらも店に入り、店内を見渡すと、歴史を感じるオーディオ機器や螺旋階段、会社員から主婦まで幅広い客層のほどよい人気など、全てがちょうどよい心地よさを生み出していた。おいしいコーヒーとチーズたっぷりのマカロニグラタンに舌鼓を打ち、食後に本でも読みながら感傷的な気分になったところで、店を後にした。
こんな場所が自分の活動圏内にあったということは、この街には自分が知らないだけの素敵な場所が他にもたくさんあるのだろうと改めて気付いた。
自分は春から就職で上京するため、二十数年過ごしたこの街を離れる。
一度、二十歳になる前日に今まで過ごしてきた場所を巡ったことがある。これは僕が大好きなLOST IN TIMEというバンドのフロントマン、海北大輔さんが三十歳になる前日に同じようなことをしたと知って、リスペクトの意も込めて行ったことだ。
いざ実行するとなると多少億劫な気持ちもあったが、実際に行ってその場の雰囲気を五感で感じるとより鮮明に思い出が蘇ったり、逆に当時は気付かなかった発見があったりした。今まで選んできたことだとか将来の不安だとかを整理することが出来た気がして、とても有意義であった。
LOST IN TIMEは自分が知る中でも、多くの変化を遂げてきたバンドの一つだ。メンバーや体制、音楽性等多種多様なかたちを経てきた彼らだが、どの時期でもその音楽や言葉に嘘がなく、唯一無二の魅力があった。だからこそ、説得力や親近感を半端じゃなく感じられる。前向きな諦めと楽観的な希望を歌った「30」のような彼らにしか作れない曲は人生の一片のようで、僕自身の行動や生き方に多大な影響を与えてくれた。
ここらで自分が育った街に向き合い一区切りつけ、春からの新境地でも夢中で歩み続けられるように、今一度、就職前に縁の地を歩き回ってみよう。