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千年の時を超えて旅をする

なぜいま仏像を?

今年に入ってすぐ、見たいドラマが複数あったのでNHKオンデマンドに登録した。昔から不定期に思い出す「ジェッデン・デデン」。それが使用されていた1979年の向田邦子さん脚本「阿修羅のごとく」のドラマを見てから、OPで流れる阿修羅像を直に拝みたくなるという衝動にかられた。

以前から一目見たかった吉祥天女や勢至菩薩、色々調べているうちにあれもこれも見たくなってくる。仏像となるとやはり奈良。
神社も寺もめちゃくちゃ多い。もう神社仏閣の敷地に町があるレベル。

だんだん欲が出てくるもので、どれだけ貴重なものが見れるか?――――
ある日、奈良博での聖林寺十一面観音立像の展示がまもなく開催との情報を得た。しかも音声ガイドが大好きな天海祐希さん!こりゃ見るしかないとチケットを即購入。

催しが始まってからすぐにでも行きたいところだったが、寒波の影響で荒天が続いたのと緊急事態宣言が出るかもとのことでしばらく静観していた。
特別の御朱印に日付けを入れてもらうため、縁起の良い日を選んで18日にGo!
頼まれ事があり出るのが遅れ、時間はお昼ごろになってしまった…

縁がないわけでもない

小さい頃は近鉄奈良沿線に住んでいた。
電車で永和まで幼稚園に通い、遠足では「あやめ池遊園地」に行っていたので難波から菖蒲池までの駅名を覚えたりしていたのだけれども、もうおぼろげになってしまった。しかし時とともに移りゆく窓の外をぼーっと見つめて懐かしさを糧に過去へと遡る。時間旅行の準備は整った。
少し曇っているものの暖かい、と思ったのも束の間、生駒トンネルを抜けたあたりから急に空気感が変わり寒くなるのがわかった。

奈良は何十年と来ていないけれど近鉄という慣れ親しんだ電車が不安を払拭してくれる。
心細いが、時間も体力も気になるが来てしまった以上もう行くしかない(笑)


まずは興福寺へ。
少し前方に、行き先が同じらしい人がいたのでついて行った。
一人旅あるあるだと思うんだけどライブなどイベントなどで初めて行く場所は人についていく方が迷わない!事前に調べてるにもかかわらず気まぐれを起こして変な道に入っちゃうのは私だけだろうか?

中金堂は残念ながら閉堂中で拝観できないが、視界が開けていて外から見ると青空に映えていてとても綺麗だった。五重塔を横目に国宝館を目指す。

中に入るとモダンな雰囲気でシンプルな内装。お香を焚いてあるのか香木のものか、とても清々しい。空調も暑すぎず寒すぎずベストに保たれている。
そして私が入ったときは貸し切り状態で静まり返ってピンと空気が張り詰めるようだった。

阿修羅像は気迫があって肌も血が通っているようで肉感的。目にも透明感があり、視線を外すとかすかに動きそうなくらい生きている感じがした。

まったく知識はないので書いてる説明もほとんどわからなかったが、美術館のような感覚で楽しむ。
様々なポーズやキャラが個性的な板彫りの十二神将が気に入り、ポストカードを買ってしまった。


興福寺のおもひで


国宝館で共通券を買えたのでそのまま東金堂へ参拝し、無事に御朱印を授かる。
その後、奈良博物館へと向かった。

こちらは旧館(なら仏像館)。時間がなくて回れなかった…

公園にたくさんいる鹿はまさにローカルの主といった様で人馴れしていて、年寄の鹿は達観した目つきで「誰がせんべいをくれるんだい?」というふうに観光客の品定めをしているようだった。

博物館に入り音声ガイドを借りて、天海さんの声を聴きながら膨大な年月を重ねてきた展示物に思いをはせる。

十一面観音立像もこれまた生きているようだった。
初見で心臓をつかまれるような気がした厳しい顔つきはとても印象的だ。表情とは相反して若くハリのある肌。前から見るとふっくらしているが横から見ると意外とスリム。背中側から見れるのがまたとない機会なので回り込んでじっくり目に焼き付ける。

小学生の頃に紙粘土で人形を作ったのだがバランスが悪くて何度も倒れ、自立させるのがひどく難しかったのを覚えているが、
こちらは躍動感にあふれ、流れるような衣の曲線に材質までも伺わせる質感の表現、表情の多彩さ。とても感銘を受けた。

お水取り展

そして同時に特別陳列されている東大寺のお水取り展も見る事が出来た。

3月1日から14日まで2週間行われる修二会しゅにえの内容を展示。
1270年間、戦時下であろうと一度たりとも絶えることなく続いている平安祈願行事。
実際の写真や着用された衣装などもたくさんあり過酷さが直に伝わってくる。
霊験あらたかな事象を描いた絵巻物の絵がものすごく精密で色鮮やかでガラスに顔をぶつけそうなほど見惚れた。


順路最後の方には迫力のある写真が並べられていて、これでどうして火事にならないのかと思うほどお清めの火の粉が舞って燃え盛っていた。
帰ってからNHKスペシャルで特集されていた去年の修二会の動画を見たのだけれど、隔離生活にいたるまでの葛藤や満行までの困難がしみじみと伝わってきた。

予定の半分ほどしか回れなかったけれど

他にも雑貨屋などゆっくり見たかったのだが、帰る予定の時間が迫ってきたので食事とミュージアムショップを諦め、好物の柿の葉寿司とプリンのお土産だけ買って大阪に戻った。

千年もの時を重ねてきた欠けた古銭を前に人間とは取るに足らない存在だなと再認識するとともに、出不精な私の行動力を駆り立ててくれる思い出というのはやはり何物にも代えがたい貴重なものだと改めて感じた。