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ロック史に輝く名曲*

R20+  4000文字  1960年代~00年代 
ロック史50年からのベスト5  私的評価
※興味のないかたはスルーしてください※

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拙稿「The Police 20」で、「孤独のメッセージ」はロック史のなかで五指に入る名曲だ、と紹介したところ、当然のように身内から「他の 4曲は?」。その回答としてサブ企画 5選の作成にとりかかったのですが、予想外に文字数/文量が膨らみそうです。なので、こちらで一本の記事にまとめることにします。簡単なようでなかなか難しい、そしてロック・ファンなら誰だって一度は考えるテーマですね。

こういった名曲紹介で気を付けなければならないのは、絶対に斜に構えては駄目、ってことでしょう。むしろ、ベタなぐらい人口に膾炙したものを選ぶほうが適切です。時代を象徴するような、あるいは大きく世界を揺るがした楽曲は、結果的に誰もが知っていて当然ですから。そこに、リアルタイムでぼくが立ち会った感想を加味します。↑ はあくまで参考程度に。ローリングストーン誌自体が、そもそもペダンティックで権威主義っぽいので。

早速、ぼくの独断と偏見で進めていきます。個人的ロック史観の振り返りも兼ね、まるっと年代別にピックアップしましょう。

60年代「Satisfaction」

では、60年代から。ロック誕生の時代であり、世界的にベビーブーマーが青春期を迎えた、人口動態のうえでも活気のあった時代。ここで先にクリアーしなければならないのは、The Beatles および Bob Dylan をどうするか、ですね。両者の功績は、そもそもロックという狭い範囲には留まらず、西洋音楽全般に及びます。当時のクラシックとジャズを除いたすべてのジャンルはなんらかの影響を受けたわけで、「ロック史」よりも本来は「西洋音楽史」のコンテキストが正解なのでしょう。また、逆に両者をノミネートすると、それならどの曲をエントリーするのか、どの活動期を重視するのか、等々よけい選択基準がややこしくなります。というわけで、まずはこの両者に敬意を表しつつ、観覧席の玉座にお座りいただきます

次はロックの定義。やはりロック誕生の時代だけに、これは押さえておきたいですね。 精神性としては「反体制・反骨心」、音楽性としては「エレキの存在感」、情緒的には「若い衝動」、学術的には「社会のオルタナティブ足らんとする新世代サウンド」。この 4条件は必須かな。そうすると 60年代の名曲も見えてきますね。The Rolling Stones「Satisfaction」Jimi Hendrix「Purple Haze」の二択。

妥当なのは「Satisfaction」でしょうか。ジミ・ヘンは「ハードロック史」なら文句なく選ばれると思います。実はロック史のひとつの側面が、電気楽器による音量アップ化の歴史でもあるのですね。そういう意味では、ジミ・ヘンがエレキでもたらした革命は銘記されるべきですが。

70年代「Bohemian Rhapsody」

どんどん行きましょう。ロックが進歩したといわれる 70年代前半は Led Zeppelin が君臨したハードロック & わが青春のプログレ全盛期、後半はパンクからニューウエーブ/ポストパンクへの端境期。一曲だけに絞るとなると、いちばん悩ましい時代かもしれません。アルバムではなく楽曲、というのもミソ。それぞれの代表曲を挙げてから最後にフルイにかけようと思いましたが、この手法ではまったく駄目でした、正味の話。

そこで、コペルニクス的な逆転の発想。ありました、ありました、70年代サウンドの特徴を体現するドンピシャの一曲が。Purple や Zep のハードロック第一世代からは「甘っちょろいヒヨッコ」に扱われ、ちょっとだけ乗り遅れたプログレのうるさいファンからは「エッセンスはいいのに中途半端だ」と揶揄され、そうかと思えば、後続のニューウエーブ・シーンからはヘアースタイル (ファッション) までが駆逐対象の守旧派ロックと見做されたバンド。どのジャンルにも「いっちょがみ」でありながら、どのジャンルからも村八分にされた迷曲、そう、Queen「Bohemian Rhapsody」

往時の「迷曲」が数十年の歳月を経て「名曲」になるから、歴史って面白いですね。上述した中途半端な諸要素は、結果的には歴史のノイズのように忘れ去られ、反対に、さまざまなジャンルの美点を融合した卓越性として再認識されます。恐るべしサブスク時代の映像化、恐るべし「勝てば官軍」。冗談はさておき、最近のイギリス人によるアンケート「最愛のロック曲」の類いでも、必ずベスト 3 には入りますね。

80年代「Message In A Bottle」

そして「孤独のメッセージ」、The Police の 80年代です。厳密に言うとこの曲、リリースされたのは 1979年なのですが、ニューウェーブは便宜的に 80年代に含めてしまいますね (The Clash「London Calling」1978も、パンクというよりは The Police と同様の扱いです、ヨロシク)。

