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【論点解説】刑法~相当因果関係説の危機~危険の現実化の理解のために
刑法の論点の話です。
刑法の因果関係の論点について、最近は「危険の現実化」説が主流の見解です。そのため、その用語や言い回しは知っている方はたくさんいます。しかし、答案で実際に見ると、表面的に言葉を並べているだけで説明がうまくいっていない答案が多いです。
そういう答案を書く方に、「相当因果関係説と危険の現実化説の違ういは??」と聞くと、ほとんど的を得た答えが返ってきません。
危険の現実化説と、相当因果関係説は対立する…という見方もあるかもしれませんが、私は見ている視点が違うだけだと思います。以下は、私が、教えているときに説明している「雑な」整理の一例です。正確なものでも、文献の明確な裏を取ったものではありません(もしかしたらどこかで見たものなのかもしれませんが…悩みどころとか?)
そもそも、相当因果関係説は、因果関係について条件説(あれなければこれなし)だと処罰範囲が広がるからそれを制限するために生まれた見解です。特に、事前に予想できない結果が生じたときの問題を処理するために生まれたものです。
その中でも、相当因果関係説の規範にもあるように「行為時」の事情をどこまで加味するか?行為後の事情をどの程度加味してよいか?で折衷説と客観説で対立があったというものです。通説的だった折衷的相当因果関係は行為時の事情をどう加味するか?という点に意識があった見解です。
これらの見解の対立は「何を考慮事情として判断するか?」という点にフォーカスした見解だったといえます。
上記のように、相当因果関係説は、行為時に何をどの程度考慮すべきか?という点に重きが置かれていました。
これらの理解をもとに米兵ひき逃げ事件や梅毒事件などを整理することができるのでは?という認識だったのだと思います。
しかし、大阪南港事件で、行為後の第三者の介在事情があった場合にどうするの??という点についてうまく説明できない…ということになりました。この点を、大阪南港事件の調査官解説で指摘されて以後、「どういう風に相当性を判断するのか?」という点にも目が向いてきた。このころが平成初期です。
このことを「相当因果関係説の危機」ということが多いです。これは知っていていほしいですが、あまり知っている方は多くないような印象です。。。
それ以後、高速道路侵入事件や夜間潜水事件、トランク衝突事件など(事件名はたぶん通じるだろう…って感じです。)平成10年代以降の判例で危険の現実化説をとっているのでは?という感じの理解が定着してきたといえます。(特に高速道路侵入事件の調査官解説は、その点の説明をしている。)これらの判例は、行為後の行為者や被害者の事情、第三者の介在などについての判断です。
さらに、日航機ニアミス事件で判決文にも「危険性が現実化した」という文言が出てきて、判例はそういう立場なのだろうな…ということが固まってきました。
これが平成20年代以降です。
上記のような変遷を経ているので、行為後の事情の時に危険の現実化説を書くことになる。そのうえで、危険の現実化は、行為後の介在事情をどのように考慮してどのように判断するのか?という立場であり、行為時に何を考慮すべきか?という相当因果関係説とは明確な対立関係にあるわけではないと思います。
このように時代の変遷で議論が深化していき、整理されてきた。その前提の上にじゃあ今、その事案をどう処理するの??ということが問題として出題されます。その処理のためには、こうした背景もある程度理解しているといいのでは?と思う次第です。
以上です。個別指導では、こういう文献の裏が明確に取れていないけど、こういう整理があって、今こうなっているのでは?というような話も結構しています!という記事でした。
※くり返しになりますが、刑法の学者ではないので、一義的な答え…というわけではありません。。
※調査官解説を読めという趣旨ではありません。判例の年月日をちょっと意識したり、解説で法令や判例の変遷などがあった場合には意識的に読んでほいし。という趣旨です。
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