猫が書きました(事実)
ジャングルジム
買ったばかりのたい焼きを、公園のベンチで、ふたり並んで食べ始めた。園内では、近所の子どもたちが遊具で元気よく遊んでいる。
「……あれ?」
「なに?どうしたの?」
「いや、ジャングルジムって、あんなに低かったっけ?うちの小学校のやつ、もっと高かった気がするんだけど」
「そう言われれば、確かに。でも、あれじゃない?落ちて事故が起きたら、市の責任が~ってやつで、低めにしてあるとか」
「ああ、なるほどね」
「よく遊んだ?ジャングルジム」
「まあ、人並みにはね。でも……」
「でも?」
「一番上まで登ったことはなかったと思う」
「どうして?怖かったの?」
「まあ、それもあるけど……たぶん、興味がなかったんだと思う」
「興味?」
「一番上に登るとか、みんなより早く登るとか。そういう“競争”みたいなのが」「じゃあ、どうやって遊んでたの?」「確か……仰向けになって、真っ直ぐ横に進んだ記憶がある」
「なにそれ?」彼女が吹き出した。
「そんな子いる?」
「いるさ。日本のどこかには。僕の周りにはいなかったけどね」
「『何やってるの?』って、友だちに言われなかった?」
「言われた。でも、やめなかった。それが“いい”って思ってたんだ。要するに、普通なのが嫌だったんだよ。みんなと同じやり方じゃなくて、自分だけのやり方で遊ぶのが楽しかったんだと思う」
彼女は、ニッコリ笑った。
「あなたって、子どもの頃から、ずっと“あなた”なのね」
「なにそれ。成長してないってこと?もう子どもじゃないぞ」
「そうじゃなくて……まあ、いいけど」「そうだ。せっかくだから、どんなふうにやったか見せてあげようか」
僕は立ち上がって、子どもたちが遊ぶジャングルジムに向かおうとした。
瞬間、彼女が僕の腕を掴む。
「おやめなさい。たい焼き、もう1個買ってあげるから」
「も、もう子どもじゃないぞ」
「ハイ、ハイ」