「スパダリちゃんと恋する4人の乙女たち」 第3話 あすか編 part2

○あすかの家・2階・あすかの部屋(夜)
暗い部屋の中、PCモニターだけが煌々と光っている。その前にはゲーミングチェアに座るあすかとその横に立つ碧。
碧「いいじゃん、陰キャ」
驚いた表情になったあすかはヘッドフォンを外して碧を見る。
あすか「はぁ?」
碧は真っ直ぐにあすかを見つめる。
あすか「それ本気で言ってんの?」
碧「分かんない!」
笑顔で答える碧に困惑気味の表情になるあすか。
あすか「は?」
碧「小学生の頃のあすかも陰キャだったかもしれないけど、今とはまた違ったでしょ? だから分かんない」
あすか「もしかしてバカにしてる? 私のこと」
碧「違うよ、まずは知りたいんだ、今のあすかのこと」
両手を広げる碧。
碧「昨日今日で色々したけど全然今のあすかのことは分からなかった」
あすかに顔を近づける碧。
碧「だから直接確かめることにしたんだ、今のあすかを」
顔を赤らめて逸らすあすか。
あすか「何それ。じゃあよく分かんないのに陰キャでいいって言ったってこと?」
碧「うん、まずは今のあすかを受け入れようと思って」
PCのモニターを見る碧。あすかの表情が消えるも、碧はそれに気づかない。
碧「FPSよくやるの? これ何てゲー――」
あすか「(小声で)出てって」
碧「ん、何?」
怒りを溢れさせた表情で碧を睨みつけるあすか。
あすか「出てって言ってんの! ウザイよ、アンタ」
碧を押してドアまで連れていくあすか。
碧「あ、ちょ、あすか。何で?」

○同・廊下(夜)
あすかはドアを開けて部屋から碧を追い出し、碧の鞄を投げつける。
碧「あすか!」
あすか「もう近寄んな、偽善者」
ドアをバタンと勢いよく閉めるあすか。
手を降ろし、顔を伏せる碧。別の部屋のドアが開いて晴恵が顔を覗かせる。
碧は顔を上げ、苦笑して自分の後頭部に手を当てる。
碧「えへへ、追い出されちゃった」

○同・あすかの部屋(夜)
怒った表情のあすかはゲーミングチェアに座り、FPSゲームをプレイしている。キーボードを叩く音とマウスさばきが荒くなっている。
あすか「何なんだよあいつ! バカにしやがってバカにしやがって……」
バババとゲーム画面のあすかの自キャラが銃を乱射している。 
あすかの目から涙が溢れる。
あすか「もうそのやり方じゃ、ダメなんだよ」

○同・あすかの部屋(朝)
テロップ・day3
 あすかはゲーミングチェアに座りFPSゲームをプレイしている。PC画面にはゲーム画面の他に、あすかのアバターであるVtuberとコメント欄が見えている。
あすか「おらっ、血祭りじゃ!」
目の下にクマを作ったあすかは目を充血させながらプレイを続ける。
コメント欄には「今日ちょっと様子おかしくね?」「バーサーカー化した?」などコメントが流れている。
ゲーム画面では次々と敵があすかのキャラの銃弾で倒れていくも、あすかのキャラも被弾して倒れる。
あすか「あぁ、クッソ!」
あすかはヘッドフォンを外してモニターに投げつける。
コメント欄には「やべぇ、やべぇよ」「本当に大丈夫?」など心配の声があがってくる。
あすかはコメント欄を見てモニターを睨みつける。
あすか「もう今日は終わり。お前らもいい加減寝ろよ。アデュー」
あすかは配信を切ってPCの電源を落とす。
あすか「ふぅー」
深く息を吐くあすか。椅子から立ち上がって碧が寝ていた布団を見る。あすかはゆっくりとその布団に近づいていって布団の上に座る。
あすかは無表情で布団を手でさする。
そこに晴恵がドアを開けて顔を覗かせる。
晴恵「あーちゃん、ゲーム終わった?」
晴恵に見られたことで自分が布団をさすっていたのに気づいたあすかは顔を赤くする。
あすか「あ、これは違うから! 布団出しっぱなしだったからここで寝ようかなーって、あはは」
晴恵「? 何言ってるの? 朝ごはん出来てるから下来なさい」
晴恵は顔を下げてドアを閉める。
あすかは更に顔を赤くして布団に顔を埋める。
あすか「あー、何意識してんだ私ー」