80年代というのは、ロックが商業化・大衆化した時代です。MTVの流行もありますが、世界規模で到来した大量消費社会のありようが、その最たる理由だったのでしょう。マーケットの支配が音楽業界にも及び、ロックも立派なビジネスとして取り込まれます。そして「産業ロック」という嘲弄すらもはや意味をなさないほど、大物バンドが次々とデビューしては成功を収めたのです。プロダクツの面から見ると、したがって 80年代は誠に豊作です。音質面での向上、充実したジャンルのリフレーミング、等々それこそ百花繚乱のごとく名作・名曲が勢揃い、なんといっても、この時代の成功にはマーケットの裏付けがあるので、現在でも大御所として現役を続けるベテランがたくさんいます。60年代に誕生したロックが結実した黄金期。

しかし/だから、ここでは、誰もが思い浮かべる「あのバンド」も「あのアーテイスト」も、敢えて名前を伏せています。完成されたフォーマット上のパフォーマンスは、たとえどんなに秀でていても、0 から 1 を産みだす創造性とは決定的に異なるからです。つまり、そんなデリケートな部分をもまとめて引き取ってもらえるのが、The Police ってこと。ロックの定義に照らしても、彼らのリズム革新は真に偉大だったと思います。

90年代「Smells Like Teen Spirit」

で、当然やってきます、豪華絢爛たる 80年代の反動が。ショービジネス化され、大手メディアまで巻き込んだメジャー産業に反旗を翻した 90年代。インディーズの台頭、ロック精神の原点回帰、グランジの大ブーム、とくればやはりこの時代を象徴するのは、この曲しかありません、Nirvana「Smells Like Teen Spirit」。ぼく的には判官びいきで Sonic Youth を推したいところですが、如何せん、社会的インパクトが違い過ぎますね。

面白いのは、インディーズの後押しをした若者たちがベビーブーマーの二世だったこと。日本で言うなら「団塊ジュニア」、かつて親世代がロックを産んだように、子世代はロックを取り戻したのです (やはり世の中が動くときにはそれなりの力学的ヴォリュームが要るようです)。さらに付け加えると「Smells Like Teen Spirit」はオルタナでありながら、なかなかのおやじキラー・チューンでした。ローリングストーン誌が選ぶ「最も偉大な500曲」でも、たしかベスト 10 には入っていたはずで、この後さらに多様性の時代になると、○○リバイバルとかネオ○○とかが続々と生まれました。その走り、という見方もできるわけです。そういう意味でも、この曲のシンプルさこそがロックの精髄かもしれません。

00年代「Faint」

オルタナティブの流れを引き継いだまま、一方では IT の発達によってより多様性を深めていった 00年代。かつてのように、世界規模の一大ムーブメントは起こりづらくなります。そのぶん、リニューアルされたジャンルごとにコアなファンが集い、それぞれが独自性を磨きながらサウンドの相互作用/充実が図られます。90年代からすでに見られたミクスチャーの方向性もむしろ当然で、ヒップホップが台頭したり、マイノリティーがシーンのド真中で存在感を表したりするのも、この時代の特徴 (最大のマイノリティーはもちろん女性ですよね)。いわばジャンルのリフレーミングが常態化します。そのなかでスタジアム・ロック/ラウド・ロックの王道を極めたのが、Linkin Park と言っていいでしょう。

ニューメタルにヒップホップを融合させたサウンドは、新しくて古い (懐かしい) 陶酔感。IT の波及力が、主観の違いによるジャンル細分化の時代にあっても、桁違いの支持層を獲得します。要するに、彼らのセールスは新世紀におけるロックの復権を印象付けた感さえあったのです。その象徴でもある熱狂的ライブ定番のアンコール曲が「Faint」、古典的なギターリフからのシャウトは、爆音を超えた美に迫ります。

いかがでしょうか。駆足でざっと 50年間を振り返りましたが、ピックアップした 5曲、きちんと各時代を表しているでしょうか。悩んだときは冒頭に挙げたロックの定義に立ち返り、万人が知っている楽曲を、とその都度みずからを律したつもりです。こうして俯瞰すると、特にギター音の変遷に注意してみると、そこそこ正しく時代性を映しているかな、とも思います。「なぜ 2010年以降がないのか」については、はっきり言ってサブスク時代になっちゃったからですね。ぼくの批評眼ではもう太刀打ちできない、まったく新しい価値基準が必要とされているからです。

最後に白状しますが、ぼくは右利きです。つまり、本稿に記した「ロック史の五指に入る名曲」は右手の五指という意味です。なので、おまけに左手の五指に入る名曲も付記しておきましょう。ロックは常にオルタナティブを志向するので。

60年代「Purple Haze」Jimi Hendrix
70年代「Stairway To Heaven」Led Zeppelin
80年代「Beat It」Michael Jackson
90年代「Don't Look Back In Anger」Oasis
00年代「Poker Face」Lady Gaga

原題表記

それでは、また。
See you soon on note (on Spotify).


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