Smokey Robinsonを聴きまくる!【3】I'll Try Something New
1962年発表のミラクルズの3作目はアレンジ、曲想など前作を踏襲したアルバムだと思います。スモーキーの歌声はスムースさが増し、スタンダードナンバーも3曲含まれています。ミドル~スローテンポの曲が大半を占め、全体に穏やかな作品と言えるでしょう。しかし若さや勢いなどは十分感じ取ることはでき、軟弱というイメージはありません。とはいえ、散漫な印象もぬぐえないと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=chVFj1uIM-w&list=PLAL6esrXaUi2dceviVKFBI4rgcXv1FZgJ
A-1 I'll Try Something New
1曲目を飾るのはスモーキー作のミドルテンポのバラードです。スモーキーの作る曲はいつもメロディーがきれいです。イントロで使われるハープ(ハモニカではない方)やストリングスがとても新鮮で、スムースなヴォーカル、コーラスとの相性も最高です。
A-2 What's So Good About Goodbye
スモーキー作の名曲です。ミドルテンポの正調R&Bですが、とてもメロディアスな曲調です。華麗なストリングスが曲の要所を締め、スィートではあるもののピリッとした好曲となっています。
A-3 He Don't Care About Me
スモーキー作のアップテンポ曲で、クラウデットがリードを取っています。ガーリー・ポップそのものの仕上がりです。
A-4 A Love That Can Never Be
ロバート・ベイトマン、ジェイニー・ブラッドフォード、ポップコーン・ワイリーによる共作で、リードはロニー・ワイトが取っています。ワイリーは初期モータウンにおいてピアニストやソングライターとして活躍していました。「Shop Around」のピアノもワイリーです。これまでのミラクルズのアルバムで、スタンダード以外にスモーキーが作曲に関わっていないのはこの曲が初めてだと思います。正直他愛ない曲ですし、ワイトのリードもグッとくるものはありません。
A-5 I've Been Good to You
スモーキー作の3連符バラードです。いつものスモーキー節が楽しめるものの、決め手に欠ける感じです。
B-1 Speak Low
ここからアルバムのBサイドですが5曲中3曲がスタンダードという構成になっています。本作はブロードウェイミュージカル「マイ・フェア・レディ」の挿入歌で、Jazzではウォルター・ビショップ・ジュニアの名演も有名です。違和感がある、というほどではありませんが、この時期のスモーキーが演奏する必然性はあまり感じられません。
B-2 On the Street Where You Live
こちらも「マイ・フェア・レディ」の挿入歌です。前曲より、さらにミュージカルっぽい(?)アレンジが施されています。後にスピナーズやスタイリスティックといったヴォーカル・グループにも同じような曲調・アレンジの曲がありますが、こうした感じもブラック・ミュージックの伝統の一つなのでしょう。しかし、エンターテイメント性は感じられても、Jazz的なスリルはあまり感じられません。スモーキーのヴォーカルも全体に埋もれてしまっていて、匿名性の高い演奏といえます。
B-3 If Your Mother Only Knew
スモーキーとミッキー・スティーブンソンとの共作です。スティーブンソンも初期モータウンのライター/プロデューサーです。前2曲の流れからすれば、ちょっとホッとする感じですが、やはり決定打とはなりえない曲です。ストリングスを強調したバックの演奏(この時期のモータウンですから勢いは感じられます)にメローなヴォーカルが乗り、聴いていて気持ちはいいのですが、それ以上のものがない感じです。
B-4 I've Got You Under My Skin
コール・ポーター作曲のスタンダードです。この曲と「スピーク・ロウ」は2006年のTimeless Loveでも再演されました。前2曲のスタンダードと同じような印象です。
B-5 This I Swear, I Promise
最後はスモーキーとブラッドフォードの共作で、ドゥーワップ・マナーに則った心地よいバラードです。このアルバムの流れで聴いていると、なんだかスモーキーのヴォーカルからも黒人っぽさが希薄に感じられてしまうのは気のせいでしょうか…。
1961年のファーストアルバムから、1962年のこのアルバムまでほとんど全ての曲をスモーキーが作ってきています。創作のエネルギーは大変なものだと思いますが、本領の発揮には少し時間が必要なようです。