【司法試験】法改正と司法試験・予備試験
司法試験をやっていると短期だろうが長期だろうが,法律の改正にあたることはよくあります。近年で言えば,民法の債権法および相続法の大改正があり受験生としては対応が大変だったと思います。指導しているこちらも,いまだに旧法のワードが抜けずいます(時効の中断って不意にまだ行ってしまいます。そもそもまだ弁護士業務上は旧法ばかりですから…)。そこで今回は法律改正と司法試験について,受験生での対策の仕方についての考えを述べたいと思います。
1 本記事の執筆のきっかけ
きっかけは,今月の『自由と正義』の特集です。(※『自由と正義』とは日弁連が会員向けに発行している会報誌です。市販はされていますが,かなり限られた店舗でしか購入できない。)その特集の中に,改正会社法について,という論題の記事がありました。内容としては令和元年改正会社法の施行が令和3年3月に施行されたことを受けての実務的な話などでした。
前提として,会社法は頻繁に大きな改正のある法律です。平成17年の会社法成立以後,平成26年に大幅な改正があり,今回また大幅改正があったという次第です。
その記事を読んで,これ試験に出るかな?と考えていた時に,そういえば,法改正にどう対応するのかってまとまった文章で読んだことないな,と思ったのが執筆のきっかけでした。
2 これまでの大きな法改正と出題の関係
これまで,試験との関係で言えば幾度となく大幅改正がありました。それこそ,刑法の現代語化,平成10年ごろの新民事訴訟法の制定,民法の現代語化などなど…古い話ですがね。
近時で言えば、平成17年の会社法制定の時は、条文番号がすべて変わってしまったので大変だったと聞いています。そもそも、商法の第2編だった会社法を、抜き出して会社法を制定したのですから当然ですね。その時は,司法試験委員会の方からアナウンスがあり、改正で影響のある論点などは極力出題しないという方針が確認されていたとのことです。実際、平成17年司法試験(今から見れば旧司法試験ですね。)の論文問題は改正に影響のない部分からの出題でした。まぁ、この話も今思えば、相当古い話ですが。
直近で言えば,平成26年会社法改正も大きな改正でした。これは平成17年の会社法制定をうけてその後の動向や会社法上の不備の是正を図った改正でした。そのため,組織再編の差止などこれまで,司法試験や予備試験に出題のある論点に大きく影響するものでした。しかし,この直後の司法試験・予備試験ではやはり改正法が関与するような論点は出題されていませんでした。択一で多少でたかなくらいのものでした。
ここまでは会社法の話ですが,次は最大の改正,120年ぶりの大改正だった債権法についてです。これが施行されたのは令和2年4月で令和2年司法試験(延期のため8月でしたね)の問題から対応が求められました。蓋をあけてみると,司法試験の論文では改正法の適用が絡む出題がありました。しかし,論点自体を見ると旧法からの論点が改正でどうなったか?という程度でもあり困難な問題ではなかったと思います。択一はさすがに厳しかったですが。令和3年は、結構改正法をダイレクトに聞いてくるなという印象でした。そのため、民法債権法の改正は改正直後であってもそれが当然という感じだったと思います。
会社法との差は択一の有無や民法の改正は会社法とは次元が違うから仕方ないのだと個人的には思います。以上のような感じで,司法試験の時に改正法の影響がすぐに出た民法もあればそうでない会社法もあるということです。これは民事系に限った話ではないですし、選択科目でも同様だと思います。選択科目は、特に実務よりの科目ですので、法改正も頻繁です(労働法などちょいちょい改正されている印象ですし、最近だと働き方改革関連法の影響もあったのだろうと思います。)。要するに、科目によって影響がすぐに出るものもあれば落ち着いたころに出る科目もあるということです。
3 法改正と対策方法
では、法改正に対して何か対策が必要なのか?必要だとしてどう対応すべきか?という話です。
結論から言えば,受験生の段階では法律が変更になる点を気にしても仕方ないので,原則として関係ないと思って,特別な対策しなくても差し支えないと思います。
