「スパダリちゃんと恋する4人の乙女たち」 第2話 あすか編part1

○舗道・外
赤面したあすかは笑顔の碧に強く手を握られ一緒に歩いている。
あすか「ちょっとあお――」
碧「久しぶりだね、こうやって一緒に帰るの」
あすかはフラッシュで小学生の頃に碧と帰っていた頃のことを思い出す。ランドセルを背負ったあすかと碧は手を繋いで一緒に帰っている。その頃も碧があすかを先導していた。
現代に戻り、少し嬉しい表情になって碧の手を握り返すあすか。
あすか「うん……」
暫く手を握ったまま歩いてあすかはハッと我に返る。
あすか「って、そうじゃなくて!」
あすかは勢いよく碧から手を放す。
あすか「危ない、そのままノせられるところだった」
碧「えーなんで? 久しぶりに一緒に帰れて嬉しいでしょ?」
あすか「嬉しいとか、それ以前に……どうして女の子だって隠してたの?」
碧「隠してるつもりはなかったんだけどな」
あすか「隠してるつもりがなくても、どう見ても男の子だったし」
碧「えー、そうやって見た目で判断するのはよくないと思うなー」
碧はあすかに顔を近づける。
碧「それに、逆に今は女の子みたいな見た目にしてるだけで本当は男の娘かもよ?」
あすか「え?」
ドキッとして急激に顔が赤くなるあすか。
碧はあすかから顔を遠ざける。
碧「なーんてねっ」
ウインクする碧。
あすか「うぅ」
碧「ゴメンゴメン、でもよかった。やっぱりあすかは僕とだと自然に話せるね」
あすか「あっ」
碧に言われて普通に話していたことに気づき、ハッとした表情になるあすか。
あすか「そんなの、碧が変な話ばっかりするからでしょ」
碧「でも話せた」
あすか「うん、まぁ」
碧「じゃあ一歩前進だね。早速前みたいに話せるようになって嬉しいな♪」
あすか「はぁ」
あすかはため息をつき、碧の前を通り過ぎて一人で歩き始める。
碧「あ、どこ行くの?」
あすか「付いてこないで」
碧「何で? あの頃みたいに一緒に帰ろうよ。会えなかった間の話とかも聞きたいし」
あすかはショックを受けた表情になり、一気に顔色を曇らせる。碧にはその顔は見えない。
あすか「会えなかった間の話?」
碧「うん。積もる話もあるでしょ?」
目は笑わず、口角だけ上げて笑うあすか。
あすか「へっ」
あすかは自嘲気味な笑みを碧に向ける。
あすか「碧は見た目が変わってもちやほやされて過ごしてきたんでしょ? そんな雲の上の存在に話せるような大層なエピはないよ」
再び碧に背を向け歩き始めるあすか。
あすか「碧に会えれば何か変わると思った私がバカだった」
碧「あっ、あすか」
あすかは立ち止まらずそのまま早足で歩いて碧から遠ざかっていく。
碧「これは結構こじらせてるな」
自分の頭を掻く碧。

○あすかの家外観(朝)
テロップ・day1
家に朝陽が差し込む。小鳥のさえずりが聞こえ、自転車に乗った学生が家の前の道を通っていく。

○同・2階・あすかの部屋(朝)
薄暗い室内。閉められたカーテンから朝陽が薄く差し込む。ベッドではあすかが寝ている。
ピンポーンと家のチャイムが鳴るがあすかは動かない。もう一度チャイムを鳴らされ、あすかは少し目を開ける。
あすか「んだよ、うっさいなぁ。お母さん……はもう出てるのか……無視」
あすかは再び目を閉じるも今度は連続で何度もチャイムが鳴らされる。
あすか「あぁ、もう!」
あすかは不満そうな表情でベッドから出る。

○同・あすかの家・玄関・外(朝)
パジャマ姿に上着を羽織ったあすかが玄関のドアを少し開け外を見る。
あすか「はい……」
あすかの目の前に制服を女子制服を着た碧の姿が見える。
碧「やっと出てくれた! おはようあすか! そろそろ学校行かないと遅刻するよ」
あすか「碧!?」
驚いたあすかは勢いよくドアを閉める。
碧「あーすーかー!」
ドンドンと碧がドアを叩き、その振動はあすかにも伝わる。
あすか「何でウチの制服着てるの?」
怯えた表情になりその場に座り込むあすか。
碧「早くしないと遅刻しちゃうよ?」
あすか「行かない!」
碧「え?」
あすか「なんなの? こっちの事情も知らないでずけずけと入り込んできて。私はもう学校に行ってないの!」
碧の口元だけが映り、口を開くも言葉が出ない姿が映される。碧はドアを叩いていた手を降ろす。
碧「……そう。ゴメン、嫌な気持ちにさせちゃったね」
しばらく静かになり、あすかは立ち上がってドアを少しだけ開ける。玄関には碧の姿はなくなっている。