○同・1階・リビング(朝)
テーブルにあすかと晴恵が座り、朝ごはんを食べている。テーブルから見える神棚にはあすかの父の遺影が見える。
晴恵はパンツスーツ姿。
晴恵「あーちゃん、いつも言ってるけど夜中にあんまり大声出しちゃダメだよ」
晴恵の顔色を伺いながらご飯を食べ進めるあすか
あすか「うん」
晴恵「それと、ピコピコするのは止めないけど朝までやるのは体に悪いから止めようね」
あすか「う、うん」
チラと晴恵の方を見るあすか。
晴恵「それとあ……」
あすか「!」
晴恵「ラスカ旅行って一回行ってみたいよねぇ」
こけそうになるあすか。
晴恵「フフッ、っていうのは冗談。やっぱり気になったのね、碧ちゃんのこと」
少し顔を赤くして不貞腐れた表情になるあすか。
あすか「はぁ? 気にしてないよ、あんな失礼な奴」
晴恵「すっごい謝ってたよ、碧ちゃん。あーちゃんを傷つけちゃったって」
あすか「ふーん」
晴恵「少し前に学校行かなきゃって出てったから」
あすか「そう、真面目なことで」
晴恵「何があったか知らないけどさ」
頬杖をついてあすかを見る晴恵。
晴恵「最近のあーちゃん。少し元気だったよ。それって碧ちゃんに会えたからじゃないの?」
あすか「元気。私が?」
立ち上がって鞄を肩にかける晴恵。
晴恵「そう。だからもーちょっと素直になってもいいんじゃないの?」
近づけた親指と人差し指を目を細めた顔の前に持ってくる晴恵。
晴恵「じゃ、もう出るから食器洗っといてね」
手を振ってリビングを出ていく晴恵。
顔を晴恵のいたほうとは逆に向けてムッとした表情のあすか。
あすか「うるさいなぁ」

○同・2階・あすかの部屋(夕)
掛け布団を足で隅に放ってベッドで大の字で眠るあすか。
家のチャイムの音が鳴りあすかは目を開ける。
窓には夕陽が差し込んでいるのが見える。あすかがドアの方を睨みつけると再びチャイムの音が鳴る。
丸まって再び目を閉じるあすか。
あすか「配達なら再配で」
暫くすると何度もチャイムが鳴らされる。
あすか「うーん、もうっ」
寝ぐせの付いた髪を掻きながら不機嫌な表情で起きるあすか。またチャイムが鳴ってハッとする。
あすか「もしかして……」
あすかは急いで私服に着替え、鏡を見て髪を手櫛で無理矢理直し、慌てて部屋を出ていく。

○同・1階・玄関・中(夕)
玄関前に立ってふぅーっと息を整えるあすか。
あすか「よし」
ドアを開けるあすか。
あすか「昨日の今日でまたきたの? まぁ昨日はちょっと私も言い過ぎちゃ――」
インターホンの前を見ると、そこには陽菜が立っており、あすかは喋りが止まる。
陽菜「あ、やっと出た♪ いるならもっと早く出てよねー。寝てた系?」
陽菜の顔を見てうっという表情になるあすか。
あすか「二宮さん、なんでウチに?」
陽菜「えー? 連絡先知らないから直できた。その方が間違えないじゃん?」
あすか「いや、連絡とる必要ある?」
陽菜「えー、ちょっと冷たくなーい? あの後碧とどうなったかエグイ気になるじゃん」
あすか(そんなゲスい理由よく恥ずかし気もなく言えるな。しかもわざわざ家まで来るとか。陽キャの行動力何なん?)
あすか「何もないよ。はい、終わり」
あすかがドアを閉めようとして慌てて陽菜が駆けてくる。
陽菜「ちょちょちょ!」
あすか「何? まだ何か?」
陽菜「いや、絶対何もないわけないじゃん! 積もる話もあるだろうからさ、出かけない? ちょっとそこまで」
親指で外を指す陽菜。
あすか(え、何言ってんだコイツ? 急にウチきて出かけようって頭――)
陽菜「譲羽もくるよ」
あすか「行きます」

○街中・喫茶店外観(夕)
レンガ調の見た目の喫茶店に夕陽が差し込んでいる。

○同・店内(夕)
あすかと陽菜がテーブル席に向かい合って座っている。
店内は半分ほど埋まっている。
あすかはマスクを着けていて少し顔色が悪い。
あすか(ゆずゆずって聞いて反射的に行くって答えてしまったぁ~!)
陽菜は立ち上がって入口の方に手を振る。
陽菜「あ、きた! 譲羽、こっちこっちー!」
ハンチング帽にマスク姿の譲羽があすか達の座っている席にやってきて陽菜の隣に座る。
譲羽「ちょっと、そんなに大きな声で呼ばないでくださいよ~」
譲羽はマスクを外す。
陽菜「あーゴメンゴメン」
笑顔の陽菜。
あすか「マ、マジできた……」
陽菜「あの日ちょっち仲良くなって。ねー」
譲羽「はい」
あすか「コ、コミュ力お化け……」
陽菜「んでんで、譲羽も来たことだし、教えてよ。あれからどうなったか」
あすか「え……」
あすか(どうしよっかな。そのまま話したら私、ただの嫌な奴だし。でもゆずゆずに来てもらったのに話さないわけにもいかないしなぁ。あぁ、っていうかやっぱ客観的に見て私って最低だよな……)
俯いて一人ぶつぶつと自問するあすか。
陽菜「ん、どったの?」
あすか「あ、いや、えーと、その……」
だらだらと冷や汗が流れてくるあすか。
あすか(どうしよどうしよどうしよ)
目がグルグルしてくるあすか。チラと横を見ると。
窓越しに外から碧がこちらをのぞき込んできている。
あすか「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」


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