理由としては,法律改正がされるのは実務上の要求からであることが主です。司法試験など出題される分野はそうした実務的な最新の議論ではないことが多いです。むしろ基本的かつ古典的な論点,あるいは数年前に実務上で問題になったようなものが出題されているような傾向・印象があります。ですので,改正の細則を勉強しても試験勉強に何ら直結しない,点数に影響しないことは明らかです。
また,改正法の勉強は多くの受験生が後回しにしています。むしろ改正法を意識してしっかり勉強している層は合格が絶対視されるような蝶々上位の人くらいに思ってもいいと思います。そのレベルでも,点数に結びつきにくいことがわかっているから,そこまで対応はしてないと思います。むしろ,万が一出たらどうするかな?くらいな感じで勉強している人がせいぜいでしょう。そうすると,出題されても多くの人ができない問題となりますので合否を分けるような問題ではないですし,基礎的な問題では当然ありません。そのため,そこに時間をかけるよりも,基礎基本の問題,合否を分ける問題を集中的にやり,合格可能性を上げる方が優先順位が高く,法改正を負う余裕などないはずです。
この例外となったのが,民法改正です。これは判例の明文化のみならず,制度それ自体を大きく変更する改正(契約不適合責任や消滅時効など)もあり,その範囲を避けて出題することが困難だったのです。また,原則の変更や追加もあったりしましたのでやむを得なかったと思います。加えて,択一プロパーの知識の改正も多く,試験への影響回避はできなかったと思います。一方で,受験生側の対応も十分にできるだけの時間がありました。そもそも民法改正の議論自体は平成22年ごろから本格化しており試案が幾度となく出ていましたし,国会通過事態も平成29年と3年ほど前でした。そのため,多くの書籍や予備校の講義が出ていましたし,ロー入試の段階から改正法準拠だったりしているローもありました。したがって,例外的に試験に改正法を施行後すぐに出題しても問題ないとの判断があったのだろうと思います。
なお,個人的には令和2年はさすがに避けて物権法など改正のない範囲からの出題があるのでは?ともっていましたが結構大葉寿司してしまいました汗
4 今後予想される法改正で試験との関係で重要な点
今後試験に関係する法律の改正はいくつか想定されていますが,親子関係だったり民事裁判のIT化だったりと試験に直結するような内容のものは多くない印象です。ちなみに法改正がどんな感じで決まっているのかや,その現状については法制審議会のHPを参照するとたくさん出てきます。
個人的には担保法の改正は気になるところですが,まだまだ先になりそうですし。
また,きっかえとなった会社法の改正も主にコーポレートガバナンス関係が多く,論文での出題が考えにくい分野が多いのであまり気にしなくていいと個人的には思っています。気になる人は概要をグーグルで検索して複数記事を読んで条文を眺めるくらいで十分だと思います。
5 おまけ~判例変更と法改正
似たようなはなしとして,判例変更の話があります。これは法改正の場合と違って,論点ごとの話ですので追いかけやすいですし,択一でよく出るケースなので折っておいて損はないです。そもそも試験との関係がある論点での判例変更など,判例変更というレアケースの中でもさらにレアケースですので,さすがに情報収集をある程度していれば目に留まるはずです。近時だと,強制わいせつ罪でのわいせつ目的という超過的内心傾向は不要と変更した判例や,議会での発言に関して部分社会の法理を後退させた判例などがある程度です。
法律改正の場合は広範に及び対策が困難ですし,そもそもの根本規範が変わるわけで対応が難しいですが,判例変更の場合は別ということです。
なお,新規の判例が出た場合も追いかけやすいので見ておくといいでしょう。判例法の国なら,条文が追加された的な話になるわけですし一応という程度ですが。
6 さいごに
長くなったので、結論をまとめると
・法律改正に関しては私見との関係では原則気にしなくてよい。
・大幅改正の場合は注視が必要だが,試験で直ちに出題されるようなことは少ない
・判例の場合はしっかり確認しましょう
ということになります。
以上、長文になりましたが、法律改正にどう対応するの?という点に関しての私見になります。参考になったなら幸いです。
今後もニッチな記事や、採点実感などをアップしてくつもりです!年内にワードプレスの独自ブログへ移行しますのでよろしくお願いいたします!