○高校・門前・外
門に学校の銘板が掲げられている。門の奥には学校のグラウンドと校舎が見える。

○同・1年E組教室内
教室内では生徒達がいくつかのグループを作って集まって喋っている。碧は女子3人のグループと話している。
碧「ずっと来てない?」
女子1「うん。っていうかいたっけそんな子?」
女子2「私入学したての頃見たの覚えてるよ。ちょっと大きい子だよね? 喋ってるところは見たことないから全然どんな子か分かんないけど」
碧「そっか、教えてくれてありがと!」
女子3「ゴメンね、あんまり役に立てなくて」
首を横に振る碧。
碧「ううん、全然そんなことないよ。スッゴイ助かる。あ、それじゃよかったら学校のことも教えてもらえるかな? 私転入してきたばっかりでよくわからなくて」
女子2「うん、勿論!」
笑顔で女子グループと喋り続ける碧。

○あすかの家・2階・あすかの部屋(朝)
テロップ・day2
カーテンを閉めている薄暗い室内を、カーテンから漏れる朝陽が少し明るくする。
ヘッドホンを付けたあすかはPCでFPSゲームをプレイしている。
あすか(結局あれから碧、来なかったな。小学生の頃なら……)
頭を横に振るあすか。
あすか「いや、もう高校生だし。うん……?」
カーテン越しに揺れる影を見てハッとするあすか。
あすか「そこか!」
あすかが素早くカーテンを開くも、そこには風に揺れる木の枝があるだけだった。顔を赤くするあすか。
あすか「何やってんだ私」
あすかはヘッドフォンを外してベッドで横になる。
あすか「今日も徹夜でFPSしちゃったから疲れたんかな。とりま寝るか」
×   ×   ×
あすかが目を開けると、すっかり陽が落ち、部屋の中は真っ暗になっている。
あすか「あ、またやっちゃった……」
あすかはゆっくりと体を起こすと頭を掻いて立ち上がる。
あすか「お母さん帰ってきてるかな」
あすかはドアを開いて部屋を出ていく。

○同・1階・リビング(夜)
リビングの椅子に碧が座っているもスルーして台所に向かうあすか。
あすか「あ、お母さん帰ってた」
台所で料理をしている金沢晴恵(45)があすかの方を見る。
晴恵「あ、あーちゃん丁度よかった。ご飯運んでくれる?」
あすか「うん」
×   ×   ×
夜ごはんを食べるあすか、碧、晴恵の3人。

○同・2階・あすかの部屋(夜)
ベッドに入るあすかと部屋の照明のリモコンを持つパジャマ姿の碧。
碧「電気消すよー」
あすか「うん」
部屋の電気が消され真っ暗になる。
あすかが電気を再び点ける。
あすか「いやいや、自然過ぎて流しそうになったけど何で当たり前のようにいるの!?」
碧「え、ダメだった?」
あすか「ダメだよ! なんで「この家の子ですけど」みたいな顔してんの!?」
碧「昔はよく泊まってたじゃん」
あすか「それは昔でしょ。もう、帰ってよ」
部屋から碧を押し出そうとするあすか。
碧「こんな真夜中に女の子を一人夜道に放り出すの?」
ウルウルした瞳であすかを見る碧。
あすか「うっ、それは……」
続けてあすかを見続ける碧。
あすかは諦めたような表情になる。
あすか「はぁ、仕方ない。今日は泊まってっていいよ」
碧「わーい、やっぱりあすかは優しいね」
あすか「おだてても何も出ないよ」
あすかはリモコンで部屋の電気を消す。
碧「お休みあすか」
あすか「うん……」
横になる二人。あすかは目を瞑るも、すぐに目を開いてしまう。
あすか(気になって眠れない! ワンチャンまた突撃してくるかなと思ってたけど初手で泊まるかフツー?)
あすかは寝返りを打って布団で横になっている碧を見る。
あすか(あー、ダメだ)
あすかはベッドから出て机に向かい、PCを起動させる。
ヘッドフォンを付けようとしてあすかは後ろを見るも、碧は横になったまま。
あすか(もう寝たのか。まぁその方が集中できるからいいけど)
FPSゲームをプレイし始めるあすか。キーボードとマウスの音だけが響くようになる。
×   ×   ×
モニターを見てガッツポーズをするあすか。
あすか「よっしゃ10キル! 今日は調子いいな!」
慌てて口を塞ぎ、後ろを見るあすか。布団には碧はおらず、モニター側に頭を戻すとすぐ隣に碧がモニターを見ている。
碧「あ、FPSやるんだあすか」
あすか「きゃぁぁぁぁ!?」
驚いて椅子から落ちそうになるあすか。
碧「おっと」
碧があすかの腕を引っ張って背もたれに戻す。
あすか「何で急に横いんの!?」
碧「あすかが楽しそうにしてる声が聞こえたから」
碧を睨み、ヘッドフォンを付けるあすか。
あすか「そうですよ。私はこうゆう人撃つゲームで楽しんでる根暗ヲタですよ」
碧「再開してから一番の笑顔だった」
再びキーボードを操作してゲームに戻るあすか。
あすか「そうですよ。人と話すのが苦手な自分はこうやってFPSしてるのが一番楽しいんですよ。ゴメンなさいね、こんな陰キャで」
碧「いいじゃん、陰キャ」
驚いた表情になったあすかはヘッドフォンを外して碧を見る。
あすか「はぁ?」


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